【Y】第46回ザ・ヤングサロン 「東南アジアをめぐる国際関係と日本」の講演会を開催

 2023年10月22日(日)多摩図書館2階セミナー室にて39名参加の下、第46回The Young Salonを開催。講師として東京国際大学国際関係学部教授小笠原高雪氏(国分寺三田会会員)をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。
小笠原高雪氏は、S58(1983)年慶應義塾大学法学部政治学科卒、1989年同大学大学院法学研究科博士課程修了、
日本国際問題研究所研究員、シンガポール大学客員研究員、ベトナム社会科学院客員研究員を経て1996年北陸大学法学部助教授、2002年山梨学院大学法学部教授、2022年東京国際大学国際関係学部教授(現職)。わかりやすい説明で理解を深めることができました。また、活発に質疑・討議も繰り広げられました。新型コロナ感染症には万全を期した上で懇親会も実施しました。講演の概要は以下の通りです。

                        記

1.自己紹介
 講師の中高生時代は「激動の七十年代」といわれたとおり、サイゴン陥落、日中平和友好条約締結、米中国交樹立、中越戦争等々、アジア情勢が大きく動いた時代であった。国際問題に関心を抱き、慶應の政治学科に進学し、神谷不二教授のもとで国際政治学を専攻した。

2.東南アジアはどういう地域か?
 東南アジアは文化的に著しく多様な地域である。半島部(大陸部)と群島部(海洋部)とで異なるし、11ヵ国の国別でみても異なるが、一国の内部にも多様性が存在している。たとえばシンガポールは東京23区ほどの広さの都市国家だが、主要民族である中国系、マレー系、インド系の母語に共通語の英語を加えた4つの言語が流通している。こうした多様性の背景には、東南アジアがインド洋と太平洋を結ぶ位置にあり、海上交易をつうじてインド、中国、イスラム、ヨーロッパなどの影響を受けてきた歴史がある。全体を包括する帝国が出現しなかったことも多様性を促した。
 それほど多様性に満ちた東南アジアが果たして一つの地域なのか、という疑問もありうる。実際、国際社会で東南アジアという呼称が公式に使われたのは1943年のSEAC(東南アジア司令部)が最初であり、1954年にもSEATO(東南アジア条約機構)が発足をみた。これらはいずれも、重要な海上航路や天然資源を擁する東南アジアを東アジアの大国に支配させないという英米の戦略の所産であり、その行き着いた先が1960年代後半に本格化するベトナム戦争だった。こうしてみると、東南アジアはもともと、外部から設定された枠組の名称であったことになる。

3.ASEANは何をしてきたか?
 1967年のASEAN(東南アジア諸国連合)の結成は、外部から設定された東南アジアという枠組を、地域の諸国が内部から充足してゆく過程の始まりであった。その背景には、英米の勢力後退により、地域協力の必要性と可能性が高まったという事情があった。1960年代前半のマレーシア紛争はそうした変化の明白な予兆であった。1965年の九・三〇事件を契機としてインドネシアがスカルノの革命路線からスハルトの建設路線に転換すると、周辺諸国はインドネシアを取り込んだ地域秩序の形成へ動き、インドネシアもそれを前向きに受け入れた。ASEANは加盟国が紛争の平和的解決を確認しあうための枠組であり、それによって各国政府は国内開発に専念しうることとなった。
 こうしてASEAN諸国は戦乱にあえぐインドシナ諸国と対照的に近代化の道を歩みはじめ、そこへ日本がODAを集中的に投入した。ASEAN諸国に対し、軍事的にはアメリカが保護を与え、経済的には日本が支援を与えた。日米は冷戦下の東南アジアで実質的な分業を行なったといえる。

4.日本はどう関わってゆくのか?
 以上の状況は1990年代初頭の冷戦終結によって変化するが、それを決定的にしたのが2001年の二つの出来事だった。一つは中国のWTO加盟であり、中国の大国化に弾みがついた。もう一つは9/11事件であり、アメリカはテロとの戦いに多大の精力をとられることとなった。この二つが重なった結果、東南アジアにおけるアメリカと中国の力関係は中国の優位に傾いた。中国の海洋進出、とりわけ南シナ海の軍事化は、そうした変化の結果であった。中国には、東南アジアの相当部分を自国の勢力圏とみなすような歴史観が存在している。東アジアと区別された地域としての東南アジアが存続しうるかどうか、それが再び問われる状況となっている。
 この重大な局面で、ASEANの機能はむしろ低下している。それには冷戦後の加盟国の増加、結成当初の指導者の退場、ミャンマー問題の足かせなどが関係している。とくに中国との関係では、対中依存の大きいカンボジアなどの対外姿勢が、ASEANの一致結束を困難にしている。
東南アジアは現在、中国の「一帯一路」戦略とアメリカの「インド太平洋」戦略とが交錯する舞台となっている。日本はこれまで、経済協力をつうじてASEANの一体性を側面支援することに力を注いできた。日本のODAはASEAN諸国から肯定的な評価を得ており、日本に対する信頼感はきわめて高いといえる。近年の日本はさらに、安全保障協力にも乗り出している。フィリピンとの外務・防衛大臣会合、ベトナムのカムラン湾への艦船寄港などがその例である。
 日本と東南アジア諸国とが協力しうる分野は、以上に尽きるものではない。とりわけ防災減災、省エネ技術、高齢化対応などでは、課題先進国としての日本は東南アジア諸国に提供できる多くのものをもっている。高齢化は東南アジア諸国でも始まっているが、日本はとくに深刻であり、社会の国際化をさらに進めなければ国際競争力を維持できないことが明白となっている。そうした点では、多様性に満ちた東南アジアの諸経験から、日本は多くのことを学べるであろう。

5.質疑応答
・ASEANの全会一致の進め方の限界について、ミヤンマー、カンボジア、ラオスの加盟の是非はどうか?
 ⇒ASEANの拡大にはメリットもあったがデメリットもあった。多数決方式も一部で試行されているが、主権尊重、
  内政不干渉、コンセンサス重視の基本は変わっていない。
・インド太平洋と日本、東南アジアの安全保障について、今後の見通しは?
 ⇒安全保障ではASEANへの大きな期待はできない。日米同盟に加えてQUAD(日米豪印安保協力)などを活用して
  の抑止力の強化がさしあたり現実的であろう。
・ODAにおけるインドネシアについて、新幹線建設を事例に中国の台頭を懸念。
 ⇒ASEAN諸国はいずれも自国の国益が最優先であるし、国益以上に政権の利益が優先されるケースも少なくない。
  中国はそこを巧妙に突いてくるので対応は容易でない。
・ミヤンマーを事例に国家のありかたについて「人と人」の個人的繋がりでは隔たりがないが、国になると紛争が起こ
 る。日本は「人と人」のつながりを大切にしてはどうか?
 ⇒人間は集団を作るものだが、地球規模の集団は現実的でなく、複数の集団の共存となる。そして集団と集団の間で
  は、組織目標の相違からくる競争や対立を避けられない。人と人の関係は大切にすべきだが、それで国家間の競争
  や対立が解消することはないであろう。司馬遼太郎の南ベトナム旅行記である「人間の集団について」はそうした
  問題を考えるうえで参考になると思う。                              以上

【Y】第45回ザ・ヤングサロン 社会に目を向けよう「SDGsに関する慶應義塾中等部の取組み」を開催

2023年7月16日(日)多摩図書館2階セミナー室にて22名参加の下、第45回The Young Salonを開催。講師として慶應義塾中等部教諭中村宜之氏(SDGs推進担当)をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。中村教諭は、2000年に塾理工学部応用化学科を卒業、中等部の非常勤教諭を勤めながら、早稲田大学教育学部教育学科専攻を2002年に卒業され、2002年4月から中等部理科教諭、現在はラグビー部顧問、SDGs委員長、3年生の担任もされています。新型コロナ感染症には万全を期した上で懇親会も実施しました。講演の概要は以下の通りです。
                     記
1.中等部とSDGs
慶應義塾中等部(以下中等部)は戦後日本の体制が変わった1947年に慶應義塾初めての男女共学の一貫校として開校。当時の先生方がなるべく自由な空気をと考えたことから今でも風通しのいい教育を考えている。
私は中等部で2年間の非常勤講師を経て2002年に常勤教諭となったが、当時の中等部部長(学校長)であった法学部平良木教授が環境先進国ドイツの状況を見て、中等部も環境問題に取り組むべきと考え、私をISO14001取得委員長に任命。苦しみながらも環境教育を題材として2005年にISO14001の認証を取得。しかしISOは実際の授業との関りが少なく、もっと実践的なものを模索していた。
2019年5月学校林のある岡山県真庭市を訪問。真庭市は間伐材を使ったバイオマス発電で町の電力を賄うなど官民一体で山の町の良さをSDGsの視点から捉え直し、日本初のSDGs未来都市に選ばれていた。ここでSDGsに感銘を受け、更に日本のSDGsの第一人者で慶應義塾大学大学院の蟹江教授より、2015年に国連で採択されたSDGsが日本で全然広まっておらず、子供たちが学校で学んでいくなかにSDGsが無いと実現できないので、中等部で扱うのであれば一緒にやりたいという話を伺い、2020年4月に3年生の選択授業として「SDGsのすゝめ」を開講。これに現中等部部長井上さんが興味をもち、木造案を含む校舎建替えの検討に絡めてSDGsのゴールである2030年の更に先まで繋がるテーマで校舎のことを考えようと、2020年11月のSDGs宣言に至った。

2.選択授業「SDGsのすゝめ」
初の教科横断の試みで、理科の私・社会科の足立さん・大学院の蟹江教授の3名で11人の生徒をみている。主な授業内容は①中等部のSDGs分析、②講演会・外部講師授業、③近郊見学
①中等部のSDGs分析
SDGsの17の目標、169のターゲットに対して自分達が関わっている18項目を選定、電気・ガス・水の節約とか基準服(制服)のリユース、学校林の間伐材の利用、寄附付き商品の考案、募金といった活動がどんな影響を持つか、環境問題をはじめ社会・経済問題にどこまで関わっていくかを子供達と一緒に考えて一覧表を作成。社会問題・経済問題・環境問題がSDGsの3つの柱だが、この表で中等部の活動は経済問題がやや薄いものの大体どの問題にも関わっているのがみえてくる。
トレーサビリティの考察では岡山の学校林の木材を使ったリサイクルボックスに関して、苗を植え、木を育て、伐採、製材、製作するまでがSDGsの169のターゲットのどれに該当するかを分析してもらった。また、自分達が使っている机やノート或いは販売しているペンケースやバッグがどこから来てどこに行くのかを分析するという作業をしたが、数多くのものをこうやって見るのは無理で、そこで出てくるのが認証制度の話。以来子供達も認証制度の大事さを理解し、お菓子やトイレットペーパーや包装紙の認証に興味を持つようになった。
②講演会・外部講師授業
いろいろな講演会で特に衝撃的だったのは、バリ島で各種事業をされていて社会問題を解決する為のプロジェクトに資金援助をしているEarth Companyの濱川知宏氏で、濱川氏からは逆に中等部はどれくらいエコな学校かと聞かれた。何もできていない実情を打ち明けると、それに気づけたならいいのではないか、この後中等部がどうなっていくかを今度聞かせて欲しい、と言われた。
アパレルブランドCLOUDY代表銅冶勇人氏はアフリカ旅行中に見たスラム街にショックを受け、現地のろうけつ染め布地を製品化して販売、売上の10%をアフリカへの寄付とし学校建設などに取り組んでいる。銅冶氏には、ただお金をあげればいいのではなくその先をしっかり見て欲しいという講演をしてもらった。これらの講演に触発されて始めたのがブランケットの作成やアフリカの布地を使ったペンケース・バッグの作成で、当初中国の工場で製造していたが、子供達の意見を基に現地製に切り替えた。
山櫻の市瀬社長にも講演を依頼した。同氏はSDGs最先進国のスウェーデンを度々訪問、EVが道路を走るだけで充電できるインフラを作っている等の最新情報を中等部に教えてくれている。
また、2020年に朝日新聞よりSDGsを広める為に英語で書かれている169のターゲットを日本語版とし、子供達のアイデアでキャッチコピーを作って欲しいとの話があり、最終的に慶應中等部・青山学院中等部など数校かの生徒が中心となって取り組み、横浜で発表会が行われた。
③近郊見学
中等部の近郊見学として、Apple銀座のビル内部の木質化、GINZA SIXの木質化と屋上庭園、松屋銀座のSDGs関連商品、ユニセフハウスの見学を実施。ユニセフハウスで「この地球は先祖からゆずり受けたものではない。未来の子どもたちから借りているものだ」との言葉に接して意識が変わったという子どももいた。今年は、カポックという植物の種の周りの羽毛のような綿を植物由来の原料として利用しようとしている宮下パークにある会社を訪問、実際のカポックの綿を使ったコートを見せてもらった。

3.学校行事
①遠足
江の島の海岸にゴミ拾いに行った。“面白いゴミコンテスト”を実施、また拾ったマイクロプラスチックを使って“KEIO75”の文字を作り、秋の展覧会に展示した。
“海のゴミは川から、川のゴミは街から、街のゴミは人の心から”(現地のキャッチコピーより)
②林間学校
昨年の林間学校は南三陸となった。宿泊したホテルが分水嶺に囲まれ片方が海であとの三方が山。その山に降った雨はすべて志津川湾に流れ込む。ここは暖流と寒流がぶつかる海藻が豊かな地域でラムサール条約湿地に登録されており、牡蠣の養殖が盛んでもある。
ここの山はFSC認証を取ってしっかりした管理がなされており、海はASC認証という養殖の国際認証を取っている。そんな地域に学校林があり、学校林を訪れながら現地のことを学ぼうと、海水で塩造りをしたり海藻で押し葉を作り、栞や葉書作りを体験してきた。
3日前にほかの学年が南三陸に行ってきたばかりで、最終日には語り部バスに乗って震災学習もしたとのことで、ちょっと遠くて費用もかかるが学習には最適な場所と思うし、この先も残せたらいいと思う。
③75周年講演会
75周年講演会では、中等部生二組の講演に続き、蟹江教授と元NHKクローズアップ現代のキャスターを務めていた国谷SFC特任教授のお二人にSDGsの講演をしていただいた。

4.学校林
日本全国に160haの学校林があり、我々が行っているのは西端の岡山落合の森と東端の南三陸志津川の森。
岡山にはブランドとして美作ヒノキが、南三陸には南三陸スギと、それぞれいいところがある。
岡山では結構活動していて、カラマツ・広葉樹それぞれの場所で間伐をしたり、北欧の教育プログラムであるLEAFプログラムに沿って葉っぱの匂いを嗅いだり触ってみたり、目をつむって何が聞こえるか感じてみたりして、最終的には森の役割は何かということをインストラクターが導いてくれるというようなことをやってきた。また今年の春に75周年の植樹として三重のヒノキを植林してきた。9月には生徒達と一緒に下草刈りに行く予定。
南三陸は学校林を含めてすべてFSCの森になっており、その認証を受けた南三陸スギでベンチや教卓を作ってもらった。この教卓は18校の教室すべてに置いてある。

5.教科などの取り組み
各教科の取り組みということで、家庭科・理科・美術科・選択授業等々それぞれが協力してやってくれている。家庭科では生ゴミをコンポストで堆肥化、理科では家庭の生ごみをミミズコンポストで液肥化、ミツバチの飼育と観察・環境づくりと蜂蜜搾り、美術科では環境漫画家の方の講演でポスター制作に関するアドバイスをもらい169のターゲットから一つを選んでポスターを作った。
選択授業で、書道の先生が新しくできた慶應義塾ミュージアムコモンズとのコラボレーションにより芸術とSDGsという視点で研究されている。
あと、これからの夏休みに地理研究会・社会研究会と一緒に岡山に行く計画を立てており、また料理と手芸の会が自分達で作ったお菓子をプラスチックではなく紙の包装で配ろうとしている。

以上が中等部のSDGsへの取り組みで、この先少しづつできる範囲でやっていこうと思っている。

質疑応答
Q:中等部の段階でこれまでSDGsを実施されているのは感動した。特に169のターゲットの表、チェック指標があそこまでやられているのは驚き。ただ、先生がおっしゃった通り政治・経済がらみのチェックが少なく、環境関連にチェックが多く入っている。近代化は開発と環境の戦いで、先進国イコール工業化は疑いのないコンセプトであり、日本を含む先進国は環境破壊をやってきた。開発と環境は政治・経済がらみになることが多いが、この問題を中等部の段階でどう説明されているかいないのか伺いたい。
A:自分達が言うより、実際に社会に出て、ある業界の人から裏話も含めた業界の実情を話してもらい、いろいろな仕組みを知ってもらってどう考えるかと問いかけていくのが中学でできる精一杯のところ。実際に子供達は周りに目を向けられるようになってきており、それがこれまでの課題を解決する一つの要因になるのではないかと感じている。

 

 

 

 

【Y】第44回ザ・ヤングサロン「みんなで考えよう!「ODAと国益」」を開催

 2023年4月23日(日)、多摩図書館2階セミナー室にて44名参加の下、第44回The Young Salonを開催しました。講師は国分寺三田会会員であり1967年法学部政治学科卒業の榎下信徹さんをお迎えし、「みんなで考えよう!「ODAと国益」」というテーマで講演して頂きました。コロナ感染症対策については国分寺三田会感染症対策方針に基づき「新型コロナ感染症対策推奨事項」をお願いし開催しました。また懇親会を3年ぶりに中華料理店「浜木綿」にて実施しました。ザ・ヤングサロンとして講演会と懇親会を開催することができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。講演の概要は以下の通りです。
                          記
第44回ザ・ヤングサロン講演会
    テーマ:みんなで考えよう!「ODAと国益」
                                             講師 榎下信徹
1.講師紹介
  榎下信徹さん、1943年生まれ。1967年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際協力機構(JICA)入団後、中南米
  部長、国際緊急援助隊事務局長等の要職を歴任。海外では、メキシコ、コロンビア、パラグアイの各事務所長を経
  験。2003年退職後、専門技術役(準役員・嘱託待遇)として5年間、主に海外調査
  に従事し、計102カ国を訪問。スペイン語通訳案内士。
  現在でも開発途上国の発展のため、国際協力活動の第一線としてご活躍。
2.はじめに
  昨年11月にJICA企画部長の原昌平氏よりJICAの話があった。今回は実践的な話をして欲しいとの要請を請けた。
  そこで、「みんなで考えよう!『ODAと国益』」と題し、より実践的な話をする。2008年にJICAを離れたの
  で、現在のJICAに即しているか分からない点もあるが、自分が経験したことをベースにいろいろな視点から話を
  する。
3.講演主旨
(1)ODAと国益
 ①ODA予算の概要 予算は円借款、技術協力、国際機関への拠出金で構成されている。予算額は1997年をピーク
  (11,000億円)とし、現在は半減(5,500億円)している。ODA予算は概ね、国の税収次第で増減する。
  つまり、日本の景気が悪いと予算も減る。
 ②ODA(JICA)変遷の主な出来事 1954年コロンボプラン加盟でODAが開始された。当時の日本人の平均年収
  は約75万円位、当時のフィリピン同等と貧しかったが、戦争への贖罪意識もあり、ODAを開始した。その背景
  には1949年から15年間、ユニセフが日本の児童に脱脂粉乳を提供してくれた援助等に対する感謝の念もある。
  1964年、東京オリンピックが開催されるが、新幹線、東名高速道路などの基幹インフラは、世界銀行の借款で賄
  われ、その完済は1990年であった。その後、エコノミックアニマルと揶揄された日本人の働きぶりは、1979年
  「Japan as NO1」と称されるまでに至る。この背景は円高の恩恵をもたらし、我が国が10年間、ODAトップド
  ナーとして君臨した軌道と符合する。しかし、わが国の傲慢な経済進出はアジア諸国の反日感情を招き、その政策
  を修正させられ、1989年頃からは、バブル崩壊に陥る。
  1997年の湾岸戦争では、わが国は130億円を拠出したが、被援助国のクウェートからは一片の返礼も無く、人の
  派遣、つまり「顔」の見える援助の重要性を認識させられた。これが自衛隊の海外派遣法の改正につながる。
  2003年に緒方貞子氏がJICA理事長に就任し、新しい援助のコンセプトとして「人間の安全保障」が導入され、従
  来の「国家」の視点から「個人」をベースにした案件の重要性が認識された。
 ③ODAのツール化(序)
  2003年、ODA大綱に初めてODAが「外交のツール」として、国益を守る有力な手段と謳われた。
 ④「ODAの課題と国益」の連関概念図
  縦軸に「案件の課題が人道・地球規模か、あるいは二国間関係の領域に属するか」、横軸に「案件の援助国と被援
  助国の裨益度の度合い」を作り、各案件が図中の縦横のどの位置を占めるかを示した。
 ⑤国益の解釈 ODA大綱が2015年に「政府開発援助大綱」から「「開発協力大綱」に改名され、協力
  (Co-operation)の主役(Operation)が被援助国であることを明確にし、自助努力による自立発展の重要性を
  謳った。2023年5月に予定されている改定案では、中国の膨張政策やロシアのウクライナ侵攻などを踏まえて、
  従来の「要請主義」に加え、「提案型」を掲げ、ツールとして相手国の要請を待たずに政治的に活用することを謳
  う予定。
 ⑥グローバリゼーションと国益 グローバルゼーションは世界を小さくしたが、国情と各国の相関性を際立たせ、国
  益のコンセプトを鮮明にした。WTOや国際機関の現状にその傾向が読み取れる。
 ⑦グローバリゼーションとODA(開発課題の例証) 「貧困」は援助の主要テーマであり、コンセプトとして「人
  間の安全保障」をベースにしている。一般に協力案件は相手側とまず、「課題別ツリー」を描き、枝に課題となる
  現状の諸問題を並べ、その各枝の問題解決の優先度を付け、案件を選定する。次に、特定された案件の問題分析と
  解決策を協議し、そのアウトプットは目標・成果(指標を含む)・活動・投入(ヒト、モノ、カネ)を策定したプ
  ロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)に反映され、両者が合意署名する。しかし、貧困削減の課題は、
  その枝となる問題のセクターが広範過ぎて、特定が難し
  く、二国間の協力の案件策定は容易ではない。更に、この解決のアプローチは本来、住民参加型で取り組むことが
  理想であるが、広く面的な削減を図るには諸々の物理的な限界がある。やはり、国のマクロな指標とのバランスが
  必要不可欠であり、解決には国の自助努力が一義的に必要不可欠である。かように地球規模とされる課題を、二国
  間のみの協力で対応した場合、持続性のない一過性の人道的慈善事業に終わる危険性を孕む。
 ⑧メキシコへの援助に当たって思うこと(結び)
  援助が貧困を優先課題とするのであれば、論理としてアフリカ諸国の優先度が圧倒的に高くなる。しかし、OECD
  加盟国でもあるメキシコを、協力の対象とするのは別の論理からである。それは、ODAの外交ツールとして、国
  益の概念に多様性があり、両国にとって「経済益」が高いからである。私が昨年まで参加した「自動車産業関連
  プロジェクト」は、市場経済のグローバリゼーションの中、まさに双方がWIN-WINの関係に在り、その経済益を
  享受できる案件であった。上述した貧困削減の成果、謂わば「地球益」とは対極の概念に位置するかも知れない。
*まだまだ話したい事、聴きたい事が沢山あったが、時間が来たためここで講演終了となった。
                                          (文責・写真:青木)

【Y】第43回ザ・ヤングサロン「知と飲を満たしたサントリー府中工場見学」

 2023年3月26日(日)、33名が参加し、サントリー府中工場の工場見学を実施しました。7年ぶりの工場見学
になりました。概要は以下の通りです。
                      記
第43回ザ・ヤングサロン
            テーマ:サントリー府中ビール工場見学
1.サントリー府中工場の天然水ビール -つくりのこだわり-
 ・豊かな自然でろ過された天然水仕込み
 ・良質の麦芽、ホップの素材選び
 ・ダブルデコクション製法による仕込みと、アロマリッチホッピング製法によるホップの投入
2.技術と味を楽しんだ工場見学
   工場見学の人数制限もあり、18名と15名との2組に分かれて工場を訪問しました。
  当日は、あいにくの雨でしたが、分倍河原駅からの送迎バスに乗り、快適に移動ができました。
   工場見学では、案内係から工場の成り立ちと立地へのこだわりの説明を受けました。その後、
  初めに麦芽・ホップの素材をみて、それから仕込、発酵、貯酒、ろ過の工程の解説と製造現場を見学。
  無菌室内の自動パッケージングで完成という一連の製造工程を学びました。
   見学後には、出来上がった生ビールの試飲、3つの生ビールの飲み比べ、さらに試飲のおかわり。
  70分間の工場見学の終了時には、ほろ酔い気分。皆さん多くのお土産を買い、帰途につきました。

今回の工場見学は、参加者の皆さんからとても好評をいただきました。今後も、機会があれば、
ザ・ヤングサロンの中に、工場見学、企業訪問を取り入れていきたいと考えています。
(文責:小林(一) 写真:青木、小林(一))

 

【Y】第42回ザ・ヤングサロン「激動の世界におけるJICAの事業展開」を開催

 2022年11月27日(日)、並木公民館にて32名参加の下、第42回The Young Salonを開催、当国分寺三田会会員でもある小島眞さんの紹介で、講師としてJICA企画部長の原昌平氏をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。原氏は、1989年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、(旧)海外経済協力基金に入社され、大蔵省出向などを経て、1999年から国際協力銀行で中央アジア・コーカサスを担当、2008年から国際協力機構(JICA)でイラク事務所長、南アジア部長、民間連携事業部長、本年10月から企画部長を歴任されている方す。
 一方で、新型コロナ感染症の第8波が始まりつつある状況のなか、感染症対策には万全を期した上で講演会を開催、懇親会の実施は見送りました。講演の概要は以下の通りです。
                      
                        記
第42回ヤングサロン講演会
                                            2022年11月27日
                激動の世界におけるJICAの事業展開
                                 国際協力機構(JICA) 企画部長 原 昌平

1.JICAの略歴
 1950年代に技術協力が立ち上がり1974年に国際協力事業団(JICA)発足。 2008年にJICAと国際協力銀行(JBIC)のODA部門が統合され独立行政法人国際協力機構(新JICA)が発足し、政府開発援助における技術協力、有償・無償の資金協力を行っている。 旧JICA発足時に海外移住事業団がJICAに統合されたが、その後時代の趨勢を反映し海外移住事業は縮小されている。
現在常勤の職員は約2000名弱、期限付きのスタッフや海外の現地スタッフを合わせると、全世界でさらに多い人員が開発協力に携わっている。
2.JICAを取り巻く環境
 最新の開発協力大綱は2015年に定められたが、現在見直し中。 2015年に採択されたSDGsの実現に向けてJICAも役割を果たして行く。 今国家安全保障戦略の議論がされており、自由で開かれたインド太平洋構想にODAがいかに貢献していくのかが課題となっている。 また、国内での地方活性化等の政権が掲げている課題への対応も行っている。
 それらの環境の中でJICAの組織ミッションとして「人間の安全保障の実現と質の高い成長の実現」を、またビジョンとして「信頼で世界をつなぐ」を掲げている。 中期計画として ①自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて国際社会で日本のリーダーシップを発揮するための貢献 ②国の発展を担う親日派・知日派リーダーの育成 ③気候変動への取り組み ④国内での地方活性化への貢献 を4つの重点領域とし、信頼関係の構築などの4つのアプローチの重視を挙げている。
3.JICAの業務
 法律上では開発途上地域の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的とすると規定されている。 即ち、相手の国の為になることを行なう業務を通じて、国際的に皆で協力しようという気運を作り、日本及び国際経済社会の健全な発展の為に貢献するということ。
 具体的には研修員受入・専門家派遣・機材供与等の技術協力、円借款及び海外投融資の有償資金協力、無償資金協力、海外協力隊によるボランティア、海外移住支援、緊急援助隊による災害援助協力、人材養成等幅広い業務を行っており、その一環として中小企業・SDGsビジネス支援を通じた地方創生にも取り組んでいる。
一般会計におけるODA予算は2011年以降1997年の約半額に減っているが、ODAを使って日本を信頼してくれる仲間を増やすことは非常に重要だと思っている。
4.JICAの組織
 本部機能として地域毎の担当部署と分野毎の担当部署がある。 海外向けの仕事が中心だが国内にも14か所の拠点があり、語学を中心とした協力隊員の訓練、日本に来た研修員の受入れ、研究機関・大学・企業等とのコーディネイション、協力隊員の募集、中小企業との連携等を行う。
 海外では先進国を除くほぼ全世界に拠点を持つが、海外におけるノウハウは長期間その地に勤務するナショナルスタッフに溜まっており、これをいかに生かしていくかが大きな課題。
5.最近のハイライト
 現在コロナが大きな課題で、コロナ対策の支出や南アジアを中心に海外からの出稼ぎの送金の減少等で財政上困っている国々に約3,800億円の円借款による財政支援を行う一方で、病院建設等を通じて治療体制強化、予防体制強化、研究・警戒態勢強化への貢献を進めている。
 次に気候変動対策では、緩和策としてインドでのデリー地下鉄建設やケニアでの地熱発電所改修の支援を、適応策としてフィリピンでの河川改修の支援を、また緩和策・適応策横断型としてインドでの森林開発への支援等を実施。 2050年のカーボンニュートラルが国際公約だが、エネルギー消費の伸びを見込んでいる貧しい国々に一律でそれを求めるのかが難しい課題で、バランスを考えながらより環境への負荷が低いエネルギー源に移行していく為の支援を考えていかなければならない。
 他にも民間部門と公共部門が共同で行う事業への支援や開発途上国の起業家への支援も行っており、その例としてケニアにおけるバイオリサイクル事業への出資やベトナムでの風力発電事業への支援等がある。 また外国人材受入に関して「世界の労働者から信頼され選ばれる・日本」となることを目指した活動など、国内の地方を中心とした国際化を進める取り組みを行っている。
 デジタル化に関しては、いろいろな方々と連携して取り組む必要を痛感している。
 国際紛争への対応として今一番ホットなのはウクライナで、今までに780億円の財政支援を行い、更に日本の災害経験の共有を進めている。 また、JICAの支援で地雷除去の経験を積んだカンボジアの人たちから地雷除去のノウハウを共有してもらうための支援を行っている。
                                     (文責:小林(一) 作成:板橋)

  

【Y】第41回ザ・ヤングサロン「生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜」を開催

 2022年10月23日(日)、光公民館にて24名参加の下、第41回The Young Salonを開催、ヨガ講師の冨永ゆ
かこ氏お迎えし、ヨガの講義と実技を行ないました。コロナ感染症対策には万全を期した上で対面で行ない
ました。しかし懇親会の実施は見送りました。ザ・ヤングサロンとしては、久しぶりの実技をともなう講演会
で、とても有意義な時間となりました。講演の概要は以下の通りです。

                     記
第41回ザ・ヤングサロン講演会
     テーマ:生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜
                                      ヨガ講師 冨永ゆかこ
1.講師紹介
 YIN YOGA in ASIA 最高指導者Victor Chng先生、YIN YOGA JAPAN代表 川端友季湖先生のもと、タイ・
 バンコクで指導者養成コースを修了。在タイ14年を経て2020年より国分寺に在住。現在は西国分寺を
 中心に少人数ヨガクラスを開催。セレオ国分寺での屋上ヨガ、清正公寺での寺ヨガ(日本橋浜町)など
 開催。11月26日には国分寺市のぶんぶんウォーク・史跡指定100周年記念事業イベントにて、史跡ヨガ
 を担当されるヨガ講師です。
2.はじめに 進化した陰ヨガとは
 ・古典的なハタヨガ、古代中国の陰陽論・中医学をベースに、最新の筋膜リサーチや解剖学のideaを
  加えて進化したヨガ
 ・静かな動きの中に最小限の筋肉の力を使って、最小限の負荷をかけてポーズを維持する。
 ・Energy movement 気のめぐりを整える(循環、調和、足に向かって下していく)
 ・Fascia Release 呼吸で内側から筋膜リリース(解剖学や最新の筋膜リサーチに基づく)
 ・Re-Alignment 着実の体の構造が変わる(歯の矯正のように・・・)
  平均寿命と健康寿命の差は、男性(81歳-70歳)11年、女性(88歳-74歳)14年あり、
  この健康寿命をのばすアプローチです。
3.本日のポイント
 1)正しい姿勢を身につける
   姿勢は大事!→歪み・腰痛・肩こり・膝痛・・・に関係。呼吸にも影響する。
  ・まずは背骨(脊椎)を整える
   真っ直ぐな背骨=自然なS字のカーブがある状態
   衝撃をクッションで吸収できる
  ・横隔膜と骨盤底を平行な状態に⇒最も呼吸ができる
  (実技)<正しい立ち方、座り方>
     立っているときは、左右の足の裏に均等に体重が乗る
     座っているときは、左右の座骨に均等に体重が乗る
     尾骨と頭頂を同じ線でつなげる
     髪の毛一本を上から引き上げられている感じ
     背中のバックラインをギュッと閉めない
     
 2)みずみずしい体に
   人体の60%以上は体液(卵子の時は99%が水分);私たちの体は水で形づくられている
  ・骨や内臓を包んでその構造をキープしているFascia(結合組織)は、ネットやスポンジの様に
   全身に3Dに広がっていて、その繊維上にも水分が存在している。ヨガで多方向に動かしていくことで、
   水が循環し、全体に水分が行き渡っていく(乾いたスポンジに水を含ませていくイメージ、水の入れ
   替えができる)
  ・体の中の水分を良い状態に保つことも大事、水は流れないとよどんでしまう
  ・どこかが痛い、かたい:水分が減って乾いた状態になっていたり古くなっていたりする
  ・Fascia結合組織:ミルクレープのイメージ
   (実技)筋膜のつながりを感じてみよう!筋膜のつながりを確かめる姿勢

 3)関節の可動域と安定性を高める
  ・引っ張るでもなく、伸ばすでもなく、ストレッチでもない動き(ハリのある水分を保った肌のイメージ)
  ・下半身の3つの関節、足首・ひざ・股関節の調和した動き方
    ⇒怪我をしにくい
    ⇒省エネでエコな体の使い方
  (実技)長生き筋肉「内転筋」を使う練習

4.実技 休憩、換気の後、講師の指導で約1時間の実習を行なった。
     詳細は、下記の写真を参照にしてください
                                  (文責:小林(一) 写真:青木)

【Y】第40回ザ・ヤングサロン講演会「ウクライナ侵略後のロシア東欧」を開催しました。

 2022年7月17日(日)、都立多摩図書館にて54名参加の下、第40回The Young Salonを開催、講師として元
外交官の角崎利夫氏お迎えし、お話し頂きました。コロナの第七波が押し寄せつつあるなか、感染対策には万
全を期した上で対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。ロシアのウクライナ侵攻が続いて
いる中、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                      記
第40回ザ・ヤングサロン講演会
               テーマ:ウクライナ侵略後のロシア東欧
                                     元外交官 角崎 利夫氏
講師紹介
 1972年東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。これまで在ロシア日本国大使館公使、
 在カザフスタン共和国特命全権大使、在セルビア共和国特命全権大使を歴任され、
 ロシアには4度・通算10年おられました。
はじめに
 今回の講演が依頼された時には、7月には「ウクライナ戦争」は終結しているだろうと想定して原稿を考え
 たが、現在まだ戦争が継続している。ここでの講演は「ウクライナ戦争」が「世界にどのような影響を与え
 るか」という観点からお話ししたい。
*在外勤務23年
   ロシアでの勤務10年  1975~77  ブレジネフ時代
               1985~87  ゴルバチョフ時代
               1996~99  エリツイン時代
               2000~02  プーチン時代
   旧ソ連カザフスタンでの勤務3年  2002~05
   セルビアでの勤務4年       2009~2013
本 日 の 話 の 柱
         Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
         Ⅱ 戦況の推移
         Ⅲ 今後のシナリオ
         Ⅳ 戦争の様々なインパクト
         Ⅴ 戦争からの教訓
Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
1.プーチンの思想・信条
(1)ロシア帝国復活の夢
   東スラブ3部族(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)を中心に帝国の版図を復活する夢
    (ア) ロシアとウクライナの歴史解釈・評価の違い
       モスクワ大公国はキーエフ公国の継承国か否か?
       コサックとロマノフ王朝の庇護協定は歴史上の金字塔か否か?
       ロシアでは是だと教え、ウクライナでは否と教える。
       (コサックとは脱走農奴が形成した軍事共同体で、ウクライナの自由の気風を生んだ。)
    (イ) プーチン論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」
       東スラブ3部族は歴史的に一体であり、ロシア正教を信じる点でも共通で、ルースキーミール
       (ロシアの世界)を形成すべき。ロシア正教会のキリル総主教は全面的にプーチン支持。
    (ウ) ウクライナはソ連が作った人工的国
       レーニンが作り、スターリン、フルチシチョフが領土を追加した
    (エ) 東方正教会の影響
       2019年、ウクライナ正教会がロシア正教会から分離独立し、プーチンが激怒。
(2)西欧個人主義に対置されるユーラシア主義
   ユーラシア主義とは、ロシア革命・ボリシェヴィキ政権に対する反応のひとつとして1920年代に白
   系ロシア人(非ソビエト系亡命ロシア人)の間で流行した民族的思想潮流で、ロシアはアジアにも
   ヨーロッパにも属さず地政学的概念である「ユーラシア」に属し、西欧と異なる価値観を持つとい
   う思想。プーチンはユーラシア主義の持つ愛国心、集団主義、大国性といった優れた価値観が西欧
   の極端な個人主義から保護されるべきと主張。
(3)在外ロシア人の救済(ウクライナ等にロシア人が多数住んでいる)
    (ア)プーチンは「25百万人に上る在外ロシア人の救済が自らの使命」と語る。
       ウクライナ東部・南部の占領の理由付けにはこの「ロシア人救済」が利用され、ウクライナ全土
       には「ルースキーミール樹立」が理由付けに使われている。
    (イ) ロシア人の多いカザフスタンやラトビアはプーチンの発言を懸念する十分な理由がある
    (ウ) 欧州で在外母国民が多く民族統一主義傾向がみられるのは、ロシア以外はハンガリー、セルビア
2.安全保障上の脅威認識(NATOの東進)
(1)プーチンが脅威を感じたであろう出来事と成功体験
      2003年 ジョージアのバラ革命
      2004年 ウクライナのオレンジ革命
      2008年 ブッシュが、ウクライナとジョージアのNATO加盟後押し、独仏が慎重姿勢で、
           玉虫色のNATO声明となった
           (2008年 ロシアがジョージア侵攻し、アブハジア、南オセチア占拠)
      2012年 モスクワ等ロシア各地で反政府デモ
      2014年 マイダン革命で親露派大統領がロシアへ脱出
           (2014年 ロシアがクリミヤ、ドンバス地方侵攻、占領)
(2)プーチンの主張
    (ア)NATOへの不信感=WP(ワルシャワ条約機構)が消滅したのになぜ存在?
    (イ)NATOは東に拡大しない約束があったのに、旧東欧のみならず、旧ソ連諸国まで引き込んでいる
(3)NATOの反論
    (ア)文書で不拡大を約束したものはない。
    (イ)ゴルバチョフが2014年、当時NATO拡大問題は提起されたことはないと発言。
    (ウ)東欧・旧ソ連諸国がロシアを脅威に感じ、NATO加盟を強く希望した。
3.プーチンが欧米の弱体化を認識
                      1980年代        現在
     G7のGDP割合             70%        50%
     BRICSのGDP割合            7%        22%
     2021年のアメリカのアフガニスタン撤退の失態
     今年(2022年)6月、G7やNATO首脳会議にぶつけてBRICS首脳会合開催
     しかし、BRICSには各国を結びつけるイデオロギーがない。
4.ウクライナ側の侵略誘発要因はあったか?ナチ化は見られたか?
(1)ゼレンスキーはバイデン政権誕生後、親露派への挑発を活発化
     1.親露派地域に特別な地位を与えるとのミンスク合意を実行せず
     2.親露派TV局の封鎖
     3.親露派勢力のリーダーでプーチンに近い人物逮捕
     4.クリミヤ奪還国際会議の企画
(2)ウクライナ軍の強化への懸念
(3)第2次世界大戦でナチス軍がウクライナを占領した時、バンデラというウクライナ民族主義者が独立の
   ためナチと協力した。プーチンはゼレンスキー政府にバンデラ崇拝者がいることをもってナチ政権と
   主張するが、同政府をナチとは言えない。
Ⅱ 戦況の推移
  ロシアは初戦で失敗し、短期で勝利することができなかったが、ウクライナ領土の20%を既に支配し、
  じりじりと東部で支配地域を増やしており、ウクライナ側の反撃は容易ではない。今後も消耗戦が続くが、
  いずれ停戦の動きが出てくるだろう。
1. 初期のプーチンの誤算
(1)ウクライナ軍・国民の抵抗について
    (ア) 軍の強化 ①NATO方式の指揮系統 ②士気 ③戦闘経験 ④兵員と武器増強
    (イ) 国民がロシア軍を歓迎せず、ウクライナ軍に協力した。
    (ウ) ゼレンスキーの戦争指導者としての力量
(2)ロシア軍の力量について
    (ア)緒戦での失態
      1.サイバー攻撃でインフラ・通信設備を麻痺させることに失敗
      2.一点集中攻撃すべきところ、総花的攻撃で失敗
      3.各部隊がバラバラな戦い
    (イ)上位下達の指揮命令系統で融通性欠如
    (ウ)最新兵器・精密兵器の不足
    (エ) 歩兵戦力の不足
(3)諸外国の反応について
    (ア)予想に反し、NATO諸国が結束した
    (イ)中国はロシアを軍事的に支援しなかった
      ① 中国は米国の二次制裁を恐れる
      ② 中国は領土保全が民族自決より重要
      ③ 一帯一路でのウクライナの重要性
    (ウ)最大の同盟国カザフスタンは協力せず
Ⅲ 今後のシナリオ
1.戦争は長期化するか?
  3月初めBBCが報じた5つのシナリオ
     1 X  短期決戦、ロシアの勝利、ゼレンスキー政権崩壊
     2 〇  長期(包囲)戦、攻防泥沼化
     3 △  欧州戦争、モルドバ、ジョージア、バルト三国へ拡大
     4 〇  外交的解決、停戦合意
     5 △  プーチン失脚
          私見:⑵から⑷への移行が年末までに実現する可能性はある。
    (ア)ウクライナ大統領は2月24日の線まで領土を取り戻すと主張するが、容易でない。
    (イ)欧米は
      ・アメリカ:ウクライナに譲歩の圧力はかけないとバイデン大統領発言。
      ・欧州は正義派(英・ポーランド、バルト三国)と妥協派(独仏伊)に分かれる。
2.ロシアの世論・欧米の世論
(1)ロシアでのプーチンの支持は根強い  7~8割の支持
     ・ロシアを苦難から救った救世主
     ・プロパガンダの効果 FBやインスタグラムの中止
     ・声を上げられない国民
     ・戦争時の愛国心高揚
(2)今後の欧米の世論:支援疲れ、難民疲れ?
3.ロシアの経済制裁の影響 長期的にはあるが
4.ロシアでのクーデターの可能性は小さい
5.欧州戦争への発展の可能性と核使用の可能性
     ・欧州戦争への発展は  その可能性は低い
     ・核使用の可能性    その可能性は低い
Ⅳ 戦争の様々なインパクト
  世界に突き付けた問題はあまりにも大きく多岐にわたる。
    1. 戦争の性格を変えた 第2次大戦や朝鮮戦争以来のイデオロギー戦争で21世紀型戦争
    2. グローバリゼーションへの影響
    3. 世界経済に与える影響
    4. 核戦術の脅しとNPT(核兵器不拡散条約)体制への負の影響
    5. 世界の安全保障の問題や地球規模問題へ、今後ロシアの関与はどうなるか
    6. 世界で拡大するナショナリズム勢力
Ⅴ 戦争からの教訓
  プーチンは力は正義と考えている。プーチンが勝利すれば、この考えが正しいと認とめることになり、
  今後現状変更勢力による力の行使を助長する。
                         (文責:小林(一) 文章作成:石川 写真:青木)

 

【Y】第39回ヤングサロン講演会を開催しました。

 2022年3月27日(日)、都立多摩図書館にて49名参加の下、第39回The Young Salonを開催、
講師として塾医学部卒業で国立がん研究センター中央病院感染症部長、塾医学部客員教授の岩田
敏先生をお迎えし、「現代の感染症とその対応について」をテーマにお話し頂きました。コロナ
が落ち着いてきたとはいえ、まだ気を緩められる状況ではなく、感染対策には万全を期した上で
の対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。皆さんが直面している新型コロナ
などに関する内容で、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                 記
The Young Salon第39回講演会
      テーマ:現代の感染症とその対応について
       -新型コロナウイルス感染症のパンデミックを踏まえて-
           国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院感染症部/感染制御室
                                     岩田 敏 様
■現代の感染症
  衛生環境の向上、ワクチンの普及(予防法の進歩)、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗原
 虫薬の開発 (感染症治療法の進歩)、診断技術の進歩等 感染症のコントロールは格段に進歩した。
 一方交通網の発達による感染症のグローバル化 、新興・再興感染症の発生、少子・高齢化社会に
 よる易感染患者の増加、耐性菌の増加等、感染症を取り巻く環境は変化している。
・新興・再興感染症
 新興感染症: 最近20~30年間の間で人類の疾病として初めて認識された感染症でHIV/AIDS、エボ
 ラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器 症候群(MERS)、ジカウイルス感染症、
 C型肝炎、成人T細胞性白血病、出血性大腸炎、新型インフルエンザ(A/H1N1)、 新型コロナウイ
 ルス感染症 (COVID-19)などがある。
 再興感染症: 一度は人類の重大な公衆衛生上の問題ではなくなったように見えたが,再度疫学相
 の変化を伴って増加してきた感染症であり、結核、マラリア、百日咳、季節性インフルエンザなど
 がある。
・2002-2003年 SARS(重症急性呼吸器症候群) 致死率 9.4%
・2009年 新型インフルエンザ 致死率 2-9% (日本:0.01%)
 死亡者は「季節性」では高齢者で多いが 「新型」ではほぼ全年齢にわたっていた
 日本: 2,200万人の患者発生に対して、死亡199名と少なかった
・2010/2011シーズンの流行状況をみて2011年より新型インフルエンザの指定がハズレ、季節性イン
 フルエンザとなった
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬(タミフル)の効果
・2015年 MERS(中東呼吸器症候群) 致死率 34.4%
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(2019年~)  致死率 5.62%➡0.31%
 現在(2022.3.27)までの世界の患者数(4億8千万人)、死亡者数(6百万人)
 日本の患者数(6,285千人)、死亡数(27,614人) 全人口の約4.0%に相当
 新型コロナウイルスの懸念される変異株(ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株)
 重症化する人の割合は高齢者が高く、若者は低い傾向にある 。
 重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している
 重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方、一部の妊娠後期の方
 重症化のリスクとなる基礎疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、
 心血管疾患、肥満、喫煙。 ワクチン接種を受けることで、重症化予防効果が期待できる。
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬
 3つの密を避けましょう!
 感染リスクが高まる5つの場面:「飲食を伴う懇親会等」「大人数や長時間におよぶ飲食」「マス
 クなしでの会話」「狭い空間での共同生活」「居場所の切替り」
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のマネジメント(基本的な治療方針)
 重症度分類 「軽症」、「中等症Ⅰ(呼吸不全なし)」、「中等症Ⅱ(呼吸不全あり)」、「重症」
・ばい菌やウイルスがうつる道筋
 「空気感染」:はしか 水ぼうそう けっかく
 「飛まつ感染」:インフルエンザ かぜのウイルス 新型コロナウイルス おたふくかぜ ふうしん
 マイコプラズマ肺炎
 「接触感染」:おなかのかぜウイルス( -ロタウイルス -ノロウイルス)エイズウイルス 肝炎
 (かんえん)ウイルス 耐性(たいせい)菌( -ぶどう球菌 (MRSA) -緑のう菌 -カルバペネム
 耐性腸内細菌科細菌(CRE) -バンコマイシン耐性腸球菌(VRE))
・標準予防策 手洗いが対策の基本、サージカルマスクの着用
・基本的な感染予防 ワクチン接種
・新型コロナワクチンの種類と特徴
 不活化ワクチン、組み換えタンパクワクチン、ウイルスベクターワクチン、核酸ワクチン
 (DNA、mRNA)
■ワクチン接種状況 (日本のワクチン接種率 2022年3月25日報告)
 都内全人口(1回79.0% 2回78.4% 3回37.4%) 12歳以上(1回87.1% 2回86.4%  
 3回—–)
 高齢者(65歳以上)(1回92.8% 2回92.5% 3回77.4%)
 発症予防効果を維持するためには3回目接種を受ける必要がある
■ワクチンの有効性はどのように評価するか
 発症予防に対してワクチンの有効性90%とは?
 (✕)ワクチンを接種した90%の人は 病気にならない
 (〇)ワクチン接種すると病気になる確率が90%低くなる (10分の1になる)
■有害事象(副反応疑い)と副反応の違い
 有害事象(副反応疑い):ワクチン接種後に生じるすべての事象のこと(ワクチンとの因果関係が
 明らかなもの、不明なもの、他の原因によるものをすべて含む)
 副反応  ワクチンの接種によって起こる、免疫ができる以外の反応のこと
■がん患者に対する新型コロナウイルスワクチン接種
 新型コロナウイルスワクチンの接種はがん患者においても推奨される
        (休憩、室内換気)
■わが国の65歳以上の高齢者比率は世界一で今後も増加見込。それに伴い国民医療費も年一人34万円
 と増加し、65歳以上の医療費は全体の60%で年26兆円。2020年の平均寿命は、男性82歳
 (世界2位)、女性88歳(世界1位)。また健康寿命は、男性72歳、女性75歳。
■肺炎は日本人の死因のトップ5であり、 そのほとんどが 65歳以上の高齢者(97.8%)
・肺炎の負のスパイラル 高齢の方の肺炎は繰り返しやすく、入院などで体力が低下すると負のスパ
 イラル に陥りやすいため、肺炎の発症予防が重要である。
・65歳以上では、肺炎による入院で認知症の発症リスクが 約2倍に上昇するデータもある
■肺炎球菌感染症への対応  誤嚥防止対策、ワクチン接種、治療薬(抗菌薬)
                          (文責:小林(一) 文章作成・写真:青木)

【Y】第38回ヤングサロン講演会を開催しました。

 2021年11月21日(日)、都立多摩図書館にて40名参加の下、第38回The Young Salonを開催、講師として拓殖大学名誉教授で当国分寺三田会会員でもある小島眞氏をお迎えし、「インドの最新動向と日米印豪(クアッド)の行方」をテーマにお話し頂きました。コロナ感染者数がかなり落ち着いてきたとは言え、まだ気を緩められる状況ではなく、感染対策には万全を期した上での対面での講演会であり、懇親会の実施も断念せざるを得ませんでしたが、2020年2月以来1年9ヶ月振りのThe Young Salonで、久々に顔を合わせた方々も多く、有意義な集いとなりました。
講演の概要は以下の通りです。

                         記
第38回ヤングサロン講演会
                                             2021年11月21日
                 インドの最新動向と日米印豪(クアッド)の行方
                                        拓殖大学名誉教授 小島 眞
 インドは馴染み難い印象があるかもしれないが、かつて渋沢栄一が紡績業を起こす上で、綿花輸入のための航路開設に関してインドのタタの全面的な協力を得ており、また戦後まもなくのネルー首相の来日時には日本中が歓迎ムードに包まれるなど、50年代頃まで日本と非常に近い関係にあった。その後日本も高度経済成長で付き合う国も増えて疎遠になっていった。そのインドも最近いろいろと注目すべき動きがあり、ここでは6つのテーマに沿ってインドの最新動向を理解する上でのエッセンスを提示し、クアッドの話に繋げていきたい。

1.インドをいかに捉えるべきか
 基本的知識として、インドの人口は13億人超、GDPは日本の半分強、1人当たり所得は2,200ドルぐらいだが、鉄鋼生産は日本を超え自動車生産も世界5位、コメについては世界最大の輸出国である。社会経済面で遅れている部分も多いが、平均寿命は約70歳、識字率74%、貧困率20%強と確実に進展してきている。
 インドを理解する上での基本的要件は、まず世界一多様性に彩られた国であるということ。言語・宗教・カースト・南北の地域差等、インドに関しては平均値では語れない。
 政治形態は連邦制で州政府の権限が大きく、全国一律の改革が難しい。1947年の独立後52年の第1回総選挙以降現在まで17回の総選挙を実施しているが、軍部が政治介入したことはなく、必ず総選挙を経て政権が変わるというルールが確立している。政党としては今や与党のインド人民党(BJP)が圧倒的に強く、かつてネルーやその一人娘インディラ・ガンディーが率いた国民会議派は衰退の一途を辿っている。
 91年頃から国民会議派の下で改革開放がスタートし、対外志向型の政策や規制改革を実施した。特に90年代以降大きく変わったのは、世界のIT革命に乗ってインドのIT産業が飛躍的な成長を遂げたことで、今ではインドのGDPの9%を占める最大の輸出産業となっている。
 各種経済改革を進めてきたインドだが、労働改革は取り残された分野である。硬直的な労働者保護の法律があることで労働集約的な製造業は拡大を阻まれてきた。他方、サービス部門にはこのような規制がなく、IT産業が伸びやすい。もう一つは農業関連の規制が強いことが挙げられる。

2.第1次モディ政権(2014~2019年)の実績
 現首相のモディは後進階級出身で民族奉仕団に加わって実力をつけ、政治活動に移った。2001年から13年間グジャラート州首相としてインフラ整備や外資導入に大きな実績を残し、その実績に基づいてインドの首相に就任。これまで20年間にわたって州や国の首相を続けてきたエネルギッシュな人物である。
 モディ政権の政策理念は、社会の変革と底上げを伴った成長によりインドを強くしたいというもので、新たに始めたのが“Make in India”という海外からの投資による製造業の振興策であり、また画期的なのがクリーン・インディアという農村でのトイレ革命とLPガスの無料接続や貧困世帯向けの保険の改善であった。さらに倒産破産法の成立や間接税の一本化など見るべきものがあったが、日本が学ぶ点が多いのがデジタル・インディアである。2009年にマイナンバーに相当する固有識別番号制度が導入されたが、モディ政権の下でその普及・充実が図られた。本人確認を証明できる公的手立てが提供され、かつて銀行口座を持てなかった貧困層も口座開設が可能となり、現金支給も受益者各人への口座振り込みが可能となった。
 第1次政権末期には経済的減速が顕著になり、再選が危ぶまれたが、選挙直前カシミールでのパキスタンの過激派テロによりインド人治安部隊40名ほどが殺害された。それに対して、国境を越えての空爆を実施し、国民に強いインドという安心感を与えたことで総選挙に圧勝した。

3.第2次モディ政権(2019~)と新型コロナのインパクト
 第2次モディ政権がまず取り組んだのは、イスラム過激派のテロが頻発していたカシミール問題であった。憲法改正によって同州の特別自治権を外し、中央政府の介入を容易にした。もう一つは国籍法改正を通じて、周辺国から流入する人の内イスラム教徒には国籍を与えないというヒンドゥー至上主義的な国籍法を導入したことである。これに対して、ベンガル人の流入増大を恐れるアッサム地方で暴動が起き、さらに全土でイスラム教徒の反発が広がった。
 その最中にコロナ問題が勃発した。最初の感染者が出たのは2020年1月末で、3月末にはロックダウンを実施し、全土封鎖・交通機関の停止に踏み切った。規制が段階的に緩和される中、1日当たりの感染者数も一時は10万人に上ったが、その後は徐々に減少し、本年2月には勝利宣言が出された。しかしそれと同じ頃、マハラシュトラ州で発生したデルタ株への対応が遅れたため、1日当たりの感染者数が今年4~5月頃には最大で約40万人に達し、伝統的な公衆衛生の貧弱さが露呈する結果となった。
 第1波に際しては、全土封鎖に併せて貧困者への福利パッケージを導入し、GDPの10%に相当する財政支出を実施した。第2波に際して重視されたのは、ワクチン接種である。インドはアストラゼネカのワクチンの世界最大規模の生産能力があり、本年4月頃まではワクチン外交を展開していたが、国内の感染拡大に伴い、国内向け供給を最優先した。10月末で1回接種が7.3億人、2回接種が3.2億人に達し、1日当たりの感染者も今年11月には1万人程度に収まってきている。
 経済的影響を見ると、昨年度第1四半期(4~6月)は大きなマイナス成長となったが、第3四半期からプラスに転じ、本年度第1四半期にはかなり回復した。コロナ禍の状況下でもモディ政権は果敢に経済改革を進めてきた。一つは製造業の面で、かつての“Make in India”は総花的でなかなか成果に結びつかなかったが、今回は13部門を対象に認可を受けた企業に対して、投資と売上に応じてインセンティブを与える生産連動型インセンティブスキームを導入した。また労働関連法の改正を実施し、従業員100人以上の事業所では自由に解雇できなかったのを300人以上に拡大した。
 さらには農業三法の導入である。これまでパンジャーブ州など一部の大規模農家は政府によるコメや小麦の買い上げで潤っていたが、大多数の農家は政府に買い上げてもらう余剰がなく、さらに農作物は州指定の市場でしか販売できないという規制があり、自由な販売ができず、企業との連携を有効に推進できない状況にあった。これを打破すべく、昨年9月に農業三法を導入したものの、農業先進州の農民達が連日反対のデモを繰り広げ、今年1月に最高裁が実施猶予の判断を下した。そうした中、一部農民団体の反対運動に根負けする形で、ついに一昨日になってモディ政権は農業三法の撤回声明を出すに至った。

4.軋みを見せる印中関係
 かつて近代インドには中国への警戒論を説いた宗教家や政治家もいたが、インドの初代首相ネルーは非同盟主義を掲げ、非共産圏諸国で最初に中華人民共和国を承認するとともに、中国のチベット支配強化にも宥和的態度をとった。しかし中国は1959年にダライ・ラマがインドに亡命して臨時政府を樹立したことに憤りを感じており、62年に国境紛争が勃発するに及んで、ネルーの対中政策は見事に打ち砕かれた。最近の国境問題についていえば、北東部にアッサム州などを抱えるインドにとってバングラデシュとネパールに挟まれた狭隘部が地理上の泣き所だが、2017年6月に中国がブータン国境内に侵入し、インド・中国・ブータンの国境合流点でインド・中国両軍の睨み合いとなった。徐々に既成事実を作って現状変更を図るのが中国の戦略だが、この時は同年9月に厦門でBRICSの会合を控えていたこともあり、2か月後に両軍とも引き揚げることになった。さらに2020年6月にインド北部カラコルム山脈のガルワン渓谷で両軍が衝突した。それまでの紛争と違いインド側に20名の死者を出すに至り、反中ナショナリズムが高まり、中国製品・中国投資のボイコットが広まった。
 1962年の国境紛争以降、インドは中国をパキスタンと並ぶ仮想敵国と見做していたが、経済面では実利主義をとり、主要なパートナーとして貿易関係も深まっていた。しかし2020年の衝突と前後して対中政策は大きく変わり、中国からの投資規制・中国アプリ禁止・中国製品への輸入規制強化といった措置がとられた。
 領土以外の印中間の争点として深刻なのが水問題である。中国は東南アジアを含めてアジアの主要大河の水源であるチベットを押さえており、インド・バングラデシュを経てベンガル湾に注ぐプラマプトラ川の上流で10以上のダムをすでに建設しており、さらには三峡ダムの3倍規模のダム建設計画があり、果てはプラマプトラ川を黄河に流すという壮大な計画もあると言われている。

5.深まるインドと日米両国との戦略的関係
 冷戦時代アメリカは反共の砦としてパキスタンを重視する中、インドはソ連との関係を深めた。特に1971年のバングラデシュ独立に際してインドは独立を支援したため、パキスタンを支援するアメリカはインドの動きを阻止すべくベンガル湾に原子力空母を配置するに至った。しかしソ連の崩壊後、アメリカはインド経済の重要性を認識するようになり、イスラム過激派のテロや中国への対抗上両国関係は改善し、インドにとってアメリカは最大の貿易相手国となっている。
 戦略的関係でも92年から米印2国間でマラバール海軍合同演習を実施しており、2008年には原子力協定、18年には「通信互換性及び安全保障協力」(Comcasa)といった重要な枠組みも締結されている。
 さらに米中対立の中でサプライチェーン再編の動きがあり、アメリカのIT企業のインドへの投資がかなり増えており、それに付随してアメリカの委託先となる台湾のIT企業の投資も増えている。
 日印関係を見ると、貿易面ではパッとしないが2008年頃からインドに対する投資がかなり増え、いろいろな分野で企業が進出している。市場規模が大きく、今後の拡大が見込めることから、企業の間では有望事業展開先として、インドがベトナムなどを抑えて上位にランクされている。特に重要なのは日本のODAを使ったインフラ投資が顕著で、2004年以降日本のODAの最大の供与先となっており、2009年完成のデリーの地下鉄事業を始め、貨物専用鉄道や高速鉄道も完成間近もしくは着工済みである。
 さらに注目されるべきは日印間での戦略的パートナーシップの進展であり、小泉首相時代に日印間の戦略的方向性が打ち出され、2006年に「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」が形成された。その後14年には「特別日印戦略的グローバル・パートナーシップ」、15年には「日印ヴィジョン2025」、18年には「日印ヴィジョンステートメント」等での日印関係の更なる格上げが進んでいる。
 最近ではデジタル面でも面白い取り組みがあり、インドの海底ケーブルをNECが手掛けるなど貴重な関係が実現している。また、日本はIT面での人材不足が大きな問題でこういった点でも日印間の関係が深まればいいと考えている。

6.日米印豪戦略対話(クアッド)の結成と今後の展望
 我々がアジアを語る時、この数年はインド太平洋という言葉が定着している。これは安倍元首相が言い出したことで、2007年にインドの国会で演説した際に「インド洋と太平洋の二つの海の合流」という言葉を使い、その後概念として定着してきたもので、その背景としてアジアでインドと中国の両雄が台頭してきたことが挙げられる。アメリカの太平洋軍も18年5月にインド太平洋軍に改称された。
 インド太平洋構想の中核をなすのが日米印豪4ヶ国(クアッド)で、最初の動きは2004年のスマトラ沖地震の際、安倍首相の呼び掛けでこの4か国による支援体制が立ち上がった。その後オーストラリアが中国に配慮して離脱したが、中国が政治・経済・軍事面で一方的な拡張を目指したことから、これに歯止めを掛けて自由で開かれたインド太平洋の枠組みを維持・強化すべく2017年にクアッドが復活した。マラバール海軍演習には17年から日本、次いでオーストラリアも20年から参加するに至った。
 当初インド太平洋広域を対象とした戦略が不明確だったため、インドは慎重な立場をとったが、中国の台頭を意識してインドの躊躇も解消され、2020年10月の4か国閣僚会議で正式にクアッドという名称が採用された。
 本年3月オンラインでのクアッド首脳会議が開催され、「自由で開かれたインド太平洋」のために尽力するというクアッドの精神が確認され、ワクチン製造支援やサプライチェーンに関する協力が協議された。さらに本年9月にはワシントンで対面でのクアッド首脳会議が開催され、先端技術、宇宙、サイバー・気候変動などの分野での協力関係が協議された。

おわりに
 インドは世界最大の民主主義国家として、独立後一貫して議会制民主主義を堅持してきたが、今後も高いレベルの経済成長を維持できるかどうかは、経済改革を不断に実行できるかどうかにかかっている。その中で議会制民主主義がしばしば足枷になることは否定できない。
 今年度8%を上回る経済成長を実現して、コロナ前の規模に回復することはできると思うが、農業改革を目指しながらも農業三法を撤回したことからも窺われるように、既得権をどう克服するか難しい面がある。今後既得権打破を伴う改革にどこまで切り込めるか、モディ政権の手腕が注目される。
 インドはインド太平洋の西側の防波堤であり、その国力・戦略能力からクアッドの重要な構成要素となる。中国にとって核心的な利益を構成する優先地域は南シナ海と台湾だが、その軍事的威圧・一方的現状変更を阻止する上で、インドがクアッドに加わることは、中国に対する二正面からの地政学的圧力を掛けることで意義があると思っている。

質疑応答
Q:インドは先日グラスゴーで開催された仏教サミットで自国を低開発国と言っている。1人当たりのGDPから見れば名目はそうだが、実際には核兵器・空母・原子力潜水艦を保有していることから考えて、彼らの言っていることは本当なのか。
 次に、クアッドの一員としてインドへの期待が強まっているが、一方でインドは中国とパキスタンへの専用兵器としてロシアから地対空ミサイルS400の導入を始めており、やっていることに一連性が無いように思える。この点どう考えていいのか。
A:実は「発展途上国」というのは自己申告で、誰でも使える。中国も都合によって自分を「発展途上国」と言っていて、誰も文句を言えない。ただ、これをいつまでも認めていいのか問題がある。
 次にロシアからのミサイル購入の問題だが、かつてバングラデシュの独立に際して、アメリカとインドは敵対した。また1972年のニクソンの訪中に際して、露払い役としてのキッシンジャーはインドと敵対するパキスタン経由で極秘に中国に入るという意表を突いた行動をした。インドは武器に関しては長期的にロシアから購入しており、現在アメリカからの輸入が増えているとはいえ、まだ過半数はロシアからのものである。アメリカとしても今までのインドとロシアの関係は認めており、今回のミサイルの件を仕方ないことと見ると思う。
 インドはロシアとの関係を中国に対する牽制に使える。もし仮にインドと中国の間で何かあった時に、ロシアがどちらにつくかは分からない。不思議とインドとロシアは友好的な関係にあり、この点は日本と違う。インドを通して見ると、ロシアと中国の複雑な関係が見えてくる。

【Y】ヤングサロン第37回講演会を開催しました

テーマ:「シニア人材が日本を救う」

2月16日(日)、国分寺労政会館にて34名参加の下、第37回The Young Salonを開催、当三田会会員である中原千明さんを講師にお迎えし、「シニア人材が日本を救う」というテーマでお話し頂きました。 中原さんは1973年に慶応義塾大学を卒業後、都市銀行に入行、不動産や企業年金等幅広い分野で活躍され、退職後61歳で起業、基金運営研究所㈱を設立、一般社団法人年金基金運営相談センター理事長に就任。その後事業を拡大して2013年に㈱CNコンサルティングを設立、シニア人材の雇用と戦力化に尽力、第一戦の経営者として活躍しておられます。 尚、引き続き行われた懇親会には講師を含め19名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。以下に印象的な言葉を抜粋し掲げます。

    1. 自己紹介
      入行後、本部で東日本の営業責任者として厚生年金基金を中心に4兆円という多額の資金を運用するなど様々な業務を行っていたが、その後海外行員の不正問題などによる過重なストレスから髄膜炎を発症。一時社会復帰が絶望視されたが奇跡的に回復。一度は人生も終わったと思った処からの再出発を行った。 日本は生産年齢人口減少がGDPの低下を招き日本経済が落ち込んでいるが、生産年齢人口、15~64歳を10年間伸ばし、75歳位迄とすれば余り悲観しなくても良いのではないかと考えている。

 

    1. 少子高齢化
      わが国では2025年頃には国民の3人に1人が65歳以上になると見られている。14歳以下の年少人口の山は1955年、続いて段階ジュニアの時代1980年があるが、その後緩やかに減少し、これが生産年齢人口の減少へと繋がる。平均寿命が延びた事で2008年頃迄には人口が増え続けてきたが、それ以降は年少人口の減少により人口増の限界が出てきた。将来的には人口は5,000万人位、独居老人の世帯が3割位で、若い人の単身世帯が1割、計4割が単身になる可能性が高い。

      図1 日本の総人口の長期推移:年齢構成別、1880~2115年
      講演資料1資料:旧内閣統計局推計、総務省統計局「国勢調査」「推計人口」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成 29 年推計[ 出生中位・死亡中位推計 ])

 

    1. 高齢者比率の増加による社会保障費の増加
      現状が続けば年金の受給者が増え、支える人がいなくなる事から若い人の負担が増える不安がある。最後は税金を投入する等で厚生年金が破綻する事はないが、全体として貧しくなる。 働き方改革による高齢者雇用機会の創出、年金の支給開始年齢の引上げ、シニア人材、女性、外国人労働者の活用等様々な努力・取り組みがなされているが、シニア人材の活用・頑張りが日本を救う大きな力になると考えている。

 

    1. シニアが持っている魅力
      シニアは業種を問わず経験が豊富。仕事・趣味・プライベートを問わず色々な人脈があり、コミュニケーション能力がある。また賃金よりもむしろ生きがいを求める人や社会貢献を望む人も多い。

 

    1. 再就職が難しいのは何故か - シニア人材の問題点と課題
      シニア側の問題点としては過去の実績・手法・栄光にしがみつくことで、組織チームの中で浮いてしまい、結果ぞんざいな態度をとる人や、ポスト・報酬に不満を持つ人もいて、会社が受け入れたとしてもチームとして働く上で大きな問題を抱える人もいる。 米国を始め海外では会社の人材募集において年齢・性別不問という所が殆どだと思う。今後多様性のある人が活躍できる社会になっていくのではないか。シニアに頑張って欲しいというのが自分の考えである。

 

  1. 現役としての心構え
    健康に生きて
    きちんと食事ができる事に感謝。会社が収益を上げ税金を納め、雇用を増やす事で社会に貢献できる事に感謝。アイデアがあったらすぐに行動に移すことを自分の信条にしている。今日より明日、明日より明後日と日々研鑽し、世の中の観察、その変化に気づく事が極めて重要である。

<<< レジュメ <<<

Ⅰ. 取り巻く労働市場環境
日本が直面する厳しい現実『少子高齢化』への対応 ⇒ 減少する人口と増加する高齢者比率

  1. 国民の『約3人に1人が65歳以上』という高齢化社会が到来
  2. 高齢者比率の増過による社会保障費の増加
  3. 国も推し進める『シニア人材の活用』
  4. シニア人材向けの再就職に特化した人材派遣会社・求人サイトの増加

Ⅱ. シニアが持っている魅力
積み上げてきた『経験』は知識に勝る

  1. ベテランならではの安心感
  2. 幅広い人脈
  3. 賃金の多寡に関係ない『旺盛な労働意欲』
  4. 『社会貢献』への意識
  5. 成功体験と失敗体験の蓄積
  6. 即戦力となりうる豊富な人材

Ⅲ. 再就職が難しいのは何故か?
シニア人材が抱える『問題点や課題』を再認識する

  1. シニア人材の受け入れ体制が十分ではないこと
  2. シニア本人の高いプライドや実績への拘り・再就職先の給与やポスト等の待遇に不満を持つ
  3. ・社内に上下関係を作りたがる
  4. ・過去の実績や栄光にしがみついている
  5. 社会環境の変化への対応が苦手・パソコン・スマホ等、新しい機械に慣れるまでに時間がかかる
  6. ・経験のない仕事に『尻込み』してしまう
  7. ハングリー精神の欠如
  8. 健康面・体力面の不安

Ⅳ. 企業が『シニア人材』に求めるものとは?

  1. 会社を離れても『売りになるスキル』を持っていること
  2. 周囲の人に必要とされる人間であること
  3. 心身ともに健康管理をしっかり行うこと
  4. ポジティブであること

◎最後に

生涯現役でいるための心構え

  1. 感謝の気持ち
  2. 今日より明日、明日より明後日
  3. 世の中をよく観察すること

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