第49回ザ・ヤングサロン 「最新の認知症予防」の講演会を開催

2024年6月15日(土)多摩図書館2階セミナー室にて43名参加の下、第49回The Young Salonを開催。藤巻正樹さん(国分寺三田会会員)の紹介で、講師として社会福祉法人浴光会理事長髙木智匡氏 (国分寺病院)をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。髙木智匡氏は、1994年杏林大学卒業後、同大学医学部第Ⅲ内科任期助手を経て 1995年社会福祉法人浴光会国分寺病院長、現在社会福祉法人浴光会理事長、一般社団法人国分寺市医師会会長、社会福祉法人国分寺市社会福祉協議会理事、国分寺市地区救急業務連絡協議会会長、公益財団フランスベッド・ホームケア財団理事。わかりやすい説明で理解を深めることができました。また、最後には認知症予防にもなるアンチエイジング体操を参加者全員で行い、質疑応答もありました。講演の概要は以下の通りです。

                       記

1.講演内容
①認知症とは
100歳以上の高齢者が全国に92,139人(2024.9)。ギネス記録では122歳(フランス)。ドイツの85歳の女性がAlzheimer医師のところに来院。アルツハイマーの言葉が広まる。
②加齢とは
生まれて成長・発達していく過程全て、特に成熟期を過ぎて中年期以降に出現する身体の変化
③老化現象として認められる症状
眼、耳、皮膚、口、消化器、肺、心臓と血管、泌尿器、内分泌と代謝、筋肉と骨・関節
④認知症の特徴
軽度認知症、アルツハイマー症、レビー小体型認知症。生活習慣病はドミノ状態にある。50歳と24歳の脳のMRI画像比較。アルツハイマー症のMRI特徴
⑤老齢期、認知症、うつ病の違い
⑥認知症の治療について
薬:ドネペジル、メマンチン、ガランタミン、リバスチクミン等
⑦レカネカブの効用について
⑧脳を元気にする
運動、食事総エネルギー量を抑えて腹8分目、野菜を多く摂取、魚を多く摂取、甘いものを控える。EPA、DHA
⑨動脈硬化・老化を防ぐ食べ方
咀嚼(よく噛んで食べる)。食物繊維質、タンパク質、脂質、炭水化物の順に食べる。
⑩健康長寿を実現させるホルモン
インスリン、セロトニン、βエンドルフィン、オキシトシン(幸せホルモン)
⑪認知症・老化の予防
節酒禁煙、標準体重/動物性食品、鶏豚魚を適量に/アルコールは1~2杯/考えをまとめる習慣/互いに褒め合いいい気分/幸せホルモン、スキンシップ/運動/朝日を浴びて腸内環境/運動、睡眠、腹七分目、おしゃれ心を忘れずに

2.認知症予防にもなるアンチエイジング体操   全員で体操を実施

【Y】第47回ザ・ヤングサロン 「ポスト蔡英文政権期を迎える台湾の国際関係」の講演会を開催

2024年4月21日(日)多摩図書館2階セミナー室にて42名参加の下、第47回The Young Salonを開催。法政大学法学部国際政治学科教授福田円氏(政策・メディア博士)を講師にお迎えし、首題をテーマにお話しいただきました。福田教授は2003年国際基督教大学教養学部国際関係学科卒で、2008年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科を単位取得退学、2011年に博士号を取得されています。講演の概要は以下の通りです。
                       記
1.台湾の総統・立法委員選挙
 (1)選挙結果とその意味
   投票率は71.86%と、戸籍地に戻らないと投票できないという制約の中で、前回より下がったとはいえ高い数
  字。総統選挙の得票率:民進党・頼清徳40.05%、国民党・候友宜33.49%、民衆党・柯文哲26.46%、立法委員
  選挙での獲得議席:国民党52、民進党51、民衆党8、その他2、 この結果から言えることは、
  ①民進党が3期続けて政権を継続するが、得票率が低く議会での単独過半数を失っていることから、民意や野党の
   プレッシャーが強く、弱い政府となる
  ②総統選で民進党が勝てたのは、今の蔡英文総裁の対外政策が評価されたことによる
  ③国民党は若者を中心とした民進党への批判票を受け止められず、得票率が漸減傾向にあり、これは党の対外政
   策と民意との間にギャップが生じているためと思われる
 (2)立法院新会期の布陣と現状
   議会では2月から新会期が始まっており、国民党は立法院長・副院長の両方の椅子を獲得、更に各種委員会の
  委員の半数と2名の招集人の内の1名を獲得して、今後発言権が増すと見られる。また、台湾は多くの国と外交関
  係が無くて議員外交に頼るところが多いが、韓国瑜新立法院長は今のところは無難にこなしている。
   一方で現在の民進党政権は、食の安全・中国大陸との往来回復・金門島周辺の事態などで野党の追及を受けて
  おり、頼清徳はかなり厳しい状況の中で新総統に就任することになる。

2.米中台関係への影響
 (1)「蔡英文路線」とはなにか
   蔡英文総統が8年掛けて形成してきた「蔡英文路線」が一番体系的な形で説明されたのが2年前の建国記念日
  における演説であった。その中の重要なエッセンスは二つあり、一つが「中華民国台湾」という考え方。台湾で
  は長らく自分達は中華民国なのか台湾なのかという論争があったが、蔡英文総統はこの論争を止めようと、両者
  の間に優劣をつけず中華民国台湾と呼ぶのが現状ではないかと述べた。
   この立場に立った二つ目のエッセンスが「四つの堅持」で、これは中華民国台湾が中国とどういう関係を持つ
  のかに関する原則を示したもの。この中で重要なことは、中華民国即ち台湾と中華人民共和国は互いに隷属して
  はいないということで、今後のことは台湾の人々の意思によって決めなければいけないということである。
  具体的な対外政策では堅実な外交を掲げ、外交関係保持国数とか国際機関加盟云々は問題視せず、実質的な関係
  を保有する国との関係を重視し、現実を受け入れて中国への刺激を避けるというのが蔡英文路線の特徴。
 (2)頼清徳の対外政策
   頼清徳は元々民主党内で将来を目されたエリートで台湾への思い入れが強く、中国は蔡英文より独立派と見做
  して警戒している。更にアメリカでも、中国を刺激する発言で緊張が高まることを懸念する声が出たことから、
  選挙戦ではこの懸念を払拭すべく蔡英文路線を継承すると言い続けた。その上で掲げた方針が「平和のための四
  大柱」で、これは①台湾の自衛能力の強化、②経済安全保障、③民主主義諸国とのパートナーシップ、④堅実で原
  則主義的な中国との関係、の四つで、最後に前提条件なしでの対話の可能性を排除しない、つまり台湾が中国の
  一部というような条件のないところでしか対話はできないと言っている。
 (3)中国との関係
   中国から見れば自分達の期待に反した候補者が総統に選ばれた訳だが、中国政府が目を付けたのが約40%とい
  う低い得票率で、残りの6割の民意は中国との対話を望んでおり、今後ともこの6割の人々に働きかけるとしてい
  る。選挙結果によっては中国が台湾海峡で大規模な軍事演習を行うのではないかとの心配もあったが、そのよう
  な行動には走らず、これまでの軍事威嚇や外交圧力、経済威圧を続ける一方で、台湾の民意に訴えるような柔ら
  かい政策も行っていくことを示している。
 (4)米国を通じた「台湾問題」の管理
   従来よりアメリカは台湾海峡の平和と安定への懸念を繰り返し中国側に伝えていたが、習近平主席は昨年11月
  の訪米時のバイデン大統領との会談で、2027年までに中国が台湾に侵攻するという話は聞いたことがなくそんな
  計画は承知していない、と述べたと伝えられている。また、その際にアメリカも台湾独立を支持しないことの保
  障を求めたが、バイデン大統領は断ったとも伝えられている。その後も政府高官の電話会談があり、アメリカ側
  は中国に武力行使をしない保障を求め、中国側は見返りにアメリカが台湾独立を支持しないことを求めるのがパ
  ターン化している。これは恐らく台湾の新政権に対する米中双方の不安感によるものであろうし、バイデン政権
  の間に台湾問題への基本的立場を確認しておきたいという双方の思惑があるものと考えられる。

3.日台関係の課題
 (1)国際環境の影響と経済社会関係
   日本にとってかつて台湾は自国が放棄した元植民地という背景があって、台湾を巡る国際政治の形で見た時に、
  それ程積極的には動けないところがあった。その中で1972年には中国と国交正常化をして、台湾に対する基本的
  立場は経済・文化交流のみとなった。以降、その時々の米中台の関係の中で、日本に許されていること、できるこ
  とをやり、米中台いずれともうまくやる方法を探ってきたというのが今までの向き合い方だった。
   しかし、頼清徳の基本方針を見ても、新政権下で中国との緊張はより高まることが予想され、米中間では台湾問
  題でお互い一線を超えないことを確認して関係安定化を図る意図が働き、アメリカが台湾独立に反対して中国政府
  を刺激しないようプレッシャーをかけるということが起きると、台湾の頼清徳政権の日本に対する期待が結構高ま
  るのではないか。ただ、日本から見ると、日本が単独で動くのはハードルが高い。元々、特に1970年代以降、台
  湾の日本に対する期待の方が大きく、日本が十分応えられていないのが現状で、そのギャップが更に広がってしま
  う可能性が高いと思われる。
 (2)二者間の関係=共通の課題への取り組み
   実は日本と台湾の間には共通の課題も多い。例えば中国の安全保障上の脅威だが、軍事安全保障以外の面でも米
  中競争のなかでアメリカの求める事への対応とか、中国との緊密な経済関係の中での経済関係と経済安全保障の両
  立とか、中国からのサイバー攻撃や世論工作への対応などがあり、中国関連以外でも少子高齢化や自然災害への対
  応も共通した課題である。こうした共通の課題に就いては、非政府間の経済・文化関係の枠組みの中で積み上げ方
  式の協力が進んでいる部分もあり、それを今の国際環境に合わせて更に発展させていける余地はあると思う。
   しかし政治的な決断が必要な部分、CPTPPへの台湾加盟とか安全保障対話のような部分はなかなか進んでいな
  い。2021年の日米首脳会談以降、アメリカと立ち位置を揃えて台湾海峡の平和と安定の問題を重要視して欲しい
  という要請に答える形で、日本側からもいろいろな協力の姿勢がみられるが、あくまでも非政府間の関係という枠
  組みを維持したものとなっている。
 (3)双方の内政要因=選挙の影響
   日本と台湾は非政府間の関係で、議員外交に頼るところが多く、属人的な部分が大きいので、選挙や政局の影響
  を受けやすく、今の様に双方の政治情勢が流動的な時期には関係が不安定化する側面がある。
   日本から見ると、台湾で5月20日に発足する新政権の閣僚人事や総統府・国家安全保障会議の人事が発表されて
  いない部分があり、しばらくは様子見の状況が続く。
   一方台湾では、近年の日台関係を推進してきたのは故安倍晋三元首相と考えられており、安倍氏が亡くなり、旧
  安倍派の主要議員が政治資金問題で動きがとれず、岸田政権も不安定で関係を構築し難く、今後誰が台湾との関係
  を推進してくれるのか非常に心配されている。更に最近は国民党が民進党に対して日本に妥協的過ぎると追及する
  場合が多く、議員外交が進めにくくなっている。

○質疑応答
 Q:バイデン政権のウクライナと台湾へのコミットメントの差はどこから生じると考えているか。
 A:アメリカ政府としては台湾有事の際の対応を曖昧にしておりフルコミットメントするとは言っていないが、ウク
  ライナへの関与とは大きく異なるのは事実。これは地政学的重要性が違うし経済的存在感も違うことによる。
 Q:現在東アジアをめぐる軍事バランスが大きく崩れており、綱渡り状態が続いていると思うがどうか。
 A:東アジア各国を個別に見れば軍事バランスは圧倒的に中国に傾いている。それがアメリカとの同盟関係で補わ
  れ、それなりのバランスは保たれているが、中国の軍事的行動を阻止できる程の圧倒的な軍事的優勢があるとい
  う状況ではない。ただ中国も今の戦力と軍の能力で台湾を攻略して占領する力があるのかと言うと、まだ分から
  ないのが現状だと思う。中国としてはこのまま時間を積み重ねていって、最終的に戦争によらずに台湾が自分の
  ところに戻ってくるのが一番理想的なシナリオと考えているのではないか。
 Q:台湾と外交関係を持つ国の減少は、中国の圧力だけでなく相手国の立場にもよるものではないか。
 A:外交関係の減少に関して、相手国によっては中国との経済関係が大事な場合もあれば周辺国と揃っていないと不
  便という場合もある。蔡英文政権の今の立場は、相手国の立場も考え中国とはあまり争わないこと。加えて今は経
  済状況が思わしくなく、外交関係保持にお金を使うのは内政状況からからも難しい。
 Q:台湾という国は、毛沢東に敗れた中国国民党の人々が逃れてきて、台湾の人達を圧政したもので、民主化以降急
  速に支持を失うと思ったが、党名も変えないままなぜ今回復できたのか。
 A:台湾の国民党は2000年の政権交代以降かつてのイメージを払拭して、台湾の人々の現状に寄り添った政党にな
  るよう努力を続けている。議会選挙でも、国民党は二世・三世議員が多いが、若い人達は海外留学経験があり、
  かつてと違いリベラルな政策を主張しているところもあり、名前は国民党だが中味は変わってきていて、台湾の
  人達もそれがわかってきている。
 Q:以前台湾のマスコミの殆どを国民党が押さえていて、だから強いと聞いたが、今でもそれが関係しているか。
 A:今はそれはない。政権がかわると国営メディアのトップも変わり、この8年で既存メディアの多くは民進党寄り
  と言われている。純粋に国民党の影響力だけが及んでいるメディアは一時期より相当減っていると思う。   
                                          (文責:小林一夫)

【Y】第46回ザ・ヤングサロン 「東南アジアをめぐる国際関係と日本」の講演会を開催

 2023年10月22日(日)多摩図書館2階セミナー室にて39名参加の下、第46回The Young Salonを開催。講師として東京国際大学国際関係学部教授小笠原高雪氏(国分寺三田会会員)をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。
小笠原高雪氏は、S58(1983)年慶應義塾大学法学部政治学科卒、1989年同大学大学院法学研究科博士課程修了、
日本国際問題研究所研究員、シンガポール大学客員研究員、ベトナム社会科学院客員研究員を経て1996年北陸大学法学部助教授、2002年山梨学院大学法学部教授、2022年東京国際大学国際関係学部教授(現職)。わかりやすい説明で理解を深めることができました。また、活発に質疑・討議も繰り広げられました。新型コロナ感染症には万全を期した上で懇親会も実施しました。講演の概要は以下の通りです。

                        記

1.自己紹介
 講師の中高生時代は「激動の七十年代」といわれたとおり、サイゴン陥落、日中平和友好条約締結、米中国交樹立、中越戦争等々、アジア情勢が大きく動いた時代であった。国際問題に関心を抱き、慶應の政治学科に進学し、神谷不二教授のもとで国際政治学を専攻した。

2.東南アジアはどういう地域か?
 東南アジアは文化的に著しく多様な地域である。半島部(大陸部)と群島部(海洋部)とで異なるし、11ヵ国の国別でみても異なるが、一国の内部にも多様性が存在している。たとえばシンガポールは東京23区ほどの広さの都市国家だが、主要民族である中国系、マレー系、インド系の母語に共通語の英語を加えた4つの言語が流通している。こうした多様性の背景には、東南アジアがインド洋と太平洋を結ぶ位置にあり、海上交易をつうじてインド、中国、イスラム、ヨーロッパなどの影響を受けてきた歴史がある。全体を包括する帝国が出現しなかったことも多様性を促した。
 それほど多様性に満ちた東南アジアが果たして一つの地域なのか、という疑問もありうる。実際、国際社会で東南アジアという呼称が公式に使われたのは1943年のSEAC(東南アジア司令部)が最初であり、1954年にもSEATO(東南アジア条約機構)が発足をみた。これらはいずれも、重要な海上航路や天然資源を擁する東南アジアを東アジアの大国に支配させないという英米の戦略の所産であり、その行き着いた先が1960年代後半に本格化するベトナム戦争だった。こうしてみると、東南アジアはもともと、外部から設定された枠組の名称であったことになる。

3.ASEANは何をしてきたか?
 1967年のASEAN(東南アジア諸国連合)の結成は、外部から設定された東南アジアという枠組を、地域の諸国が内部から充足してゆく過程の始まりであった。その背景には、英米の勢力後退により、地域協力の必要性と可能性が高まったという事情があった。1960年代前半のマレーシア紛争はそうした変化の明白な予兆であった。1965年の九・三〇事件を契機としてインドネシアがスカルノの革命路線からスハルトの建設路線に転換すると、周辺諸国はインドネシアを取り込んだ地域秩序の形成へ動き、インドネシアもそれを前向きに受け入れた。ASEANは加盟国が紛争の平和的解決を確認しあうための枠組であり、それによって各国政府は国内開発に専念しうることとなった。
 こうしてASEAN諸国は戦乱にあえぐインドシナ諸国と対照的に近代化の道を歩みはじめ、そこへ日本がODAを集中的に投入した。ASEAN諸国に対し、軍事的にはアメリカが保護を与え、経済的には日本が支援を与えた。日米は冷戦下の東南アジアで実質的な分業を行なったといえる。

4.日本はどう関わってゆくのか?
 以上の状況は1990年代初頭の冷戦終結によって変化するが、それを決定的にしたのが2001年の二つの出来事だった。一つは中国のWTO加盟であり、中国の大国化に弾みがついた。もう一つは9/11事件であり、アメリカはテロとの戦いに多大の精力をとられることとなった。この二つが重なった結果、東南アジアにおけるアメリカと中国の力関係は中国の優位に傾いた。中国の海洋進出、とりわけ南シナ海の軍事化は、そうした変化の結果であった。中国には、東南アジアの相当部分を自国の勢力圏とみなすような歴史観が存在している。東アジアと区別された地域としての東南アジアが存続しうるかどうか、それが再び問われる状況となっている。
 この重大な局面で、ASEANの機能はむしろ低下している。それには冷戦後の加盟国の増加、結成当初の指導者の退場、ミャンマー問題の足かせなどが関係している。とくに中国との関係では、対中依存の大きいカンボジアなどの対外姿勢が、ASEANの一致結束を困難にしている。
東南アジアは現在、中国の「一帯一路」戦略とアメリカの「インド太平洋」戦略とが交錯する舞台となっている。日本はこれまで、経済協力をつうじてASEANの一体性を側面支援することに力を注いできた。日本のODAはASEAN諸国から肯定的な評価を得ており、日本に対する信頼感はきわめて高いといえる。近年の日本はさらに、安全保障協力にも乗り出している。フィリピンとの外務・防衛大臣会合、ベトナムのカムラン湾への艦船寄港などがその例である。
 日本と東南アジア諸国とが協力しうる分野は、以上に尽きるものではない。とりわけ防災減災、省エネ技術、高齢化対応などでは、課題先進国としての日本は東南アジア諸国に提供できる多くのものをもっている。高齢化は東南アジア諸国でも始まっているが、日本はとくに深刻であり、社会の国際化をさらに進めなければ国際競争力を維持できないことが明白となっている。そうした点では、多様性に満ちた東南アジアの諸経験から、日本は多くのことを学べるであろう。

5.質疑応答
・ASEANの全会一致の進め方の限界について、ミヤンマー、カンボジア、ラオスの加盟の是非はどうか?
 ⇒ASEANの拡大にはメリットもあったがデメリットもあった。多数決方式も一部で試行されているが、主権尊重、
  内政不干渉、コンセンサス重視の基本は変わっていない。
・インド太平洋と日本、東南アジアの安全保障について、今後の見通しは?
 ⇒安全保障ではASEANへの大きな期待はできない。日米同盟に加えてQUAD(日米豪印安保協力)などを活用して
  の抑止力の強化がさしあたり現実的であろう。
・ODAにおけるインドネシアについて、新幹線建設を事例に中国の台頭を懸念。
 ⇒ASEAN諸国はいずれも自国の国益が最優先であるし、国益以上に政権の利益が優先されるケースも少なくない。
  中国はそこを巧妙に突いてくるので対応は容易でない。
・ミヤンマーを事例に国家のありかたについて「人と人」の個人的繋がりでは隔たりがないが、国になると紛争が起こ
 る。日本は「人と人」のつながりを大切にしてはどうか?
 ⇒人間は集団を作るものだが、地球規模の集団は現実的でなく、複数の集団の共存となる。そして集団と集団の間で
  は、組織目標の相違からくる競争や対立を避けられない。人と人の関係は大切にすべきだが、それで国家間の競争
  や対立が解消することはないであろう。司馬遼太郎の南ベトナム旅行記である「人間の集団について」はそうした
  問題を考えるうえで参考になると思う。                              以上

【Y】第45回ザ・ヤングサロン 社会に目を向けよう「SDGsに関する慶應義塾中等部の取組み」を開催

2023年7月16日(日)多摩図書館2階セミナー室にて22名参加の下、第45回The Young Salonを開催。講師として慶應義塾中等部教諭中村宜之氏(SDGs推進担当)をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。中村教諭は、2000年に塾理工学部応用化学科を卒業、中等部の非常勤教諭を勤めながら、早稲田大学教育学部教育学科専攻を2002年に卒業され、2002年4月から中等部理科教諭、現在はラグビー部顧問、SDGs委員長、3年生の担任もされています。新型コロナ感染症には万全を期した上で懇親会も実施しました。講演の概要は以下の通りです。
                     記
1.中等部とSDGs
慶應義塾中等部(以下中等部)は戦後日本の体制が変わった1947年に慶應義塾初めての男女共学の一貫校として開校。当時の先生方がなるべく自由な空気をと考えたことから今でも風通しのいい教育を考えている。
私は中等部で2年間の非常勤講師を経て2002年に常勤教諭となったが、当時の中等部部長(学校長)であった法学部平良木教授が環境先進国ドイツの状況を見て、中等部も環境問題に取り組むべきと考え、私をISO14001取得委員長に任命。苦しみながらも環境教育を題材として2005年にISO14001の認証を取得。しかしISOは実際の授業との関りが少なく、もっと実践的なものを模索していた。
2019年5月学校林のある岡山県真庭市を訪問。真庭市は間伐材を使ったバイオマス発電で町の電力を賄うなど官民一体で山の町の良さをSDGsの視点から捉え直し、日本初のSDGs未来都市に選ばれていた。ここでSDGsに感銘を受け、更に日本のSDGsの第一人者で慶應義塾大学大学院の蟹江教授より、2015年に国連で採択されたSDGsが日本で全然広まっておらず、子供たちが学校で学んでいくなかにSDGsが無いと実現できないので、中等部で扱うのであれば一緒にやりたいという話を伺い、2020年4月に3年生の選択授業として「SDGsのすゝめ」を開講。これに現中等部部長井上さんが興味をもち、木造案を含む校舎建替えの検討に絡めてSDGsのゴールである2030年の更に先まで繋がるテーマで校舎のことを考えようと、2020年11月のSDGs宣言に至った。

2.選択授業「SDGsのすゝめ」
初の教科横断の試みで、理科の私・社会科の足立さん・大学院の蟹江教授の3名で11人の生徒をみている。主な授業内容は①中等部のSDGs分析、②講演会・外部講師授業、③近郊見学
①中等部のSDGs分析
SDGsの17の目標、169のターゲットに対して自分達が関わっている18項目を選定、電気・ガス・水の節約とか基準服(制服)のリユース、学校林の間伐材の利用、寄附付き商品の考案、募金といった活動がどんな影響を持つか、環境問題をはじめ社会・経済問題にどこまで関わっていくかを子供達と一緒に考えて一覧表を作成。社会問題・経済問題・環境問題がSDGsの3つの柱だが、この表で中等部の活動は経済問題がやや薄いものの大体どの問題にも関わっているのがみえてくる。
トレーサビリティの考察では岡山の学校林の木材を使ったリサイクルボックスに関して、苗を植え、木を育て、伐採、製材、製作するまでがSDGsの169のターゲットのどれに該当するかを分析してもらった。また、自分達が使っている机やノート或いは販売しているペンケースやバッグがどこから来てどこに行くのかを分析するという作業をしたが、数多くのものをこうやって見るのは無理で、そこで出てくるのが認証制度の話。以来子供達も認証制度の大事さを理解し、お菓子やトイレットペーパーや包装紙の認証に興味を持つようになった。
②講演会・外部講師授業
いろいろな講演会で特に衝撃的だったのは、バリ島で各種事業をされていて社会問題を解決する為のプロジェクトに資金援助をしているEarth Companyの濱川知宏氏で、濱川氏からは逆に中等部はどれくらいエコな学校かと聞かれた。何もできていない実情を打ち明けると、それに気づけたならいいのではないか、この後中等部がどうなっていくかを今度聞かせて欲しい、と言われた。
アパレルブランドCLOUDY代表銅冶勇人氏はアフリカ旅行中に見たスラム街にショックを受け、現地のろうけつ染め布地を製品化して販売、売上の10%をアフリカへの寄付とし学校建設などに取り組んでいる。銅冶氏には、ただお金をあげればいいのではなくその先をしっかり見て欲しいという講演をしてもらった。これらの講演に触発されて始めたのがブランケットの作成やアフリカの布地を使ったペンケース・バッグの作成で、当初中国の工場で製造していたが、子供達の意見を基に現地製に切り替えた。
山櫻の市瀬社長にも講演を依頼した。同氏はSDGs最先進国のスウェーデンを度々訪問、EVが道路を走るだけで充電できるインフラを作っている等の最新情報を中等部に教えてくれている。
また、2020年に朝日新聞よりSDGsを広める為に英語で書かれている169のターゲットを日本語版とし、子供達のアイデアでキャッチコピーを作って欲しいとの話があり、最終的に慶應中等部・青山学院中等部など数校かの生徒が中心となって取り組み、横浜で発表会が行われた。
③近郊見学
中等部の近郊見学として、Apple銀座のビル内部の木質化、GINZA SIXの木質化と屋上庭園、松屋銀座のSDGs関連商品、ユニセフハウスの見学を実施。ユニセフハウスで「この地球は先祖からゆずり受けたものではない。未来の子どもたちから借りているものだ」との言葉に接して意識が変わったという子どももいた。今年は、カポックという植物の種の周りの羽毛のような綿を植物由来の原料として利用しようとしている宮下パークにある会社を訪問、実際のカポックの綿を使ったコートを見せてもらった。

3.学校行事
①遠足
江の島の海岸にゴミ拾いに行った。“面白いゴミコンテスト”を実施、また拾ったマイクロプラスチックを使って“KEIO75”の文字を作り、秋の展覧会に展示した。
“海のゴミは川から、川のゴミは街から、街のゴミは人の心から”(現地のキャッチコピーより)
②林間学校
昨年の林間学校は南三陸となった。宿泊したホテルが分水嶺に囲まれ片方が海であとの三方が山。その山に降った雨はすべて志津川湾に流れ込む。ここは暖流と寒流がぶつかる海藻が豊かな地域でラムサール条約湿地に登録されており、牡蠣の養殖が盛んでもある。
ここの山はFSC認証を取ってしっかりした管理がなされており、海はASC認証という養殖の国際認証を取っている。そんな地域に学校林があり、学校林を訪れながら現地のことを学ぼうと、海水で塩造りをしたり海藻で押し葉を作り、栞や葉書作りを体験してきた。
3日前にほかの学年が南三陸に行ってきたばかりで、最終日には語り部バスに乗って震災学習もしたとのことで、ちょっと遠くて費用もかかるが学習には最適な場所と思うし、この先も残せたらいいと思う。
③75周年講演会
75周年講演会では、中等部生二組の講演に続き、蟹江教授と元NHKクローズアップ現代のキャスターを務めていた国谷SFC特任教授のお二人にSDGsの講演をしていただいた。

4.学校林
日本全国に160haの学校林があり、我々が行っているのは西端の岡山落合の森と東端の南三陸志津川の森。
岡山にはブランドとして美作ヒノキが、南三陸には南三陸スギと、それぞれいいところがある。
岡山では結構活動していて、カラマツ・広葉樹それぞれの場所で間伐をしたり、北欧の教育プログラムであるLEAFプログラムに沿って葉っぱの匂いを嗅いだり触ってみたり、目をつむって何が聞こえるか感じてみたりして、最終的には森の役割は何かということをインストラクターが導いてくれるというようなことをやってきた。また今年の春に75周年の植樹として三重のヒノキを植林してきた。9月には生徒達と一緒に下草刈りに行く予定。
南三陸は学校林を含めてすべてFSCの森になっており、その認証を受けた南三陸スギでベンチや教卓を作ってもらった。この教卓は18校の教室すべてに置いてある。

5.教科などの取り組み
各教科の取り組みということで、家庭科・理科・美術科・選択授業等々それぞれが協力してやってくれている。家庭科では生ゴミをコンポストで堆肥化、理科では家庭の生ごみをミミズコンポストで液肥化、ミツバチの飼育と観察・環境づくりと蜂蜜搾り、美術科では環境漫画家の方の講演でポスター制作に関するアドバイスをもらい169のターゲットから一つを選んでポスターを作った。
選択授業で、書道の先生が新しくできた慶應義塾ミュージアムコモンズとのコラボレーションにより芸術とSDGsという視点で研究されている。
あと、これからの夏休みに地理研究会・社会研究会と一緒に岡山に行く計画を立てており、また料理と手芸の会が自分達で作ったお菓子をプラスチックではなく紙の包装で配ろうとしている。

以上が中等部のSDGsへの取り組みで、この先少しづつできる範囲でやっていこうと思っている。

質疑応答
Q:中等部の段階でこれまでSDGsを実施されているのは感動した。特に169のターゲットの表、チェック指標があそこまでやられているのは驚き。ただ、先生がおっしゃった通り政治・経済がらみのチェックが少なく、環境関連にチェックが多く入っている。近代化は開発と環境の戦いで、先進国イコール工業化は疑いのないコンセプトであり、日本を含む先進国は環境破壊をやってきた。開発と環境は政治・経済がらみになることが多いが、この問題を中等部の段階でどう説明されているかいないのか伺いたい。
A:自分達が言うより、実際に社会に出て、ある業界の人から裏話も含めた業界の実情を話してもらい、いろいろな仕組みを知ってもらってどう考えるかと問いかけていくのが中学でできる精一杯のところ。実際に子供達は周りに目を向けられるようになってきており、それがこれまでの課題を解決する一つの要因になるのではないかと感じている。

 

 

 

 

【Y】第44回ザ・ヤングサロン「みんなで考えよう!「ODAと国益」」を開催

 2023年4月23日(日)、多摩図書館2階セミナー室にて44名参加の下、第44回The Young Salonを開催しました。講師は国分寺三田会会員であり1967年法学部政治学科卒業の榎下信徹さんをお迎えし、「みんなで考えよう!「ODAと国益」」というテーマで講演して頂きました。コロナ感染症対策については国分寺三田会感染症対策方針に基づき「新型コロナ感染症対策推奨事項」をお願いし開催しました。また懇親会を3年ぶりに中華料理店「浜木綿」にて実施しました。ザ・ヤングサロンとして講演会と懇親会を開催することができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。講演の概要は以下の通りです。
                          記
第44回ザ・ヤングサロン講演会
    テーマ:みんなで考えよう!「ODAと国益」
                                             講師 榎下信徹
1.講師紹介
  榎下信徹さん、1943年生まれ。1967年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際協力機構(JICA)入団後、中南米
  部長、国際緊急援助隊事務局長等の要職を歴任。海外では、メキシコ、コロンビア、パラグアイの各事務所長を経
  験。2003年退職後、専門技術役(準役員・嘱託待遇)として5年間、主に海外調査
  に従事し、計102カ国を訪問。スペイン語通訳案内士。
  現在でも開発途上国の発展のため、国際協力活動の第一線としてご活躍。
2.はじめに
  昨年11月にJICA企画部長の原昌平氏よりJICAの話があった。今回は実践的な話をして欲しいとの要請を請けた。
  そこで、「みんなで考えよう!『ODAと国益』」と題し、より実践的な話をする。2008年にJICAを離れたの
  で、現在のJICAに即しているか分からない点もあるが、自分が経験したことをベースにいろいろな視点から話を
  する。
3.講演主旨
(1)ODAと国益
 ①ODA予算の概要 予算は円借款、技術協力、国際機関への拠出金で構成されている。予算額は1997年をピーク
  (11,000億円)とし、現在は半減(5,500億円)している。ODA予算は概ね、国の税収次第で増減する。
  つまり、日本の景気が悪いと予算も減る。
 ②ODA(JICA)変遷の主な出来事 1954年コロンボプラン加盟でODAが開始された。当時の日本人の平均年収
  は約75万円位、当時のフィリピン同等と貧しかったが、戦争への贖罪意識もあり、ODAを開始した。その背景
  には1949年から15年間、ユニセフが日本の児童に脱脂粉乳を提供してくれた援助等に対する感謝の念もある。
  1964年、東京オリンピックが開催されるが、新幹線、東名高速道路などの基幹インフラは、世界銀行の借款で賄
  われ、その完済は1990年であった。その後、エコノミックアニマルと揶揄された日本人の働きぶりは、1979年
  「Japan as NO1」と称されるまでに至る。この背景は円高の恩恵をもたらし、我が国が10年間、ODAトップド
  ナーとして君臨した軌道と符合する。しかし、わが国の傲慢な経済進出はアジア諸国の反日感情を招き、その政策
  を修正させられ、1989年頃からは、バブル崩壊に陥る。
  1997年の湾岸戦争では、わが国は130億円を拠出したが、被援助国のクウェートからは一片の返礼も無く、人の
  派遣、つまり「顔」の見える援助の重要性を認識させられた。これが自衛隊の海外派遣法の改正につながる。
  2003年に緒方貞子氏がJICA理事長に就任し、新しい援助のコンセプトとして「人間の安全保障」が導入され、従
  来の「国家」の視点から「個人」をベースにした案件の重要性が認識された。
 ③ODAのツール化(序)
  2003年、ODA大綱に初めてODAが「外交のツール」として、国益を守る有力な手段と謳われた。
 ④「ODAの課題と国益」の連関概念図
  縦軸に「案件の課題が人道・地球規模か、あるいは二国間関係の領域に属するか」、横軸に「案件の援助国と被援
  助国の裨益度の度合い」を作り、各案件が図中の縦横のどの位置を占めるかを示した。
 ⑤国益の解釈 ODA大綱が2015年に「政府開発援助大綱」から「「開発協力大綱」に改名され、協力
  (Co-operation)の主役(Operation)が被援助国であることを明確にし、自助努力による自立発展の重要性を
  謳った。2023年5月に予定されている改定案では、中国の膨張政策やロシアのウクライナ侵攻などを踏まえて、
  従来の「要請主義」に加え、「提案型」を掲げ、ツールとして相手国の要請を待たずに政治的に活用することを謳
  う予定。
 ⑥グローバリゼーションと国益 グローバルゼーションは世界を小さくしたが、国情と各国の相関性を際立たせ、国
  益のコンセプトを鮮明にした。WTOや国際機関の現状にその傾向が読み取れる。
 ⑦グローバリゼーションとODA(開発課題の例証) 「貧困」は援助の主要テーマであり、コンセプトとして「人
  間の安全保障」をベースにしている。一般に協力案件は相手側とまず、「課題別ツリー」を描き、枝に課題となる
  現状の諸問題を並べ、その各枝の問題解決の優先度を付け、案件を選定する。次に、特定された案件の問題分析と
  解決策を協議し、そのアウトプットは目標・成果(指標を含む)・活動・投入(ヒト、モノ、カネ)を策定したプ
  ロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)に反映され、両者が合意署名する。しかし、貧困削減の課題は、
  その枝となる問題のセクターが広範過ぎて、特定が難し
  く、二国間の協力の案件策定は容易ではない。更に、この解決のアプローチは本来、住民参加型で取り組むことが
  理想であるが、広く面的な削減を図るには諸々の物理的な限界がある。やはり、国のマクロな指標とのバランスが
  必要不可欠であり、解決には国の自助努力が一義的に必要不可欠である。かように地球規模とされる課題を、二国
  間のみの協力で対応した場合、持続性のない一過性の人道的慈善事業に終わる危険性を孕む。
 ⑧メキシコへの援助に当たって思うこと(結び)
  援助が貧困を優先課題とするのであれば、論理としてアフリカ諸国の優先度が圧倒的に高くなる。しかし、OECD
  加盟国でもあるメキシコを、協力の対象とするのは別の論理からである。それは、ODAの外交ツールとして、国
  益の概念に多様性があり、両国にとって「経済益」が高いからである。私が昨年まで参加した「自動車産業関連
  プロジェクト」は、市場経済のグローバリゼーションの中、まさに双方がWIN-WINの関係に在り、その経済益を
  享受できる案件であった。上述した貧困削減の成果、謂わば「地球益」とは対極の概念に位置するかも知れない。
*まだまだ話したい事、聴きたい事が沢山あったが、時間が来たためここで講演終了となった。
                                          (文責・写真:青木)

【Y】第43回ザ・ヤングサロン「知と飲を満たしたサントリー府中工場見学」

 2023年3月26日(日)、33名が参加し、サントリー府中工場の工場見学を実施しました。7年ぶりの工場見学
になりました。概要は以下の通りです。
                      記
第43回ザ・ヤングサロン
            テーマ:サントリー府中ビール工場見学
1.サントリー府中工場の天然水ビール -つくりのこだわり-
 ・豊かな自然でろ過された天然水仕込み
 ・良質の麦芽、ホップの素材選び
 ・ダブルデコクション製法による仕込みと、アロマリッチホッピング製法によるホップの投入
2.技術と味を楽しんだ工場見学
   工場見学の人数制限もあり、18名と15名との2組に分かれて工場を訪問しました。
  当日は、あいにくの雨でしたが、分倍河原駅からの送迎バスに乗り、快適に移動ができました。
   工場見学では、案内係から工場の成り立ちと立地へのこだわりの説明を受けました。その後、
  初めに麦芽・ホップの素材をみて、それから仕込、発酵、貯酒、ろ過の工程の解説と製造現場を見学。
  無菌室内の自動パッケージングで完成という一連の製造工程を学びました。
   見学後には、出来上がった生ビールの試飲、3つの生ビールの飲み比べ、さらに試飲のおかわり。
  70分間の工場見学の終了時には、ほろ酔い気分。皆さん多くのお土産を買い、帰途につきました。

今回の工場見学は、参加者の皆さんからとても好評をいただきました。今後も、機会があれば、
ザ・ヤングサロンの中に、工場見学、企業訪問を取り入れていきたいと考えています。
(文責:小林(一) 写真:青木、小林(一))

 

【Y】第42回ザ・ヤングサロン「激動の世界におけるJICAの事業展開」を開催

 2022年11月27日(日)、並木公民館にて32名参加の下、第42回The Young Salonを開催、当国分寺三田会会員でもある小島眞さんの紹介で、講師としてJICA企画部長の原昌平氏をお迎えし、首題をテーマにお話し頂きました。原氏は、1989年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、(旧)海外経済協力基金に入社され、大蔵省出向などを経て、1999年から国際協力銀行で中央アジア・コーカサスを担当、2008年から国際協力機構(JICA)でイラク事務所長、南アジア部長、民間連携事業部長、本年10月から企画部長を歴任されている方す。
 一方で、新型コロナ感染症の第8波が始まりつつある状況のなか、感染症対策には万全を期した上で講演会を開催、懇親会の実施は見送りました。講演の概要は以下の通りです。
                      
                        記
第42回ヤングサロン講演会
                                            2022年11月27日
                激動の世界におけるJICAの事業展開
                                 国際協力機構(JICA) 企画部長 原 昌平

1.JICAの略歴
 1950年代に技術協力が立ち上がり1974年に国際協力事業団(JICA)発足。 2008年にJICAと国際協力銀行(JBIC)のODA部門が統合され独立行政法人国際協力機構(新JICA)が発足し、政府開発援助における技術協力、有償・無償の資金協力を行っている。 旧JICA発足時に海外移住事業団がJICAに統合されたが、その後時代の趨勢を反映し海外移住事業は縮小されている。
現在常勤の職員は約2000名弱、期限付きのスタッフや海外の現地スタッフを合わせると、全世界でさらに多い人員が開発協力に携わっている。
2.JICAを取り巻く環境
 最新の開発協力大綱は2015年に定められたが、現在見直し中。 2015年に採択されたSDGsの実現に向けてJICAも役割を果たして行く。 今国家安全保障戦略の議論がされており、自由で開かれたインド太平洋構想にODAがいかに貢献していくのかが課題となっている。 また、国内での地方活性化等の政権が掲げている課題への対応も行っている。
 それらの環境の中でJICAの組織ミッションとして「人間の安全保障の実現と質の高い成長の実現」を、またビジョンとして「信頼で世界をつなぐ」を掲げている。 中期計画として ①自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて国際社会で日本のリーダーシップを発揮するための貢献 ②国の発展を担う親日派・知日派リーダーの育成 ③気候変動への取り組み ④国内での地方活性化への貢献 を4つの重点領域とし、信頼関係の構築などの4つのアプローチの重視を挙げている。
3.JICAの業務
 法律上では開発途上地域の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的とすると規定されている。 即ち、相手の国の為になることを行なう業務を通じて、国際的に皆で協力しようという気運を作り、日本及び国際経済社会の健全な発展の為に貢献するということ。
 具体的には研修員受入・専門家派遣・機材供与等の技術協力、円借款及び海外投融資の有償資金協力、無償資金協力、海外協力隊によるボランティア、海外移住支援、緊急援助隊による災害援助協力、人材養成等幅広い業務を行っており、その一環として中小企業・SDGsビジネス支援を通じた地方創生にも取り組んでいる。
一般会計におけるODA予算は2011年以降1997年の約半額に減っているが、ODAを使って日本を信頼してくれる仲間を増やすことは非常に重要だと思っている。
4.JICAの組織
 本部機能として地域毎の担当部署と分野毎の担当部署がある。 海外向けの仕事が中心だが国内にも14か所の拠点があり、語学を中心とした協力隊員の訓練、日本に来た研修員の受入れ、研究機関・大学・企業等とのコーディネイション、協力隊員の募集、中小企業との連携等を行う。
 海外では先進国を除くほぼ全世界に拠点を持つが、海外におけるノウハウは長期間その地に勤務するナショナルスタッフに溜まっており、これをいかに生かしていくかが大きな課題。
5.最近のハイライト
 現在コロナが大きな課題で、コロナ対策の支出や南アジアを中心に海外からの出稼ぎの送金の減少等で財政上困っている国々に約3,800億円の円借款による財政支援を行う一方で、病院建設等を通じて治療体制強化、予防体制強化、研究・警戒態勢強化への貢献を進めている。
 次に気候変動対策では、緩和策としてインドでのデリー地下鉄建設やケニアでの地熱発電所改修の支援を、適応策としてフィリピンでの河川改修の支援を、また緩和策・適応策横断型としてインドでの森林開発への支援等を実施。 2050年のカーボンニュートラルが国際公約だが、エネルギー消費の伸びを見込んでいる貧しい国々に一律でそれを求めるのかが難しい課題で、バランスを考えながらより環境への負荷が低いエネルギー源に移行していく為の支援を考えていかなければならない。
 他にも民間部門と公共部門が共同で行う事業への支援や開発途上国の起業家への支援も行っており、その例としてケニアにおけるバイオリサイクル事業への出資やベトナムでの風力発電事業への支援等がある。 また外国人材受入に関して「世界の労働者から信頼され選ばれる・日本」となることを目指した活動など、国内の地方を中心とした国際化を進める取り組みを行っている。
 デジタル化に関しては、いろいろな方々と連携して取り組む必要を痛感している。
 国際紛争への対応として今一番ホットなのはウクライナで、今までに780億円の財政支援を行い、更に日本の災害経験の共有を進めている。 また、JICAの支援で地雷除去の経験を積んだカンボジアの人たちから地雷除去のノウハウを共有してもらうための支援を行っている。
                                     (文責:小林(一) 作成:板橋)

  

【Y】第41回ザ・ヤングサロン「生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜」を開催

 2022年10月23日(日)、光公民館にて24名参加の下、第41回The Young Salonを開催、ヨガ講師の冨永ゆ
かこ氏お迎えし、ヨガの講義と実技を行ないました。コロナ感染症対策には万全を期した上で対面で行ない
ました。しかし懇親会の実施は見送りました。ザ・ヤングサロンとしては、久しぶりの実技をともなう講演会
で、とても有意義な時間となりました。講演の概要は以下の通りです。

                     記
第41回ザ・ヤングサロン講演会
     テーマ:生涯現役でいるために〜ヨガで健康寿命をのばすアプローチ〜
                                      ヨガ講師 冨永ゆかこ
1.講師紹介
 YIN YOGA in ASIA 最高指導者Victor Chng先生、YIN YOGA JAPAN代表 川端友季湖先生のもと、タイ・
 バンコクで指導者養成コースを修了。在タイ14年を経て2020年より国分寺に在住。現在は西国分寺を
 中心に少人数ヨガクラスを開催。セレオ国分寺での屋上ヨガ、清正公寺での寺ヨガ(日本橋浜町)など
 開催。11月26日には国分寺市のぶんぶんウォーク・史跡指定100周年記念事業イベントにて、史跡ヨガ
 を担当されるヨガ講師です。
2.はじめに 進化した陰ヨガとは
 ・古典的なハタヨガ、古代中国の陰陽論・中医学をベースに、最新の筋膜リサーチや解剖学のideaを
  加えて進化したヨガ
 ・静かな動きの中に最小限の筋肉の力を使って、最小限の負荷をかけてポーズを維持する。
 ・Energy movement 気のめぐりを整える(循環、調和、足に向かって下していく)
 ・Fascia Release 呼吸で内側から筋膜リリース(解剖学や最新の筋膜リサーチに基づく)
 ・Re-Alignment 着実の体の構造が変わる(歯の矯正のように・・・)
  平均寿命と健康寿命の差は、男性(81歳-70歳)11年、女性(88歳-74歳)14年あり、
  この健康寿命をのばすアプローチです。
3.本日のポイント
 1)正しい姿勢を身につける
   姿勢は大事!→歪み・腰痛・肩こり・膝痛・・・に関係。呼吸にも影響する。
  ・まずは背骨(脊椎)を整える
   真っ直ぐな背骨=自然なS字のカーブがある状態
   衝撃をクッションで吸収できる
  ・横隔膜と骨盤底を平行な状態に⇒最も呼吸ができる
  (実技)<正しい立ち方、座り方>
     立っているときは、左右の足の裏に均等に体重が乗る
     座っているときは、左右の座骨に均等に体重が乗る
     尾骨と頭頂を同じ線でつなげる
     髪の毛一本を上から引き上げられている感じ
     背中のバックラインをギュッと閉めない
     
 2)みずみずしい体に
   人体の60%以上は体液(卵子の時は99%が水分);私たちの体は水で形づくられている
  ・骨や内臓を包んでその構造をキープしているFascia(結合組織)は、ネットやスポンジの様に
   全身に3Dに広がっていて、その繊維上にも水分が存在している。ヨガで多方向に動かしていくことで、
   水が循環し、全体に水分が行き渡っていく(乾いたスポンジに水を含ませていくイメージ、水の入れ
   替えができる)
  ・体の中の水分を良い状態に保つことも大事、水は流れないとよどんでしまう
  ・どこかが痛い、かたい:水分が減って乾いた状態になっていたり古くなっていたりする
  ・Fascia結合組織:ミルクレープのイメージ
   (実技)筋膜のつながりを感じてみよう!筋膜のつながりを確かめる姿勢

 3)関節の可動域と安定性を高める
  ・引っ張るでもなく、伸ばすでもなく、ストレッチでもない動き(ハリのある水分を保った肌のイメージ)
  ・下半身の3つの関節、足首・ひざ・股関節の調和した動き方
    ⇒怪我をしにくい
    ⇒省エネでエコな体の使い方
  (実技)長生き筋肉「内転筋」を使う練習

4.実技 休憩、換気の後、講師の指導で約1時間の実習を行なった。
     詳細は、下記の写真を参照にしてください
                                  (文責:小林(一) 写真:青木)

【Y】第40回ザ・ヤングサロン講演会「ウクライナ侵略後のロシア東欧」を開催しました。

 2022年7月17日(日)、都立多摩図書館にて54名参加の下、第40回The Young Salonを開催、講師として元
外交官の角崎利夫氏お迎えし、お話し頂きました。コロナの第七波が押し寄せつつあるなか、感染対策には万
全を期した上で対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。ロシアのウクライナ侵攻が続いて
いる中、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                      記
第40回ザ・ヤングサロン講演会
               テーマ:ウクライナ侵略後のロシア東欧
                                     元外交官 角崎 利夫氏
講師紹介
 1972年東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。これまで在ロシア日本国大使館公使、
 在カザフスタン共和国特命全権大使、在セルビア共和国特命全権大使を歴任され、
 ロシアには4度・通算10年おられました。
はじめに
 今回の講演が依頼された時には、7月には「ウクライナ戦争」は終結しているだろうと想定して原稿を考え
 たが、現在まだ戦争が継続している。ここでの講演は「ウクライナ戦争」が「世界にどのような影響を与え
 るか」という観点からお話ししたい。
*在外勤務23年
   ロシアでの勤務10年  1975~77  ブレジネフ時代
               1985~87  ゴルバチョフ時代
               1996~99  エリツイン時代
               2000~02  プーチン時代
   旧ソ連カザフスタンでの勤務3年  2002~05
   セルビアでの勤務4年       2009~2013
本 日 の 話 の 柱
         Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
         Ⅱ 戦況の推移
         Ⅲ 今後のシナリオ
         Ⅳ 戦争の様々なインパクト
         Ⅴ 戦争からの教訓
Ⅰ ウクライナ侵攻に至ったプーチンの思考
1.プーチンの思想・信条
(1)ロシア帝国復活の夢
   東スラブ3部族(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)を中心に帝国の版図を復活する夢
    (ア) ロシアとウクライナの歴史解釈・評価の違い
       モスクワ大公国はキーエフ公国の継承国か否か?
       コサックとロマノフ王朝の庇護協定は歴史上の金字塔か否か?
       ロシアでは是だと教え、ウクライナでは否と教える。
       (コサックとは脱走農奴が形成した軍事共同体で、ウクライナの自由の気風を生んだ。)
    (イ) プーチン論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」
       東スラブ3部族は歴史的に一体であり、ロシア正教を信じる点でも共通で、ルースキーミール
       (ロシアの世界)を形成すべき。ロシア正教会のキリル総主教は全面的にプーチン支持。
    (ウ) ウクライナはソ連が作った人工的国
       レーニンが作り、スターリン、フルチシチョフが領土を追加した
    (エ) 東方正教会の影響
       2019年、ウクライナ正教会がロシア正教会から分離独立し、プーチンが激怒。
(2)西欧個人主義に対置されるユーラシア主義
   ユーラシア主義とは、ロシア革命・ボリシェヴィキ政権に対する反応のひとつとして1920年代に白
   系ロシア人(非ソビエト系亡命ロシア人)の間で流行した民族的思想潮流で、ロシアはアジアにも
   ヨーロッパにも属さず地政学的概念である「ユーラシア」に属し、西欧と異なる価値観を持つとい
   う思想。プーチンはユーラシア主義の持つ愛国心、集団主義、大国性といった優れた価値観が西欧
   の極端な個人主義から保護されるべきと主張。
(3)在外ロシア人の救済(ウクライナ等にロシア人が多数住んでいる)
    (ア)プーチンは「25百万人に上る在外ロシア人の救済が自らの使命」と語る。
       ウクライナ東部・南部の占領の理由付けにはこの「ロシア人救済」が利用され、ウクライナ全土
       には「ルースキーミール樹立」が理由付けに使われている。
    (イ) ロシア人の多いカザフスタンやラトビアはプーチンの発言を懸念する十分な理由がある
    (ウ) 欧州で在外母国民が多く民族統一主義傾向がみられるのは、ロシア以外はハンガリー、セルビア
2.安全保障上の脅威認識(NATOの東進)
(1)プーチンが脅威を感じたであろう出来事と成功体験
      2003年 ジョージアのバラ革命
      2004年 ウクライナのオレンジ革命
      2008年 ブッシュが、ウクライナとジョージアのNATO加盟後押し、独仏が慎重姿勢で、
           玉虫色のNATO声明となった
           (2008年 ロシアがジョージア侵攻し、アブハジア、南オセチア占拠)
      2012年 モスクワ等ロシア各地で反政府デモ
      2014年 マイダン革命で親露派大統領がロシアへ脱出
           (2014年 ロシアがクリミヤ、ドンバス地方侵攻、占領)
(2)プーチンの主張
    (ア)NATOへの不信感=WP(ワルシャワ条約機構)が消滅したのになぜ存在?
    (イ)NATOは東に拡大しない約束があったのに、旧東欧のみならず、旧ソ連諸国まで引き込んでいる
(3)NATOの反論
    (ア)文書で不拡大を約束したものはない。
    (イ)ゴルバチョフが2014年、当時NATO拡大問題は提起されたことはないと発言。
    (ウ)東欧・旧ソ連諸国がロシアを脅威に感じ、NATO加盟を強く希望した。
3.プーチンが欧米の弱体化を認識
                      1980年代        現在
     G7のGDP割合             70%        50%
     BRICSのGDP割合            7%        22%
     2021年のアメリカのアフガニスタン撤退の失態
     今年(2022年)6月、G7やNATO首脳会議にぶつけてBRICS首脳会合開催
     しかし、BRICSには各国を結びつけるイデオロギーがない。
4.ウクライナ側の侵略誘発要因はあったか?ナチ化は見られたか?
(1)ゼレンスキーはバイデン政権誕生後、親露派への挑発を活発化
     1.親露派地域に特別な地位を与えるとのミンスク合意を実行せず
     2.親露派TV局の封鎖
     3.親露派勢力のリーダーでプーチンに近い人物逮捕
     4.クリミヤ奪還国際会議の企画
(2)ウクライナ軍の強化への懸念
(3)第2次世界大戦でナチス軍がウクライナを占領した時、バンデラというウクライナ民族主義者が独立の
   ためナチと協力した。プーチンはゼレンスキー政府にバンデラ崇拝者がいることをもってナチ政権と
   主張するが、同政府をナチとは言えない。
Ⅱ 戦況の推移
  ロシアは初戦で失敗し、短期で勝利することができなかったが、ウクライナ領土の20%を既に支配し、
  じりじりと東部で支配地域を増やしており、ウクライナ側の反撃は容易ではない。今後も消耗戦が続くが、
  いずれ停戦の動きが出てくるだろう。
1. 初期のプーチンの誤算
(1)ウクライナ軍・国民の抵抗について
    (ア) 軍の強化 ①NATO方式の指揮系統 ②士気 ③戦闘経験 ④兵員と武器増強
    (イ) 国民がロシア軍を歓迎せず、ウクライナ軍に協力した。
    (ウ) ゼレンスキーの戦争指導者としての力量
(2)ロシア軍の力量について
    (ア)緒戦での失態
      1.サイバー攻撃でインフラ・通信設備を麻痺させることに失敗
      2.一点集中攻撃すべきところ、総花的攻撃で失敗
      3.各部隊がバラバラな戦い
    (イ)上位下達の指揮命令系統で融通性欠如
    (ウ)最新兵器・精密兵器の不足
    (エ) 歩兵戦力の不足
(3)諸外国の反応について
    (ア)予想に反し、NATO諸国が結束した
    (イ)中国はロシアを軍事的に支援しなかった
      ① 中国は米国の二次制裁を恐れる
      ② 中国は領土保全が民族自決より重要
      ③ 一帯一路でのウクライナの重要性
    (ウ)最大の同盟国カザフスタンは協力せず
Ⅲ 今後のシナリオ
1.戦争は長期化するか?
  3月初めBBCが報じた5つのシナリオ
     1 X  短期決戦、ロシアの勝利、ゼレンスキー政権崩壊
     2 〇  長期(包囲)戦、攻防泥沼化
     3 △  欧州戦争、モルドバ、ジョージア、バルト三国へ拡大
     4 〇  外交的解決、停戦合意
     5 △  プーチン失脚
          私見:⑵から⑷への移行が年末までに実現する可能性はある。
    (ア)ウクライナ大統領は2月24日の線まで領土を取り戻すと主張するが、容易でない。
    (イ)欧米は
      ・アメリカ:ウクライナに譲歩の圧力はかけないとバイデン大統領発言。
      ・欧州は正義派(英・ポーランド、バルト三国)と妥協派(独仏伊)に分かれる。
2.ロシアの世論・欧米の世論
(1)ロシアでのプーチンの支持は根強い  7~8割の支持
     ・ロシアを苦難から救った救世主
     ・プロパガンダの効果 FBやインスタグラムの中止
     ・声を上げられない国民
     ・戦争時の愛国心高揚
(2)今後の欧米の世論:支援疲れ、難民疲れ?
3.ロシアの経済制裁の影響 長期的にはあるが
4.ロシアでのクーデターの可能性は小さい
5.欧州戦争への発展の可能性と核使用の可能性
     ・欧州戦争への発展は  その可能性は低い
     ・核使用の可能性    その可能性は低い
Ⅳ 戦争の様々なインパクト
  世界に突き付けた問題はあまりにも大きく多岐にわたる。
    1. 戦争の性格を変えた 第2次大戦や朝鮮戦争以来のイデオロギー戦争で21世紀型戦争
    2. グローバリゼーションへの影響
    3. 世界経済に与える影響
    4. 核戦術の脅しとNPT(核兵器不拡散条約)体制への負の影響
    5. 世界の安全保障の問題や地球規模問題へ、今後ロシアの関与はどうなるか
    6. 世界で拡大するナショナリズム勢力
Ⅴ 戦争からの教訓
  プーチンは力は正義と考えている。プーチンが勝利すれば、この考えが正しいと認とめることになり、
  今後現状変更勢力による力の行使を助長する。
                         (文責:小林(一) 文章作成:石川 写真:青木)

 

【Y】第39回ヤングサロン講演会を開催しました。

 2022年3月27日(日)、都立多摩図書館にて49名参加の下、第39回The Young Salonを開催、
講師として塾医学部卒業で国立がん研究センター中央病院感染症部長、塾医学部客員教授の岩田
敏先生をお迎えし、「現代の感染症とその対応について」をテーマにお話し頂きました。コロナ
が落ち着いてきたとはいえ、まだ気を緩められる状況ではなく、感染対策には万全を期した上で
の対面での講演会でした。また懇親会の実施は見送りました。皆さんが直面している新型コロナ
などに関する内容で、とても有意義な集いとなりました。講演の概要は以下の通りです。

                 記
The Young Salon第39回講演会
      テーマ:現代の感染症とその対応について
       -新型コロナウイルス感染症のパンデミックを踏まえて-
           国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院感染症部/感染制御室
                                     岩田 敏 様
■現代の感染症
  衛生環境の向上、ワクチンの普及(予防法の進歩)、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗原
 虫薬の開発 (感染症治療法の進歩)、診断技術の進歩等 感染症のコントロールは格段に進歩した。
 一方交通網の発達による感染症のグローバル化 、新興・再興感染症の発生、少子・高齢化社会に
 よる易感染患者の増加、耐性菌の増加等、感染症を取り巻く環境は変化している。
・新興・再興感染症
 新興感染症: 最近20~30年間の間で人類の疾病として初めて認識された感染症でHIV/AIDS、エボ
 ラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器 症候群(MERS)、ジカウイルス感染症、
 C型肝炎、成人T細胞性白血病、出血性大腸炎、新型インフルエンザ(A/H1N1)、 新型コロナウイ
 ルス感染症 (COVID-19)などがある。
 再興感染症: 一度は人類の重大な公衆衛生上の問題ではなくなったように見えたが,再度疫学相
 の変化を伴って増加してきた感染症であり、結核、マラリア、百日咳、季節性インフルエンザなど
 がある。
・2002-2003年 SARS(重症急性呼吸器症候群) 致死率 9.4%
・2009年 新型インフルエンザ 致死率 2-9% (日本:0.01%)
 死亡者は「季節性」では高齢者で多いが 「新型」ではほぼ全年齢にわたっていた
 日本: 2,200万人の患者発生に対して、死亡199名と少なかった
・2010/2011シーズンの流行状況をみて2011年より新型インフルエンザの指定がハズレ、季節性イン
 フルエンザとなった
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬(タミフル)の効果
・2015年 MERS(中東呼吸器症候群) 致死率 34.4%
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(2019年~)  致死率 5.62%➡0.31%
 現在(2022.3.27)までの世界の患者数(4億8千万人)、死亡者数(6百万人)
 日本の患者数(6,285千人)、死亡数(27,614人) 全人口の約4.0%に相当
 新型コロナウイルスの懸念される変異株(ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株)
 重症化する人の割合は高齢者が高く、若者は低い傾向にある 。
 重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している
 重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方、一部の妊娠後期の方
 重症化のリスクとなる基礎疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、
 心血管疾患、肥満、喫煙。 ワクチン接種を受けることで、重症化予防効果が期待できる。
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
 感染防止対策 ワクチン接種、治療薬
 3つの密を避けましょう!
 感染リスクが高まる5つの場面:「飲食を伴う懇親会等」「大人数や長時間におよぶ飲食」「マス
 クなしでの会話」「狭い空間での共同生活」「居場所の切替り」
■新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のマネジメント(基本的な治療方針)
 重症度分類 「軽症」、「中等症Ⅰ(呼吸不全なし)」、「中等症Ⅱ(呼吸不全あり)」、「重症」
・ばい菌やウイルスがうつる道筋
 「空気感染」:はしか 水ぼうそう けっかく
 「飛まつ感染」:インフルエンザ かぜのウイルス 新型コロナウイルス おたふくかぜ ふうしん
 マイコプラズマ肺炎
 「接触感染」:おなかのかぜウイルス( -ロタウイルス -ノロウイルス)エイズウイルス 肝炎
 (かんえん)ウイルス 耐性(たいせい)菌( -ぶどう球菌 (MRSA) -緑のう菌 -カルバペネム
 耐性腸内細菌科細菌(CRE) -バンコマイシン耐性腸球菌(VRE))
・標準予防策 手洗いが対策の基本、サージカルマスクの着用
・基本的な感染予防 ワクチン接種
・新型コロナワクチンの種類と特徴
 不活化ワクチン、組み換えタンパクワクチン、ウイルスベクターワクチン、核酸ワクチン
 (DNA、mRNA)
■ワクチン接種状況 (日本のワクチン接種率 2022年3月25日報告)
 都内全人口(1回79.0% 2回78.4% 3回37.4%) 12歳以上(1回87.1% 2回86.4%  
 3回—–)
 高齢者(65歳以上)(1回92.8% 2回92.5% 3回77.4%)
 発症予防効果を維持するためには3回目接種を受ける必要がある
■ワクチンの有効性はどのように評価するか
 発症予防に対してワクチンの有効性90%とは?
 (✕)ワクチンを接種した90%の人は 病気にならない
 (〇)ワクチン接種すると病気になる確率が90%低くなる (10分の1になる)
■有害事象(副反応疑い)と副反応の違い
 有害事象(副反応疑い):ワクチン接種後に生じるすべての事象のこと(ワクチンとの因果関係が
 明らかなもの、不明なもの、他の原因によるものをすべて含む)
 副反応  ワクチンの接種によって起こる、免疫ができる以外の反応のこと
■がん患者に対する新型コロナウイルスワクチン接種
 新型コロナウイルスワクチンの接種はがん患者においても推奨される
        (休憩、室内換気)
■わが国の65歳以上の高齢者比率は世界一で今後も増加見込。それに伴い国民医療費も年一人34万円
 と増加し、65歳以上の医療費は全体の60%で年26兆円。2020年の平均寿命は、男性82歳
 (世界2位)、女性88歳(世界1位)。また健康寿命は、男性72歳、女性75歳。
■肺炎は日本人の死因のトップ5であり、 そのほとんどが 65歳以上の高齢者(97.8%)
・肺炎の負のスパイラル 高齢の方の肺炎は繰り返しやすく、入院などで体力が低下すると負のスパ
 イラル に陥りやすいため、肺炎の発症予防が重要である。
・65歳以上では、肺炎による入院で認知症の発症リスクが 約2倍に上昇するデータもある
■肺炎球菌感染症への対応  誤嚥防止対策、ワクチン接種、治療薬(抗菌薬)
                          (文責:小林(一) 文章作成・写真:青木)