【Y】第43回ザ・ヤングサロン「知と飲を満たしたサントリー府中工場見学」

 2023年3月26日(日)、33名が参加し、サントリー府中工場の工場見学を実施しました。7年ぶりの工場見学
になりました。概要は以下の通りです。
                      記
第43回ザ・ヤングサロン
            テーマ:サントリー府中ビール工場見学
1.サントリー府中工場の天然水ビール -つくりのこだわり-
 ・豊かな自然でろ過された天然水仕込み
 ・良質の麦芽、ホップの素材選び
 ・ダブルデコクション製法による仕込みと、アロマリッチホッピング製法によるホップの投入
2.技術と味を楽しんだ工場見学
   工場見学の人数制限もあり、18名と15名との2組に分かれて工場を訪問しました。
  当日は、あいにくの雨でしたが、分倍河原駅からの送迎バスに乗り、快適に移動ができました。
   工場見学では、案内係から工場の成り立ちと立地へのこだわりの説明を受けました。その後、
  初めに麦芽・ホップの素材をみて、それから仕込、発酵、貯酒、ろ過の工程の解説と製造現場を見学。
  無菌室内の自動パッケージングで完成という一連の製造工程を学びました。
   見学後には、出来上がった生ビールの試飲、3つの生ビールの飲み比べ、さらに試飲のおかわり。
  70分間の工場見学の終了時には、ほろ酔い気分。皆さん多くのお土産を買い、帰途につきました。

今回の工場見学は、参加者の皆さんからとても好評をいただきました。今後も、機会があれば、
ザ・ヤングサロンの中に、工場見学、企業訪問を取り入れていきたいと考えています。
(文責:小林(一) 写真:青木、小林(一))

 

【Y】第42回ザ・ヤングサロン「激動の世界におけるJICAの事業展開」を開催

 2022年11月27日(日)、並木公民館にて32名参加の下、第42回The Young Salonを開催、当国分寺三田会会員でもある小島眞さんの紹介で、講師としてJICA企画部長の原昌平氏をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。原氏は、1989年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、(旧)海外経済協力基金に入社され、大蔵省出向などを経て、1999年から国際協力銀行で中央アジア・コーカサスを担当、2008年から国際協力機構(JICA)でイラク事務所長、南アジア部長、民間連携事業部長、本年10月から企画部長を歴任されている方す。
 一方で、新型コロナ感染症の第8波が始まりつつある状況のなか、感染症対策には万全を期した上で講演会を開催、懇親会の実施は見送りました。講演の概要は以下の通りです。
                      
                        記
第42回ヤングサロン講演会
                                            2022年11月27日
                激動の世界におけるJICAの事業展開
                                 国際協力機構(JICA) 企画部長 原 昌平

1.JICAの略歴
 1950年代に技術協力が立ち上がり1974年に国際協力事業団(JICA)発足。 2008年にJICAと国際協力銀行(JBIC)のODA部門が統合され独立行政法人国際協力機構(新JICA)が発足し、政府開発援助における技術協力、有償・無償の資金協力を行っている。 旧JICA発足時に海外移住事業団がJICAに統合されたが、その後時代の趨勢を反映し海外移住事業は縮小されている。
現在常勤の職員は約2000名弱、期限付きのスタッフや海外の現地スタッフを合わせると、全世界でさらに多い人員が開発協力に携わっている。
2.JICAを取り巻く環境
 最新の開発協力大綱は2015年に定められたが、現在見直し中。 2015年に採択されたSDGsの実現に向けてJICAも役割を果たして行く。 今国家安全保障戦略の議論がされており、自由で開かれたインド太平洋構想にODAがいかに貢献していくのかが課題となっている。 また、国内での地方活性化等の政権が掲げている課題への対応も行っている。
 それらの環境の中でJICAの組織ミッションとして「人間の安全保障の実現と質の高い成長の実現」を、またビジョンとして「信頼で世界をつなぐ」を掲げている。 中期計画として ①自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて国際社会で日本のリーダーシップを発揮するための貢献 ②国の発展を担う親日派・知日派リーダーの育成 ③気候変動への取り組み ④国内での地方活性化への貢献 を4つの重点領域とし、信頼関係の構築などの4つのアプローチの重視を挙げている。
3.JICAの業務
 法律上では開発途上地域の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的とすると規定されている。 即ち、相手の国の為になることを行なう業務を通じて、国際的に皆で協力しようという気運を作り、日本及び国際経済社会の健全な発展の為に貢献するということ。
 具体的には研修員受入・専門家派遣・機材供与等の技術協力、円借款及び海外投融資の有償資金協力、無償資金協力、海外協力隊によるボランティア、海外移住支援、緊急援助隊による災害援助協力、人材養成等幅広い業務を行っており、その一環として中小企業・SDGsビジネス支援を通じた地方創生にも取り組んでいる。
一般会計におけるODA予算は2011年以降1997年の約半額に減っているが、ODAを使って日本を信頼してくれる仲間を増やすことは非常に重要だと思っている。
4.JICAの組織
 本部機能として地域毎の担当部署と分野毎の担当部署がある。 海外向けの仕事が中心だが国内にも14か所の拠点があり、語学を中心とした協力隊員の訓練、日本に来た研修員の受入れ、研究機関・大学・企業等とのコーディネイション、協力隊員の募集、中小企業との連携等を行う。
 海外では先進国を除くほぼ全世界に拠点を持つが、海外におけるノウハウは長期間その地に勤務するナショナルスタッフに溜まっており、これをいかに生かしていくかが大きな課題。
5.最近のハイライト
 現在コロナが大きな課題で、コロナ対策の支出や南アジアを中心に海外からの出稼ぎの送金の減少等で財政上困っている国々に約3,800億円の円借款による財政支援を行う一方で、病院建設等を通じて治療体制強化、予防体制強化、研究・警戒態勢強化への貢献を進めている。
 次に気候変動対策では、緩和策としてインドでのデリー地下鉄建設やケニアでの地熱発電所改修の支援を、適応策としてフィリピンでの河川改修の支援を、また緩和策・適応策横断型としてインドでの森林開発への支援等を実施。 2050年のカーボンニュートラルが国際公約だが、エネルギー消費の伸びを見込んでいる貧しい国々に一律でそれを求めるのかが難しい課題で、バランスを考えながらより環境への負荷が低いエネルギー源に移行していく為の支援を考えていかなければならない。
 他にも民間部門と公共部門が共同で行う事業への支援や開発途上国の起業家への支援も行っており、その例としてケニアにおけるバイオリサイクル事業への出資やベトナムでの風力発電事業への支援等がある。 また外国人材受入に関して「世界の労働者から信頼され選ばれる・日本」となることを目指した活動など、国内の地方を中心とした国際化を進める取り組みを行っている。
 デジタル化に関しては、いろいろな方々と連携して取り組む必要を痛感している。
 国際紛争への対応として今一番ホットなのはウクライナで、今までに780億円の財政支援を行い、更に日本の災害経験の共有を進めている。 また、JICAの支援で地雷除去の経験を積んだカンボジアの人たちから地雷除去のノウハウを共有してもらうための支援を行っている。
                                     (文責:小林(一) 作成:板橋)

  

【Y】第41回ザ・ヤングサロン「生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜」を開催

 2022年10月23日(日)、光公民館にて24名参加の下、第41回The Young Salonを開催、ヨガ講師の冨永ゆ
かこ氏お迎えし、ヨガの講義と実技を行ないました。コロナ感染症対策には万全を期した上で対面で行ない
ました。しかし懇親会の実施は見送りました。ザ・ヤングサロンとしては、久しぶりの実技をともなう講演会
で、とても有意義な時間となりました。講演の概要は以下の通りです。

                     記
第41回ザ・ヤングサロン講演会
     テーマ:生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜
                                      ヨガ講師 冨永ゆかこ
1.講師紹介
 YIN YOGA in ASIA 最高指導者Victor Chng先生、YIN YOGA JAPAN代表 川端友季湖先生のもと、タイ・
 バンコクで指導者養成コースを修了。在タイ14年を経て2020年より国分寺に在住。現在は西国分寺を
 中心に少人数ヨガクラスを開催。セレオ国分寺での屋上ヨガ、清正公寺での寺ヨガ(日本橋浜町)など
 開催。11月26日には国分寺市のぶんぶんウォーク・史跡指定100周年記念事業イベントにて、史跡ヨガ
 を担当されるヨガ講師です。
2.はじめに 進化した陰ヨガとは
 ・古典的なハタヨガ、古代中国の陰陽論・中医学をベースに、最新の筋膜リサーチや解剖学のideaを
  加えて進化したヨガ
 ・静かな動きの中に最小限の筋肉の力を使って、最小限の負荷をかけてポーズを維持する。
 ・Energy movement 気のめぐりを整える(循環、調和、足に向かって下していく)
 ・Fascia Release 呼吸で内側から筋膜リリース(解剖学や最新の筋膜リサーチに基づく)
 ・Re-Alignment 着実の体の構造が変わる(歯の矯正のように・・・)
  平均寿命と健康寿命の差は、男性(81歳-70歳)11年、女性(88歳-74歳)14年あり、
  この健康寿命をのばすアプローチです。
3.本日のポイント
 1)正しい姿勢を身につける
   姿勢は大事!→歪み・腰痛・肩こり・膝痛・・・に関係。呼吸にも影響する。
  ・まずは背骨(脊椎)を整える
   真っ直ぐな背骨=自然なS字のカーブがある状態
   衝撃をクッションで吸収できる
  ・横隔膜と骨盤底を平行な状態に⇒最も呼吸ができる
  (実技)<正しい立ち方、座り方>
     立っているときは、左右の足の裏に均等に体重が乗る
     座っているときは、左右の座骨に均等に体重が乗る
     尾骨と頭頂を同じ線でつなげる
     髪の毛一本を上から引き上げられている感じ
     背中のバックラインをギュッと閉めない
     
 2)みずみずしい体に
   人体の60%以上は体液(卵子の時は99%が水分);私たちの体は水で形づくられている
  ・骨や内臓を包んでその構造をキープしているFascia(結合組織)は、ネットやスポンジの様に
   全身に3Dに広がっていて、その繊維上にも水分が存在している。ヨガで多方向に動かしていくことで、
   水が循環し、全体に水分が行き渡っていく(乾いたスポンジに水を含ませていくイメージ、水の入れ
   替えができる)
  ・体の中の水分を良い状態に保つことも大事、水は流れないとよどんでしまう
  ・どこかが痛い、かたい:水分が減って乾いた状態になっていたり古くなっていたりする
  ・Fascia結合組織:ミルクレープのイメージ
   (実技)筋膜のつながりを感じてみよう!筋膜のつながりを確かめる姿勢

 3)関節の可動域と安定性を高める
  ・引っ張るでもなく、伸ばすでもなく、ストレッチでもない動き(ハリのある水分を保った肌のイメージ)
  ・下半身の3つの関節、足首・ひざ・股関節の調和した動き方
    ⇒怪我をしにくい
    ⇒省エネでエコな体の使い方
  (実技)長生き筋肉「内転筋」を使う練習

4.実技 休憩、換気の後、講師の指導で約1時間の実習を行なった。
     詳細は、下記の写真を参照にしてください
                                  (文責:小林(一) 写真:青木)

【Y】第40回ザ・ヤングサロン講演会「ウクライナ侵略後のロシア東欧」を開催しました。

 2022年7月17日(日)、都立多摩図書館にて54名参加の下、第40回The Young Salonを開催、講師として元
外交官の角崎利夫氏お迎えし、お話し頂きました。コロナの第七波が押し寄せつつあるなか、感染対策には万
全を期した上で対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。ロシアのウクライナ侵攻が続いて
いる中、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                      記
第40回ザ・ヤングサロン講演会
               テーマ:ウクライナ侵略後のロシア東欧
                                     元外交官 角崎 利夫氏
講師紹介
 1972年東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。これまで在ロシア日本国大使館公使、
 在カザフスタン共和国特命全権大使、在セルビア共和国特命全権大使を歴任され、
 ロシアには4度・通算10年おられました。
はじめに
 今回の講演が依頼された時には、7月には「ウクライナ戦争」は終結しているだろうと想定して原稿を考え
 たが、現在まだ戦争が継続している。ここでの講演は「ウクライナ戦争」が「世界にどのような影響を与え
 るか」という観点からお話ししたい。
*在外勤務23年
   ロシアでの勤務10年  1975~77  ブレジネフ時代
               1985~87  ゴルバチョフ時代
               1996~99  エリツイン時代
               2000~02  プーチン時代
   旧ソ連カザフスタンでの勤務3年  2002~05
   セルビアでの勤務4年       2009~2013
本 日 の 話 の 柱
         Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
         Ⅱ 戦況の推移
         Ⅲ 今後のシナリオ
         Ⅳ 戦争の様々なインパクト
         Ⅴ 戦争からの教訓
Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
1.プーチンの思想・信条
(1)ロシア帝国復活の夢
   東スラブ3部族(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)を中心に帝国の版図を復活する夢
    (ア) ロシアとウクライナの歴史解釈・評価の違い
       モスクワ大公国はキーエフ公国の継承国か否か?
       コサックとロマノフ王朝の庇護協定は歴史上の金字塔か否か?
       ロシアでは是だと教え、ウクライナでは否と教える。
       (コサックとは脱走農奴が形成した軍事共同体で、ウクライナの自由の気風を生んだ。)
    (イ) プーチン論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」
       東スラブ3部族は歴史的に一体であり、ロシア正教を信じる点でも共通で、ルースキーミール
       (ロシアの世界)を形成すべき。ロシア正教会のキリル総主教は全面的にプーチン支持。
    (ウ) ウクライナはソ連が作った人工的国
       レーニンが作り、スターリン、フルチシチョフが領土を追加した
    (エ) 東方正教会の影響
       2019年、ウクライナ正教会がロシア正教会から分離独立し、プーチンが激怒。
(2)西欧個人主義に対置されるユーラシア主義
   ユーラシア主義とは、ロシア革命・ボリシェヴィキ政権に対する反応のひとつとして1920年代に白
   系ロシア人(非ソビエト系亡命ロシア人)の間で流行した民族的思想潮流で、ロシアはアジアにも
   ヨーロッパにも属さず地政学的概念である「ユーラシア」に属し、西欧と異なる価値観を持つとい
   う思想。プーチンはユーラシア主義の持つ愛国心、集団主義、大国性といった優れた価値観が西欧
   の極端な個人主義から保護されるべきと主張。
(3)在外ロシア人の救済(ウクライナ等にロシア人が多数住んでいる)
    (ア)プーチンは「25百万人に上る在外ロシア人の救済が自らの使命」と語る。
       ウクライナ東部・南部の占領の理由付けにはこの「ロシア人救済」が利用され、ウクライナ全土
       には「ルースキーミール樹立」が理由付けに使われている。
    (イ) ロシア人の多いカザフスタンやラトビアはプーチンの発言を懸念する十分な理由がある
    (ウ) 欧州で在外母国民が多く民族統一主義傾向がみられるのは、ロシア以外はハンガリー、セルビア
2.安全保障上の脅威認識(NATOの東進)
(1)プーチンが脅威を感じたであろう出来事と成功体験
      2003年 ジョージアのバラ革命
      2004年 ウクライナのオレンジ革命
      2008年 ブッシュが、ウクライナとジョージアのNATO加盟後押し、独仏が慎重姿勢で、
           玉虫色のNATO声明となった
           (2008年 ロシアがジョージア侵攻し、アブハジア、南オセチア占拠)
      2012年 モスクワ等ロシア各地で反政府デモ
      2014年 マイダン革命で親露派大統領がロシアへ脱出
           (2014年 ロシアがクリミヤ、ドンバス地方侵攻、占領)
(2)プーチンの主張
    (ア)NATOへの不信感=WP(ワルシャワ条約機構)が消滅したのになぜ存在?
    (イ)NATOは東に拡大しない約束があったのに、旧東欧のみならず、旧ソ連諸国まで引き込んでいる
(3)NATOの反論
    (ア)文書で不拡大を約束したものはない。
    (イ)ゴルバチョフが2014年、当時NATO拡大問題は提起されたことはないと発言。
    (ウ)東欧・旧ソ連諸国がロシアを脅威に感じ、NATO加盟を強く希望した。
3.プーチンが欧米の弱体化を認識
                      1980年代        現在
     G7のGDP割合             70%        50%
     BRICSのGDP割合            7%        22%
     2021年のアメリカのアフガニスタン撤退の失態
     今年(2022年)6月、G7やNATO首脳会議にぶつけてBRICS首脳会合開催
     しかし、BRICSには各国を結びつけるイデオロギーがない。
4.ウクライナ側の侵略誘発要因はあったか?ナチ化は見られたか?
(1)ゼレンスキーはバイデン政権誕生後、親露派への挑発を活発化
     1.親露派地域に特別な地位を与えるとのミンスク合意を実行せず
     2.親露派TV局の封鎖
     3.親露派勢力のリーダーでプーチンに近い人物逮捕
     4.クリミヤ奪還国際会議の企画
(2)ウクライナ軍の強化への懸念
(3)第2次世界大戦でナチス軍がウクライナを占領した時、バンデラというウクライナ民族主義者が独立の
   ためナチと協力した。プーチンはゼレンスキー政府にバンデラ崇拝者がいることをもってナチ政権と
   主張するが、同政府をナチとは言えない。
Ⅱ 戦況の推移
  ロシアは初戦で失敗し、短期で勝利することができなかったが、ウクライナ領土の20%を既に支配し、
  じりじりと東部で支配地域を増やしており、ウクライナ側の反撃は容易ではない。今後も消耗戦が続くが、
  いずれ停戦の動きが出てくるだろう。
1. 初期のプーチンの誤算
(1)ウクライナ軍・国民の抵抗について
    (ア) 軍の強化 ①NATO方式の指揮系統 ②士気 ③戦闘経験 ④兵員と武器増強
    (イ) 国民がロシア軍を歓迎せず、ウクライナ軍に協力した。
    (ウ) ゼレンスキーの戦争指導者としての力量
(2)ロシア軍の力量について
    (ア)緒戦での失態
      1.サイバー攻撃でインフラ・通信設備を麻痺させることに失敗
      2.一点集中攻撃すべきところ、総花的攻撃で失敗
      3.各部隊がバラバラな戦い
    (イ)上位下達の指揮命令系統で融通性欠如
    (ウ)最新兵器・精密兵器の不足
    (エ) 歩兵戦力の不足
(3)諸外国の反応について
    (ア)予想に反し、NATO諸国が結束した
    (イ)中国はロシアを軍事的に支援しなかった
      ① 中国は米国の二次制裁を恐れる
      ② 中国は領土保全が民族自決より重要
      ③ 一帯一路でのウクライナの重要性
    (ウ)最大の同盟国カザフスタンは協力せず
Ⅲ 今後のシナリオ
1.戦争は長期化するか?
  3月初めBBCが報じた5つのシナリオ
     1 X  短期決戦、ロシアの勝利、ゼレンスキー政権崩壊
     2 〇  長期(包囲)戦、攻防泥沼化
     3 △  欧州戦争、モルドバ、ジョージア、バルト三国へ拡大
     4 〇  外交的解決、停戦合意
     5 △  プーチン失脚
          私見:⑵から⑷への移行が年末までに実現する可能性はある。
    (ア)ウクライナ大統領は2月24日の線まで領土を取り戻すと主張するが、容易でない。
    (イ)欧米は
      ・アメリカ:ウクライナに譲歩の圧力はかけないとバイデン大統領発言。
      ・欧州は正義派(英・ポーランド、バルト三国)と妥協派(独仏伊)に分かれる。
2.ロシアの世論・欧米の世論
(1)ロシアでのプーチンの支持は根強い  7~8割の支持
     ・ロシアを苦難から救った救世主
     ・プロパガンダの効果 FBやインスタグラムの中止
     ・声を上げられない国民
     ・戦争時の愛国心高揚
(2)今後の欧米の世論:支援疲れ、難民疲れ?
3.ロシアの経済制裁の影響 長期的にはあるが
4.ロシアでのクーデターの可能性は小さい
5.欧州戦争への発展の可能性と核使用の可能性
     ・欧州戦争への発展は  その可能性は低い
     ・核使用の可能性    その可能性は低い
Ⅳ 戦争の様々なインパクト
  世界に突き付けた問題はあまりにも大きく多岐にわたる。
    1. 戦争の性格を変えた 第2次大戦や朝鮮戦争以来のイデオロギー戦争で21世紀型戦争
    2. グローバリゼーションへの影響
    3. 世界経済に与える影響
    4. 核戦術の脅しとNPT(核兵器不拡散条約)体制への負の影響
    5. 世界の安全保障の問題や地球規模問題へ、今後ロシアの関与はどうなるか
    6. 世界で拡大するナショナリズム勢力
Ⅴ 戦争からの教訓
  プーチンは力は正義と考えている。プーチンが勝利すれば、この考えが正しいと認とめることになり、
  今後現状変更勢力による力の行使を助長する。
                         (文責:小林(一) 文章作成:石川 写真:青木)

 

【Y】第39回ヤングサロン講演会を開催しました。

 2022年3月27日(日)、都立多摩図書館にて49名参加の下、第39回The Young Salonを開催、
講師として塾医学部卒業で国立がん研究センター中央病院感染症部長、塾医学部客員教授の岩田
敏先生をお迎えし、「現代の感染症とその対応について」をテーマにお話し頂きました。コロナ
が落ち着いてきたとはいえ、まだ気を緩められる状況ではなく、感染対策には万全を期した上で
の対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。皆さんが直面している新型コロナ
などに関する内容で、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                 記
The Young Salon第39回講演会
      テーマ:現代の感染症とその対応について
       -新型コロナウイルス感染症のパンデミックを踏まえて-
           国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院感染症部/感染制御室
                                     岩田 敏 様
■現代の感染症
  衛生環境の向上、ワクチンの普及(予防法の進歩)、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗原
 虫薬の開発 (感染症治療法の進歩)、診断技術の進歩等 感染症のコントロールは格段に進歩した。
 一方交通網の発達による感染症のグローバル化 、新興・再興感染症の発生、少子・高齢化社会に
 よる易感染患者の増加、耐性菌の増加等、感染症を取り巻く環境は変化している。
・新興・再興感染症
 新興感染症: 最近20~30年間の間で人類の疾病として初めて認識された感染症でHIV/AIDS、エボ
 ラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器 症候群(MERS)、ジカウイルス感染症、
 C型肝炎、成人T細胞性白血病、出血性大腸炎、新型インフルエンザ(A/H1N1)、 新型コロナウイ
 ルス感染症 (COVID-19)などがある。
 再興感染症: 一度は人類の重大な公衆衛生上の問題ではなくなったように見えたが,再度疫学相
 の変化を伴って増加してきた感染症であり、結核、マラリア、百日咳、季節性インフルエンザなど
 がある。
・2002-2003年 SARS(重症急性呼吸器症候群) 致死率 9.4%
・2009年 新型インフルエンザ 致死率 2-9% (日本:0.01%)
 死亡者は「季節性」では高齢者で多いが 「新型」ではほぼ全年齢にわたっていた
 日本: 2,200万人の患者発生に対して、死亡199名と少なかった
・2010/2011シーズンの流行状況をみて2011年より新型インフルエンザの指定がハズレ、季節性イン
 フルエンザとなった
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬(タミフル)の効果
・2015年 MERS(中東呼吸器症候群) 致死率 34.4%
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(2019年~)  致死率 5.62%➡0.31%
 現在(2022.3.27)までの世界の患者数(4億8千万人)、死亡者数(6百万人)
 日本の患者数(6,285千人)、死亡数(27,614人) 全人口の約4.0%に相当
 新型コロナウイルスの懸念される変異株(ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株)
 重症化する人の割合は高齢者が高く、若者は低い傾向にある 。
 重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している
 重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方、一部の妊娠後期の方
 重症化のリスクとなる基礎疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、
 心血管疾患、肥満、喫煙。 ワクチン接種を受けることで、重症化予防効果が期待できる。
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬
 3つの密を避けましょう!
 感染リスクが高まる5つの場面:「飲食を伴う懇親会等」「大人数や長時間におよぶ飲食」「マス
 クなしでの会話」「狭い空間での共同生活」「居場所の切替り」
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のマネジメント(基本的な治療方針)
 重症度分類 「軽症」、「中等症Ⅰ(呼吸不全なし)」、「中等症Ⅱ(呼吸不全あり)」、「重症」
・ばい菌やウイルスがうつる道筋
 「空気感染」:はしか 水ぼうそう けっかく
 「飛まつ感染」:インフルエンザ かぜのウイルス 新型コロナウイルス おたふくかぜ ふうしん
 マイコプラズマ肺炎
 「接触感染」:おなかのかぜウイルス( -ロタウイルス -ノロウイルス)エイズウイルス 肝炎
 (かんえん)ウイルス 耐性(たいせい)菌( -ぶどう球菌 (MRSA) -緑のう菌 -カルバペネム
 耐性腸内細菌科細菌(CRE) -バンコマイシン耐性腸球菌(VRE))
・標準予防策 手洗いが対策の基本、サージカルマスクの着用
・基本的な感染予防 ワクチン接種
・新型コロナワクチンの種類と特徴
 不活化ワクチン、組み換えタンパクワクチン、ウイルスベクターワクチン、核酸ワクチン
 (DNA、mRNA)
■ワクチン接種状況 (日本のワクチン接種率 2022年3月25日報告)
 都内全人口(1回79.0% 2回78.4% 3回37.4%) 12歳以上(1回87.1% 2回86.4%  
 3回—–)
 高齢者(65歳以上)(1回92.8% 2回92.5% 3回77.4%)
 発症予防効果を維持するためには3回目接種を受ける必要がある
■ワクチンの有効性はどのように評価するか
 発症予防に対してワクチンの有効性90%とは?
 (✕)ワクチンを接種した90%の人は 病気にならない
 (〇)ワクチン接種すると病気になる確率が90%低くなる (10分の1になる)
■有害事象(副反応疑い)と副反応の違い
 有害事象(副反応疑い):ワクチン接種後に生じるすべての事象のこと(ワクチンとの因果関係が
 明らかなもの、不明なもの、他の原因によるものをすべて含む)
 副反応  ワクチンの接種によって起こる、免疫ができる以外の反応のこと
■がん患者に対する新型コロナウイルスワクチン接種
 新型コロナウイルスワクチンの接種はがん患者においても推奨される
        (休憩、室内換気)
■わが国の65歳以上の高齢者比率は世界一で今後も増加見込。それに伴い国民医療費も年一人34万円
 と増加し、65歳以上の医療費は全体の60%で年26兆円。2020年の平均寿命は、男性82歳
 (世界2位)、女性88歳(世界1位)。また健康寿命は、男性72歳、女性75歳。
■肺炎は日本人の死因のトップ5であり、 そのほとんどが 65歳以上の高齢者(97.8%)
・肺炎の負のスパイラル 高齢の方の肺炎は繰り返しやすく、入院などで体力が低下すると負のスパ
 イラル に陥りやすいため、肺炎の発症予防が重要である。
・65歳以上では、肺炎による入院で認知症の発症リスクが 約2倍に上昇するデータもある
■肺炎球菌感染症への対応  誤嚥防止対策、ワクチン接種、治療薬(抗菌薬)
                          (文責:小林(一) 文章作成・写真:青木)

【Y】第38回ヤングサロン講演会を開催しました。

 2021年11月21日(日)、都立多摩図書館にて40名参加の下、第38回The Young Salonを開催、講師として拓殖大学名誉教授で当国分寺三田会会員でもある小島眞氏をお迎えし、「インドの最新動向と日米印豪(クアッド)の行方」をテーマにお話し頂きました。コロナ感染者数がかなり落ち着いてきたとは言え、まだ気を緩められる状況ではなく、感染対策には万全を期した上での対面での講演会であり、懇親会の実施も断念せざるを得ませんでしたが、2020年2月以来1年9ヶ月振りのThe Young Salonで、久々に顔を合わせた方々も多く、有意義な集いとなりました。
講演の概要は以下の通りです。

                         記
第38回ヤングサロン講演会
                                             2021年11月21日
                 インドの最新動向と日米印豪(クアッド)の行方
                                        拓殖大学名誉教授 小島 眞
 インドは馴染み難い印象があるかもしれないが、かつて渋沢栄一が紡績業を起こす上で、綿花輸入のための航路開設に関してインドのタタの全面的な協力を得ており、また戦後まもなくのネルー首相の来日時には日本中が歓迎ムードに包まれるなど、50年代頃まで日本と非常に近い関係にあった。その後日本も高度経済成長で付き合う国も増えて疎遠になっていった。そのインドも最近いろいろと注目すべき動きがあり、ここでは6つのテーマに沿ってインドの最新動向を理解する上でのエッセンスを提示し、クアッドの話に繋げていきたい。

1.インドをいかに捉えるべきか
 基本的知識として、インドの人口は13億人超、GDPは日本の半分強、1人当たり所得は2,200ドルぐらいだが、鉄鋼生産は日本を超え自動車生産も世界5位、コメについては世界最大の輸出国である。社会経済面で遅れている部分も多いが、平均寿命は約70歳、識字率74%、貧困率20%強と確実に進展してきている。
 インドを理解する上での基本的要件は、まず世界一多様性に彩られた国であるということ。言語・宗教・カースト・南北の地域差等、インドに関しては平均値では語れない。
 政治形態は連邦制で州政府の権限が大きく、全国一律の改革が難しい。1947年の独立後52年の第1回総選挙以降現在まで17回の総選挙を実施しているが、軍部が政治介入したことはなく、必ず総選挙を経て政権が変わるというルールが確立している。政党としては今や与党のインド人民党(BJP)が圧倒的に強く、かつてネルーやその一人娘インディラ・ガンディーが率いた国民会議派は衰退の一途を辿っている。
 91年頃から国民会議派の下で改革開放がスタートし、対外志向型の政策や規制改革を実施した。特に90年代以降大きく変わったのは、世界のIT革命に乗ってインドのIT産業が飛躍的な成長を遂げたことで、今ではインドのGDPの9%を占める最大の輸出産業となっている。
 各種経済改革を進めてきたインドだが、労働改革は取り残された分野である。硬直的な労働者保護の法律があることで労働集約的な製造業は拡大を阻まれてきた。他方、サービス部門にはこのような規制がなく、IT産業が伸びやすい。もう一つは農業関連の規制が強いことが挙げられる。

2.第1次モディ政権(2014~2019年)の実績
 現首相のモディは後進階級出身で民族奉仕団に加わって実力をつけ、政治活動に移った。2001年から13年間グジャラート州首相としてインフラ整備や外資導入に大きな実績を残し、その実績に基づいてインドの首相に就任。これまで20年間にわたって州や国の首相を続けてきたエネルギッシュな人物である。
 モディ政権の政策理念は、社会の変革と底上げを伴った成長によりインドを強くしたいというもので、新たに始めたのが“Make in India”という海外からの投資による製造業の振興策であり、また画期的なのがクリーン・インディアという農村でのトイレ革命とLPガスの無料接続や貧困世帯向けの保険の改善であった。さらに倒産破産法の成立や間接税の一本化など見るべきものがあったが、日本が学ぶ点が多いのがデジタル・インディアである。2009年にマイナンバーに相当する固有識別番号制度が導入されたが、モディ政権の下でその普及・充実が図られた。本人確認を証明できる公的手立てが提供され、かつて銀行口座を持てなかった貧困層も口座開設が可能となり、現金支給も受益者各人への口座振り込みが可能となった。
 第1次政権末期には経済的減速が顕著になり、再選が危ぶまれたが、選挙直前カシミールでのパキスタンの過激派テロによりインド人治安部隊40名ほどが殺害された。それに対して、国境を越えての空爆を実施し、国民に強いインドという安心感を与えたことで総選挙に圧勝した。

3.第2次モディ政権(2019~)と新型コロナのインパクト
 第2次モディ政権がまず取り組んだのは、イスラム過激派のテロが頻発していたカシミール問題であった。憲法改正によって同州の特別自治権を外し、中央政府の介入を容易にした。もう一つは国籍法改正を通じて、周辺国から流入する人の内イスラム教徒には国籍を与えないというヒンドゥー至上主義的な国籍法を導入したことである。これに対して、ベンガル人の流入増大を恐れるアッサム地方で暴動が起き、さらに全土でイスラム教徒の反発が広がった。
 その最中にコロナ問題が勃発した。最初の感染者が出たのは2020年1月末で、3月末にはロックダウンを実施し、全土封鎖・交通機関の停止に踏み切った。規制が段階的に緩和される中、1日当たりの感染者数も一時は10万人に上ったが、その後は徐々に減少し、本年2月には勝利宣言が出された。しかしそれと同じ頃、マハラシュトラ州で発生したデルタ株への対応が遅れたため、1日当たりの感染者数が今年4~5月頃には最大で約40万人に達し、伝統的な公衆衛生の貧弱さが露呈する結果となった。
 第1波に際しては、全土封鎖に併せて貧困者への福利パッケージを導入し、GDPの10%に相当する財政支出を実施した。第2波に際して重視されたのは、ワクチン接種である。インドはアストラゼネカのワクチンの世界最大規模の生産能力があり、本年4月頃まではワクチン外交を展開していたが、国内の感染拡大に伴い、国内向け供給を最優先した。10月末で1回接種が7.3億人、2回接種が3.2億人に達し、1日当たりの感染者も今年11月には1万人程度に収まってきている。
 経済的影響を見ると、昨年度第1四半期(4~6月)は大きなマイナス成長となったが、第3四半期からプラスに転じ、本年度第1四半期にはかなり回復した。コロナ禍の状況下でもモディ政権は果敢に経済改革を進めてきた。一つは製造業の面で、かつての“Make in India”は総花的でなかなか成果に結びつかなかったが、今回は13部門を対象に認可を受けた企業に対して、投資と売上に応じてインセンティブを与える生産連動型インセンティブスキームを導入した。また労働関連法の改正を実施し、従業員100人以上の事業所では自由に解雇できなかったのを300人以上に拡大した。
 さらには農業三法の導入である。これまでパンジャーブ州など一部の大規模農家は政府によるコメや小麦の買い上げで潤っていたが、大多数の農家は政府に買い上げてもらう余剰がなく、さらに農作物は州指定の市場でしか販売できないという規制があり、自由な販売ができず、企業との連携を有効に推進できない状況にあった。これを打破すべく、昨年9月に農業三法を導入したものの、農業先進州の農民達が連日反対のデモを繰り広げ、今年1月に最高裁が実施猶予の判断を下した。そうした中、一部農民団体の反対運動に根負けする形で、ついに一昨日になってモディ政権は農業三法の撤回声明を出すに至った。

4.軋みを見せる印中関係
 かつて近代インドには中国への警戒論を説いた宗教家や政治家もいたが、インドの初代首相ネルーは非同盟主義を掲げ、非共産圏諸国で最初に中華人民共和国を承認するとともに、中国のチベット支配強化にも宥和的態度をとった。しかし中国は1959年にダライ・ラマがインドに亡命して臨時政府を樹立したことに憤りを感じており、62年に国境紛争が勃発するに及んで、ネルーの対中政策は見事に打ち砕かれた。最近の国境問題についていえば、北東部にアッサム州などを抱えるインドにとってバングラデシュとネパールに挟まれた狭隘部が地理上の泣き所だが、2017年6月に中国がブータン国境内に侵入し、インド・中国・ブータンの国境合流点でインド・中国両軍の睨み合いとなった。徐々に既成事実を作って現状変更を図るのが中国の戦略だが、この時は同年9月に厦門でBRICSの会合を控えていたこともあり、2か月後に両軍とも引き揚げることになった。さらに2020年6月にインド北部カラコルム山脈のガルワン渓谷で両軍が衝突した。それまでの紛争と違いインド側に20名の死者を出すに至り、反中ナショナリズムが高まり、中国製品・中国投資のボイコットが広まった。
 1962年の国境紛争以降、インドは中国をパキスタンと並ぶ仮想敵国と見做していたが、経済面では実利主義をとり、主要なパートナーとして貿易関係も深まっていた。しかし2020年の衝突と前後して対中政策は大きく変わり、中国からの投資規制・中国アプリ禁止・中国製品への輸入規制強化といった措置がとられた。
 領土以外の印中間の争点として深刻なのが水問題である。中国は東南アジアを含めてアジアの主要大河の水源であるチベットを押さえており、インド・バングラデシュを経てベンガル湾に注ぐプラマプトラ川の上流で10以上のダムをすでに建設しており、さらには三峡ダムの3倍規模のダム建設計画があり、果てはプラマプトラ川を黄河に流すという壮大な計画もあると言われている。

5.深まるインドと日米両国との戦略的関係
 冷戦時代アメリカは反共の砦としてパキスタンを重視する中、インドはソ連との関係を深めた。特に1971年のバングラデシュ独立に際してインドは独立を支援したため、パキスタンを支援するアメリカはインドの動きを阻止すべくベンガル湾に原子力空母を配置するに至った。しかしソ連の崩壊後、アメリカはインド経済の重要性を認識するようになり、イスラム過激派のテロや中国への対抗上両国関係は改善し、インドにとってアメリカは最大の貿易相手国となっている。
 戦略的関係でも92年から米印2国間でマラバール海軍合同演習を実施しており、2008年には原子力協定、18年には「通信互換性及び安全保障協力」(Comcasa)といった重要な枠組みも締結されている。
 さらに米中対立の中でサプライチェーン再編の動きがあり、アメリカのIT企業のインドへの投資がかなり増えており、それに付随してアメリカの委託先となる台湾のIT企業の投資も増えている。
 日印関係を見ると、貿易面ではパッとしないが2008年頃からインドに対する投資がかなり増え、いろいろな分野で企業が進出している。市場規模が大きく、今後の拡大が見込めることから、企業の間では有望事業展開先として、インドがベトナムなどを抑えて上位にランクされている。特に重要なのは日本のODAを使ったインフラ投資が顕著で、2004年以降日本のODAの最大の供与先となっており、2009年完成のデリーの地下鉄事業を始め、貨物専用鉄道や高速鉄道も完成間近もしくは着工済みである。
 さらに注目されるべきは日印間での戦略的パートナーシップの進展であり、小泉首相時代に日印間の戦略的方向性が打ち出され、2006年に「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」が形成された。その後14年には「特別日印戦略的グローバル・パートナーシップ」、15年には「日印ヴィジョン2025」、18年には「日印ヴィジョンステートメント」等での日印関係の更なる格上げが進んでいる。
 最近ではデジタル面でも面白い取り組みがあり、インドの海底ケーブルをNECが手掛けるなど貴重な関係が実現している。また、日本はIT面での人材不足が大きな問題でこういった点でも日印間の関係が深まればいいと考えている。

6.日米印豪戦略対話(クアッド)の結成と今後の展望
 我々がアジアを語る時、この数年はインド太平洋という言葉が定着している。これは安倍元首相が言い出したことで、2007年にインドの国会で演説した際に「インド洋と太平洋の二つの海の合流」という言葉を使い、その後概念として定着してきたもので、その背景としてアジアでインドと中国の両雄が台頭してきたことが挙げられる。アメリカの太平洋軍も18年5月にインド太平洋軍に改称された。
 インド太平洋構想の中核をなすのが日米印豪4ヶ国(クアッド)で、最初の動きは2004年のスマトラ沖地震の際、安倍首相の呼び掛けでこの4か国による支援体制が立ち上がった。その後オーストラリアが中国に配慮して離脱したが、中国が政治・経済・軍事面で一方的な拡張を目指したことから、これに歯止めを掛けて自由で開かれたインド太平洋の枠組みを維持・強化すべく2017年にクアッドが復活した。マラバール海軍演習には17年から日本、次いでオーストラリアも20年から参加するに至った。
 当初インド太平洋広域を対象とした戦略が不明確だったため、インドは慎重な立場をとったが、中国の台頭を意識してインドの躊躇も解消され、2020年10月の4か国閣僚会議で正式にクアッドという名称が採用された。
 本年3月オンラインでのクアッド首脳会議が開催され、「自由で開かれたインド太平洋」のために尽力するというクアッドの精神が確認され、ワクチン製造支援やサプライチェーンに関する協力が協議された。さらに本年9月にはワシントンで対面でのクアッド首脳会議が開催され、先端技術、宇宙、サイバー・気候変動などの分野での協力関係が協議された。

おわりに
 インドは世界最大の民主主義国家として、独立後一貫して議会制民主主義を堅持してきたが、今後も高いレベルの経済成長を維持できるかどうかは、経済改革を不断に実行できるかどうかにかかっている。その中で議会制民主主義がしばしば足枷になることは否定できない。
 今年度8%を上回る経済成長を実現して、コロナ前の規模に回復することはできると思うが、農業改革を目指しながらも農業三法を撤回したことからも窺われるように、既得権をどう克服するか難しい面がある。今後既得権打破を伴う改革にどこまで切り込めるか、モディ政権の手腕が注目される。
 インドはインド太平洋の西側の防波堤であり、その国力・戦略能力からクアッドの重要な構成要素となる。中国にとって核心的な利益を構成する優先地域は南シナ海と台湾だが、その軍事的威圧・一方的現状変更を阻止する上で、インドがクアッドに加わることは、中国に対する二正面からの地政学的圧力を掛けることで意義があると思っている。

質疑応答
Q:インドは先日グラスゴーで開催された仏教サミットで自国を低開発国と言っている。1人当たりのGDPから見れば名目はそうだが、実際には核兵器・空母・原子力潜水艦を保有していることから考えて、彼らの言っていることは本当なのか。
 次に、クアッドの一員としてインドへの期待が強まっているが、一方でインドは中国とパキスタンへの専用兵器としてロシアから地対空ミサイルS400の導入を始めており、やっていることに一連性が無いように思える。この点どう考えていいのか。
A:実は「発展途上国」というのは自己申告で、誰でも使える。中国も都合によって自分を「発展途上国」と言っていて、誰も文句を言えない。ただ、これをいつまでも認めていいのか問題がある。
 次にロシアからのミサイル購入の問題だが、かつてバングラデシュの独立に際して、アメリカとインドは敵対した。また1972年のニクソンの訪中に際して、露払い役としてのキッシンジャーはインドと敵対するパキスタン経由で極秘に中国に入るという意表を突いた行動をした。インドは武器に関しては長期的にロシアから購入しており、現在アメリカからの輸入が増えているとはいえ、まだ過半数はロシアからのものである。アメリカとしても今までのインドとロシアの関係は認めており、今回のミサイルの件を仕方ないことと見ると思う。
 インドはロシアとの関係を中国に対する牽制に使える。もし仮にインドと中国の間で何かあった時に、ロシアがどちらにつくかは分からない。不思議とインドとロシアは友好的な関係にあり、この点は日本と違う。インドを通して見ると、ロシアと中国の複雑な関係が見えてくる。

【Y】ヤングサロン第37回講演会を開催しました

テーマ:「シニア人材が日本を救う」

2月16日(日)、国分寺労政会館にて34名参加の下、第37回The Young Salonを開催、当三田会会員である中原千明さんを講師にお迎えし、「シニア人材が日本を救う」というテーマでお話し頂きました。 中原さんは1973年に慶応義塾大学を卒業後、都市銀行に入行、不動産や企業年金等幅広い分野で活躍され、退職後61歳で起業、基金運営研究所㈱を設立、一般社団法人年金基金運営相談センター理事長に就任。その後事業を拡大して2013年に㈱CNコンサルティングを設立、シニア人材の雇用と戦力化に尽力、第一戦の経営者として活躍しておられます。 尚、引き続き行われた懇親会には講師を含め19名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。以下に印象的な言葉を抜粋し掲げます。

    1. 自己紹介
      入行後、本部で東日本の営業責任者として厚生年金基金を中心に4兆円という多額の資金を運用するなど様々な業務を行っていたが、その後海外行員の不正問題などによる過重なストレスから髄膜炎を発症。一時社会復帰が絶望視されたが奇跡的に回復。一度は人生も終わったと思った処からの再出発を行った。 日本は生産年齢人口減少がGDPの低下を招き日本経済が落ち込んでいるが、生産年齢人口、15~64歳を10年間伸ばし、75歳位迄とすれば余り悲観しなくても良いのではないかと考えている。

 

    1. 少子高齢化
      わが国では2025年頃には国民の3人に1人が65歳以上になると見られている。14歳以下の年少人口の山は1955年、続いて段階ジュニアの時代1980年があるが、その後緩やかに減少し、これが生産年齢人口の減少へと繋がる。平均寿命が延びた事で2008年頃迄には人口が増え続けてきたが、それ以降は年少人口の減少により人口増の限界が出てきた。将来的には人口は5,000万人位、独居老人の世帯が3割位で、若い人の単身世帯が1割、計4割が単身になる可能性が高い。

      図1 日本の総人口の長期推移:年齢構成別、1880~2115年
      講演資料1資料:旧内閣統計局推計、総務省統計局「国勢調査」「推計人口」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成 29 年推計[ 出生中位・死亡中位推計 ])

 

    1. 高齢者比率の増加による社会保障費の増加
      現状が続けば年金の受給者が増え、支える人がいなくなる事から若い人の負担が増える不安がある。最後は税金を投入する等で厚生年金が破綻する事はないが、全体として貧しくなる。 働き方改革による高齢者雇用機会の創出、年金の支給開始年齢の引上げ、シニア人材、女性、外国人労働者の活用等様々な努力・取り組みがなされているが、シニア人材の活用・頑張りが日本を救う大きな力になると考えている。

 

    1. シニアが持っている魅力
      シニアは業種を問わず経験が豊富。仕事・趣味・プライベートを問わず色々な人脈があり、コミュニケーション能力がある。また賃金よりもむしろ生きがいを求める人や社会貢献を望む人も多い。

 

    1. 再就職が難しいのは何故か - シニア人材の問題点と課題
      シニア側の問題点としては過去の実績・手法・栄光にしがみつくことで、組織チームの中で浮いてしまい、結果ぞんざいな態度をとる人や、ポスト・報酬に不満を持つ人もいて、会社が受け入れたとしてもチームとして働く上で大きな問題を抱える人もいる。 米国を始め海外では会社の人材募集において年齢・性別不問という所が殆どだと思う。今後多様性のある人が活躍できる社会になっていくのではないか。シニアに頑張って欲しいというのが自分の考えである。

 

  1. 現役としての心構え
    健康に生きて
    きちんと食事ができる事に感謝。会社が収益を上げ税金を納め、雇用を増やす事で社会に貢献できる事に感謝。アイデアがあったらすぐに行動に移すことを自分の信条にしている。今日より明日、明日より明後日と日々研鑽し、世の中の観察、その変化に気づく事が極めて重要である。

<<< レジュメ <<<

Ⅰ. 取り巻く労働市場環境
日本が直面する厳しい現実『少子高齢化』への対応 ⇒ 減少する人口と増加する高齢者比率

  1. 国民の『約3人に1人が65歳以上』という高齢化社会が到来
  2. 高齢者比率の増過による社会保障費の増加
  3. 国も推し進める『シニア人材の活用』
  4. シニア人材向けの再就職に特化した人材派遣会社・求人サイトの増加

Ⅱ. シニアが持っている魅力
積み上げてきた『経験』は知識に勝る

  1. ベテランならではの安心感
  2. 幅広い人脈
  3. 賃金の多寡に関係ない『旺盛な労働意欲』
  4. 『社会貢献』への意識
  5. 成功体験と失敗体験の蓄積
  6. 即戦力となりうる豊富な人材

Ⅲ. 再就職が難しいのは何故か?
シニア人材が抱える『問題点や課題』を再認識する

  1. シニア人材の受け入れ体制が十分ではないこと
  2. シニア本人の高いプライドや実績への拘り・再就職先の給与やポスト等の待遇に不満を持つ
  3. ・社内に上下関係を作りたがる
  4. ・過去の実績や栄光にしがみついている
  5. 社会環境の変化への対応が苦手・パソコン・スマホ等、新しい機械に慣れるまでに時間がかかる
  6. ・経験のない仕事に『尻込み』してしまう
  7. ハングリー精神の欠如
  8. 健康面・体力面の不安

Ⅳ. 企業が『シニア人材』に求めるものとは?

  1. 会社を離れても『売りになるスキル』を持っていること
  2. 周囲の人に必要とされる人間であること
  3. 心身ともに健康管理をしっかり行うこと
  4. ポジティブであること

◎最後に

生涯現役でいるための心構え

  1. 感謝の気持ち
  2. 今日より明日、明日より明後日
  3. 世の中をよく観察すること

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【Y】第36回The Young Salonの会を開催しました

テーマ:「今日の韓国と日韓関係」

12月14日(土)都立多摩図書館にて49名の参加の下、第36回The Young Salonを開催しました。
講師として慶應義塾大学総合政策学部教授柳町功氏をお迎えし、「今日の韓国と日韓関係」をテーマにお話し頂きました。柳町功氏は1984年慶應義塾大学を卒業、1990年に同大学大学院博士課程単位取得、在学中に韓国の延世大学に2年間留学、その後名古屋商科大学助教授・慶應義塾大学総合政策学部助教授を経て同教授に就任、その間2008年に慶應義塾大学より博士号を取得、UCLA訪問研究員・延世大学客員教授・アジア経営学会常任理事等を歴任、更に、現代韓国論、東アジア経営史・財閥史を専門分野とし、数多くの著作を上梓されています。
尚、引き続き行われた懇親会には講師を含め20名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。
講演のレジュメは以下の通りです。

第36回ヤングサロン講演会

2019年12月14日

今日の韓国と日韓関係

慶應義塾大学 柳町 功

<自己紹介>

    1. はじめに
      ・「今日の韓国(国内)問題」と「対日本問題」との根底に流れる理念とは?
      ・文在寅政権としての特徴、それ以前の政権との共通点とは?
      ・キーワードとしての「積弊清算」と「建国史観」

 

    1. 歴代政権の政治理念
      ・最高権力者列伝:李承晩、尹潽善、張勉、朴正熙、全斗煥、盧泰愚、  金泳三、金大中、盧武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅
      ・1987年「民主化宣言」とその後の政治的、経済的変化
      ・大韓民国憲法にみられる理念(1987改正)
      「悠久な歴史と伝統に輝く我々大韓国民は、31運動で建立された大韓民国臨時政府の法統と、不義に抗拒した419民主理念を継承し、・・・」

 

    1. 文在寅政権の政治理念(建国史観)
      ・大韓帝国・日韓併合(1910)、独立宣言・三一運動(1919)、  大韓民国臨時政府(上海)、解放(1945)、政府樹立(1948)、
      =建国史観(光復説演説 8.15)<2017/2018/2019>
      =「大韓民国」建国は1919か、1948か
      →米軍政期(1945-48)の否定?
      ・韓国と日本の視角差異、理念と現実
      韓国:植民地時代「日帝時代」(1910~45)を重視
      日本:国交回復後(1965~)を重視
      ・理念対立・・・進歩と保守、理念と現実、対財閥・・・バッシングと接近
      ・「歴史の立て直し」(金泳三)「5.18特別法」による全斗煥・盧泰愚の 逮捕(→起訴、死刑・無期判決→大統領特赦)
      大統領=遡及法も、特赦も
      ・政権の主要人物(進歩勢力・・・反体制、反財閥、・・・)
      ・任鍾晳(イム・ジョンソク)=青瓦台・大統領秘書室長(前)。
      林秀卿(イム・スギョン)秘密訪朝事件を主導、逮捕・服役→左翼政治家。
      ・曺国(チョ・グク)=青瓦台・民情首席秘書官、法務部長官(前)。
      ソウル大教授。
      ・張夏成(チャン・ハソン)=青瓦台・政策室長(前)。高麗大教授。
      経済改革連帯、反サムスン。
      ・金尚祚(キム・サンジョ)=公正去来委員会委員長→政策室長(現)。
      漢城大教授。経済改革連帯、反サムスン。

 

    1. 2018年10月・11月の徴用工判決
      ・司法=大法院(最高裁)の判断(2012)
      「個人請求権は消滅していない」
      ・・・ 個人の損害賠償請求権は、日本の植民地統治が「不法」であり、
      日本企業による「徴用」がこれに直結していたため。
      ・日韓基本条約(1965)への視角差 ・・・
      日本=合法、韓国=不法・無効
      ・文在寅政権になっての判決(2018年10月・11月)
      →「建国史観の外交への遡及的持ち込み」(倉田秀也)
      =「歴史の読み替え」

 

    1. 司法の影響力強化 →「積弊清算」
      ・司法 →国内政治(曺国問題) ・・・青瓦台・政府「検察改革」 VS 検察   →外交(対日)
      →財閥(崔順実ゲートに、サムスン経営権継承)
      ・検察総長・尹錫悦(58、ユン・ソクヨル) ・・・1987民主化宣言時 (20代)=現在の50代
      崔順実ゲート特別検察官のチーム長、ソウル中央地検検事正
      李明博元大統領の逮捕・起訴(=収賄容疑)
      梁承泰(ヤン・スンテ)前大法院長の逮捕・起訴(=朴槿恵前政権の徴用工 問題介入疑惑)

 

  1. まとめ
    ・「日本の植民地統治は不法」とする建国史観 → 戦後日韓関係の歪み
    ・新旧両面を持つ「積弊清算」と「建国史観」
    ・理念と現実のズレ
    ・世論(民心)、言論の存在
    ・(グローバル)市場の存在

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【Y】第34回 The Young Salon講演会を開催しました

テーマ:「EUを観て日本を考える」

7月28日(日)午後、ひかりプラザにて45名参加の下、第34回The Young Salon講演会を開催しました。講師として1973年慶應義塾大学経済学部卒の塩尻孝二郎氏をお迎えし、「EUを観て日本を考える」をテーマにお話を頂きました。塩尻氏は塾在学中の1972年に外務公務員上級試験に合格され、卒業後に外務省に入省、駐大韓民国日本国大使館公使、駐アメリカ合衆国大使館特命全権公使、外務省官房長、駐インドネシア共和国特命全権大使、欧州連合(EU)日本政府代表部特命全権大使の要職を歴任され、2014年に外務省を退官後現在は、外務省参与(査察使)、一般社団法人霞関会理事長、一般財団法人日本インドネシア協会副会長、ANAホールディング株式会社常勤顧問等を勤められています。尚、引き続き行なわれた懇親会には講師を含め23名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。講演の概要は以下の通りです。

外務省勤務41年間のうち合計19年間は在外勤務。アジア、アメリカ、欧州で、それぞれ2回ずつ勤務をした。現在、EU、イギリスが混迷している。EU、英国が荒波をどう乗り越えて行くのかを観察しておくことは、日本の今後を考える上で大事であると思う。「EUを観て日本を考える」というテーマでお話ししたい。

    1. EUの姿
      (1)壮大な政治・経済統合への歩み
       EUは、欧州の人々が英知を絞って取り組んでいる壮大な事業である。現在BREXITが混迷しているが、EUは、後戻りすることは許されない、前に進まざるを得ない事業であり、歩み続けると思う。人口、GDPそれぞれ日本の4倍、1人当たりのGDPは日本とほぼ同じ。加盟28カ国、そのうちユーロ通貨使用は19か国である。ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペインの5カ国でEU全体のGDPの80%近くを占めているが、一口にEUと言っても、多様な国々から成っている。EUは一隻の大きな船ではない。「船団」である。大きな船、そうでない船、いろいろな船からなる「船団」である。一体となって進むのは容易ではない。EU連邦、欧州合衆国の議論はあるが、現在は非現実的である。EUという28隻の船から成る船団が、今、荒波の中を進んでいると言える。
      「EU船団」には「掟」がある。政治基準(民主主義、法の支配、人権、少数者の尊重・保護等)、経済的基準(市場経済等)を満たさなければならない。加えて、EUの法体系受け入れなければならないという「掟」である。EU加盟国は、こうした「掟」を守りながら、EUの深化(関税同盟、域内市場統合、共通通商・農業政策、経済・通貨統合、共通外交・安全保障政策等)と拡大(1956年6カ国の原加盟国から現在は28カ国の加盟国)を果たして来た。「深化」について言えば、EUの存在感は、経済分野だけに止まらない。「潮流を作る力」、例えば、環境、人権等の社会的分野、あるいは、外交、安全保障の分野でも際立つものがある。「拡大」については、ベルリンの壁の崩壊後、東欧の諸国がEUに加盟し、現在は28カ国。様々な背景を持つ加盟国が増え、纏まる力、結束力をどう維持するかが、益々大きな課題となっている。
      (2)壮大なコスト手間(議論 コンセンサス)
      EUは28カ国が纏まる為に膨大なコスト、手間をかけている。加盟各国の間で、経済力、考え方、メンタリティーも違う。意思決定では特定多数決で決められる事項もあるが、重要事項や外交関連の決定等では、全ての国が等しく拒否権を有している。公用語は24カ国語(文書も24カ国語で作成)。基本的には、加盟国の全員一致(コンセンサス)で物事を決める。トコトン議論をして、結論を出す。その手間、コストは計り知れないものがある。EUの真髄は、「議論すること」、「違う意見、立場の中で、徹底的に議論して妥協点を見つけること」。そのEUと向き合うには、「説明力」、「説得力」だけでなく、「信じさせる力」が必要と痛感してきた次第である。
      (3)課題・問題点
      第二次世界大戦後、ベルリンの壁崩壊を経てリーマン・ショックまでは、欧州憲法条約の挫折等はあったものの、平和・安全の構築、定着、旧ソ連邦の下にあった東欧諸国の加盟によるEU拡大、共通通貨ユーロの導入等により、EUの吸引力、結束力に繋がった。リーマン・ショック後、ギリシャ問題、欧州債務危機、ウクライナ・ロシア問題、中東からの難民問題、BREXITと荒波に揉まれている。その中でここに来て心配な要素は、「各国の事情」、「各国の利益」がEU各国間の議論においてウェートが大きくなっており、ポピュリズムの高まりと相俟って、EUの纏まりを阻害する要因となってきていることである。BREXITについては、2016年の国民投票で、英国離脱派が掲げる「主権の回復」、「移民の規制」の主張が多くの英国民の支持を得た結果である。「主権の回復」については、EUが立法権を有する分野でEUが定める法令が英国に適用される為、英国議会の関与が十分に及ばないことへの懸念、不満が背景にある。「移民の規制」については、2004年以降の中東欧諸国の加盟拡大により、200万人以上の「EU市民」が就業し、「英国市民」の職を奪い、社会保障をただ乗りし、治安が悪化しているとの懸念、不満が背景にある。2017年からEU離脱の交渉が続けられている。英国の離脱はEU諸国側にとっても大きな損失を伴うが、「EU船団」から抜けようとする国に対しては厳しい。強硬派のジョンソン氏が首相になり、本年10月末の期限までにイギリスはどのような判断をするのか、大変厳しい局面にある。

 

    1. 日本とEUとの関係
      EUは日本をlike-minded country、同じ価値観を共有出来る「同志」と位置付けている。EUの「掟」の根幹は、法の支配、人権、民主主義という普遍的価値の遵守である。日本と、そうした「掟」を持つEUとは、一緒に取り組み、他の諸国をリードするという分野、例えば、法の支配、民主主義、人権と言った社会制度の分野、環境保護、社会保障、教育、衛生等々がまだまだ沢山ある。日EU・EPA(経済連携協定)と共に、本年(2019年)暫定適用を開始した日EU・SPA(戦略的パートナーシップ協定)は、正にこうした40の様々な分野での日本とEUの協力関係強化を目指したものである。

 

  1. 雑感
    今後グローバル化の進展、技術革新により、世の中が変化する速度は益々早くなる。その中で今までの価値観、物の見方も含め変わって行く。EUを観ているとその感を強くする。国の姿も、風や雨、自然の力で岩山の形が変わるように否応無く変わって行く。でも、その中で、受動的ではなく、能動的にどう変えて行くのか、変えないのか、変えさせないようにするのかを良く考えて行かなくてはならない。いろいろな価値観が変って行くことがあっても、究極の価値観、人間の尊厳、民主主義、人権、法治主義は守らなければいけない。もう一つ大事なのは、何かあった時に頼れる、頼りになる同志、仲間が必要だということである。その為には、サポートしなくてはならない、守らなくてはならないと思わせる魅力が必要である。日本は、こうした魅力のある国である。魅力を持ち続けるためには、社会が、人が輝き続ける必要がある。人が輝く為には、生き抜くこと、志を持ってやりたいこと、出来ることを最後までやり抜けることが必要である。人が生き抜けるようにする社会の責任、人は生まれた以上、生き抜く責任がある。これからの社会、国のキーワードは、智慧、責任、スクラムを組める力だと思う。日本は何れもある。これらをもっと強くし、どんな風雨にも耐えられる素晴らしい国であり続けなければいけないと思う。引き続き、「EU離脱の方向の中でイギリスは今後どのようになるのか」「EUの価値観について」の意見交換があり、講演会を終了しました。

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【Y】第33回The Young Salon 講演会を開催しました

テーマ:「国家が破綻する時:ポルトガルのソブリン危機」

4月13日(土)午後、国分寺労政会館にて38名参加の下、第33回The Young Salon 講演会を開催しました。講師として1974年慶応義塾大学経済学部を卒業後外務省に入省され、マルセイユ日本国総領事、法務省大臣官房審議官、モントリオール日本国総領事、ドミニカ共和国(兼ハイチ共和国)駐箚特命全権大使、ポルトガル共和国駐箚特命全権大使等の要職を歴任された四宮信隆氏をお迎えし、「国家が破綻する時:ポルトガルのソブリン危機」をテーマにお話し頂きました。尚、引き続き行われた懇親会には講師を含め20名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。講演概要は以下の通りです。

 記

  2010年からの3年間、まさにポルトガル経済がどん底の時期に、大使として、日本が両国関係のために何ができるかを考えながら仕事を行ってきた。過去の歴史の中で国が破綻することは少なからずあり、典型的なものは戦争だが、ポルトガルの場合は財政がたち行かなくなり破綻にいたった。その中で破綻の原因や政府・国民、また社会がどういう動きをしたか、さらに日本が外交的にどのような関与をしたのかについて話をしたい。
1. ポルトガル共和国と日本
ポルトガルの人口は1,000万人強と、ヨーロッパの中では中規模、面積は日本の約四分の一、一人当たりのGDPは日本の約半分。日本にとっては、1543年の鉄砲伝来や1549年のフランシスコ・ザビエルの来訪から、ポルトガルが欧州との最初の出会いとされるが、一方で日本人が初めて欧州に行ったのもポルトガルである。天正遣欧少年使節より早く、鉄砲伝来のわずか10年後の1553年に鹿児島の洗礼名ベルナルド(日本人)がザビエルに同行してポルトガルに渡り、バチカンで法王に謁見、ポルトガルで亡くなったことがイエズス会の記録に残っている。
2. ユーロ危機
ユーロ危機は、アメリカのサブプライムローン、リーマンショックによる世界同時不況を背景とし、直接的には2009年にギリシャで政権交代があり、前政権が財政赤字をごまかしていたことを公表、信用を失ったギリシャの国債が暴落、利回りが高騰して資金調達が出来なくなったことが発端である。当時のユーロ通貨制度では各国の財政状況は自己責任とされており、財政危機があっても外部からの救済制度が整っておらず、支援策が滞って危機が拡大していった。そもそもEUは、欧州での不戦を決意した仏・独の同盟から発したものであり、ユーロ制度もインフレ(財政規律)問題に強い意識をもつ独の意向が色濃く反映された形で発足した。加盟国の財政状況に厳しい自己責任を問う制度も、これが反映したものである。 2010年、EU・ECB・IMFの3者がトロイカと称する支援グループを作ってギリシャを金融支援したがうまくいかず、アイルランド・ポルトガル・スペイン・イタリアに危機が拡大した。この状況下で2011年末にECB総裁に就任したマリオ・ドラギ氏が、ユーロ救済のためならなんでもやると宣言し、自己責任主義が修正され始めたことで、ユーロ危機は回復の方向に向かって行く。
3. ポルトガルの財政破綻
(1)財政破綻の状況
2010年に財政赤字が急増する中、12月に当時のソクラテス首相が財政緊縮策を打ち出すがうまくいかず、トロイカへの金融支援を要請(bail out)せざるを得なくなり、その責任を取って辞職、総選挙で新首相に就任したコエーリョ氏の下で経済再建が始まることになる。この当時、2011年から2013年にかけては、緊縮政策によりGDPの成長率はマイナス、経済も悪化し、失業率は15%以上に達した。特に若年者失業率は25%ぐらいまで上昇し、公的債務残高の対GDP比は120%を超える状況にあった。
(2)破綻の原因
このような破綻の原因には、次の3つの側面が考えられる。
①ポルトガル自身の問題 まず、生産性の低さ・貯蓄率の低さ・農業依存による産業の未成熟等のための経済の脆弱性が挙げられる。また、輸出入の約7割、対ポルトガル直接投資の約8割がEU域内国という欧州依存の経済構造のため、欧州の景気の影響をもろに受ける経済の体質がある。更に、ユーロ通貨へ参加するため、財政赤字と緊縮財政の悪循環を繰り返してきた財政事情もある。なお、ラテン系特有の国民性からくる財政規律の自覚の低さも背景にあるのかもしれない。 ②ポルトガル以外の問題 また、国際金融市場における投機の問題がある。一儲けを狙った投機筋が暗躍し、ポルトガルだけではなくギリシャやアイルランドがそれに嵌ってしまったとも言えるであろう。
③ユーロ通貨制度の内在的問題 共通通貨制度のため各国ごとの為替変動がなく、ユーロ圏内での国際収支・競争力の調整ができないにもかかわらず、ユーロ通貨制度には上述の通り、財政危機の国への財政支援が禁止され、各国は自己責任で財政健全化を図らねばならなかったことがある。さらに、ユーロ域内では北と南で経済格差があるにもかかわらず、ユーロの信用力で南欧の国もお金を借り易くなったためバブルが生じたが、世界が不況になって一気にそのお金を引き揚げられると、破綻に追い込まれることになる。
4. 財政再建
(1)財政再建プログラム
ポルトガルはEU・ECB・IMFの3者に支援を要請、2011年6月から3年間で780億ユーロの融資が行われることになった。ただし、当然ながらその国の財政を立て直す厳しい緊縮政策とセットにしての融資であり、しかも一度に全額の融資が行われるのではなく、四半期毎に財政再建が進んでいるかチェックが行われて、それに応じての融資という厳しい条件付きであった。実際、四半期ごとに追加の緊縮策を求められて、不況は深刻になっていった。 財政再建プログラムの内容は、①財政収入の増加 ②支出削減 ③経済体質強化のための改革から成る。財政収入増加策としては付加価値税が23%へ増税、所得税も増税、社会保険料・医療費・公共料金・教育予算等の大幅引き上げ等が行われた。支出削減策としては公務員の給与削減や新規採用の中止、一部大使館の閉鎖等を含む政府機関の削減、年金削減、教育・福祉予算の削減、企業への補助金の削減・廃止等が実施された。大型の公共事業計画は、すべて凍結された。さらに、政府が保有する資産の売却としてポルトガル航空、発電、配電企業や銀行等の国営企業のほとんどが民営化された。EU域外からの資本誘致のために、大統領や閣僚はビジネスマンを引き連れて、手分けして世界中に散らばる状況であった。
(2)国内の苦難(現場の状況)
失業率が高まり、特に若い人が非常に苦しんでいた。また、貧困の拡大も進んだ。リスボンの中心街で市のトラックが止まり、市民へパンとスープの炊き出しを行っていたのを目撃した。地方の市長たちを会食に招待した際、市民への食糧供給が市の財政を圧迫しているのが大問題だという発言もあった。食料を求めて、見知らぬ人が自宅を訪ねてくる話も幾度か耳にした。国際日の式典で、各国大使の面前で大統領や首相が困窮した地方住民に罵倒されるシーンにも遭遇した。主管大臣の財務相は、夫婦で町に買い物に出た際に市民に取り囲まれる事件などもあった。また、別の政府高官は、厳しい緊縮策を求めるトロイカ、特に独の国民世論がポルトガル経済の運命や国民生活まで支配していると私に嘆くこともあった。 中産階級も悲鳴を上げるなか、当時の新聞には「国を覆う絶望感」という見出しが躍る程であった。しかし、意外にもデモなどで暴力事件が起こらなかったのには感銘を受けた。厳しい状況にも係わらず社会の秩序を保つことができた芯の強い国民性という感じを受けた。 もう一つ印象的だったのは、緊縮政策に対し違憲判決がずいぶん出されたことである。日本では考えられないと思うが、公務員給与・ボーナスのカットや年金削減等の政府の緊縮政策に対して憲法裁判所が違憲判決を次々と出し、それに対応して政府が政策の変更を余儀なくされる事態がしばしば見られた。 苦難の状況にあっても、弱者救済や人間性・人権の尊重という欧州的な歴史の中で培われてきた文化や価値観を垣間見る気がしたものだ。
5. 日本の関与
2010年10月の着任早々ポルトガルの国債が急落するのを目のあたりにして、日本も何か支援できないかと考えていたところ、直後に中国の胡錦涛総書記(当時)がポルトガルを訪問し、5億ユーロのポルトガル国債の購入を約束したとの情報を入手した。 日本は国債の購入は実現できなかったが、当時始められたトロイカによるギリシャ支援の資金として「欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)」という基金が作られたので、この基金の債券の2割を日本政府が購入することになった。ポルトガル政府からは、予想以上の感謝の表明があった。日本の証券会社もこの債券を購入したようだ。 その後も、日本企業の進出が少しでも容易になればとの考えから、2011年12月に「二重課税防止条約」を締結した。また、NEDOによるエネルギー関連の協力案件や口蹄疫で輸入禁止措置がとられたままだったイベリコ豚の輸入解禁等を実施、さらに経済関係者の交流には大使館も積極的に関与した。
6. 日本の財政は大丈夫か
2018年の日本の公的債務残高は対GDP比で238.2%にのぼっており、ポルトガルの財政破綻時で130%台、ギリシャは100%いっていなかったことに比べて、日本は大丈夫なのかという心配がでてくる。これにはいろいろの説明があるが、日本の場合、国債は殆どが日本人の所有のため、国際金融市場で投機にさらされる恐れが少ないとか、国内にはまだ増税の余力(返済力)があるなどの議論があるようだ。
7. ポルトガルの再生と魅力
(1)ユーロ通貨体制の改革
2011年末にECB総裁に就任したドラギ氏が宣言した「ユーロを守るためには何でもする」との方針で、ECBは①各国の国債の無制限の買い取り措置、及び②各国の銀行へ低金利での長期融資を始めた。また、その資金手当てのため、以前ギリシャやポルトガル支援のため臨時の措置として作ったEFSFを恒久化した「欧州安定化メカニズム(ESM)」という基金が作られた。 しかしユーロ体制には、EU、ユーロ圏の金融政策と各国の財政政策とが分離しているという制度上の基本問題が依然として存在している。金融政策はECBが行い、各国の中央銀行はその指示に従うだけだが、各国の財政は自国政府が手当てするのが基本的な考えだった。しかし、ユーロ危機の反省から、EUレベルで各国の政策を調整し、財政、金融支援もできる体制をつくりつつあるのである。 また、財政破綻は銀行が破綻しそれを救済するために国の財政が悪化するというケースが多い。以前は銀行の救済も各国が自分でやる方式だったが、グローバル化した金融制度の中で、銀行の監督や破綻した際の処理についてEU・ECBが協力して対応し、必要な資金もEU、ECBが基金をつくって手当てするということをやってきている。今後、その取り組みはさらに進められよう。
(2)ポルトガルの努力の成果
財政再建プログラムを実行してきた結果、例えば2019年2月のOECDの「経済審査報告書」では、ここ数年でポルトガル経済は著しく改善、GDPは危機以前のレベルに回復、失業率も2013年のレベルから10ポイント減、危機直後からポルトガル経済を支えた輸出及び観光分野の成長に続いて、今では投資や個人消費等の国内需要も拡大してきており、ポルトガル経済は堅調な結果を継続する見込みとの評価を受けている。 さらに、経済構造を中長期的に強化することを目指して、不良債権の削減、先端産業・技術革新の導入、育成等にも努めている。また昨年度予算では、いよいよインフラ整備計画も再開し、かつて経済危機で凍結されていた3大プロジェクトが昨年から再び動き出している。 政治面では2016年に中央アフリカ共和国にPKO部隊を派遣、2017年には国連事務総長(元ポルトガル首相)の輩出やEU財務相会議の議長を務める等の実績を上げている。社会面では6月10日の「ポルトガル・ナショナル・デー(国際日)」を海外でも開催するようになり、世界中に出ていっているポルトガル系の人達やポルトガル語権諸国との連携を進めるまでになった。 これらは、財政危機の時代には考えられなかった変化だといえよう。
(3)ポルトガルの魅力
国民性は物静かでありながら芯が強い性格だが、口下手・売り込み下手なところがあり、日本人にとってはむしろ一緒にいると快適な人々との印象がある。比較的物価が安く、治安は欧州の中では特に良い。テロのうわさも聞かれない。文化・歴史・観光に関しても魅力に溢れており、例えばワイン・海産物の料理・アズレージョ(タイル)・ファド(国民歌謡)等は是非味わって頂きたいと思う。ユネスコ世界遺産も文化遺産14、自然遺産1、無形文化遺産6を数える。
8.日ポ関係
最後に日本との関係を申し上げたい。言うまでもなく古くて新しい友人だと思うが、丁度自分が着任した2010年が友好通商条約締結150周年にあたり、また2013年には種子島来航(鉄砲伝来)470周年であり、いずれの年も両国の各方面の方々とともに、数多くの記念行事を実施し交流を深めた。 さらに、2014年には日本の首相として初めて安倍首相がポルトガル訪問、その後コエーリョ首相の日本訪問も実現した。現在、日本からの企業進出も80数社に増加した。 財政破綻当時、ポルトガルを訪問した日本人は推定で年間6万人くらいだったが、皆さんが異口同音に言われた「この国には、また来てみたい」という言葉が印象的だった。日本でも少しずつポルトガルの評判が伝わったのか、日本観光客数は現在では年約12万人と倍増しているようだ。 また、昨年には「(一社)日本ポルトがル協会」が創立50周年を迎え、記念行事のひとつとして特別旅行を行った際には、リスボンで大統領が我々を迎えてくれた。歴史的な関係から東京以外の日本各地にも友好協会があり、さまざまな活動を行っている。 このように、ポルトガルは苦難の時期を経て再生を果たしてきたが、経済以外にも文化、歴史、社会、観光そして国民性など非常に魅力的な国であり、日本での人気も高まっている。いま、「ポルトガルの風」が吹いているように感じている。

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