2024年11月17日(日)多摩図書館2階セミナー室にて53名参加の下、開催。今回は、小島眞氏(当会会員、S45年経済学部卒)からご推挙をいただき、拓殖大学名誉教授藤村幸義(ふじむら たかよし)氏、元日本経済新聞北京支局長、元慶応大学非常勤講師を講師にお迎えし、首題をテーマにお話をいただきました。藤村氏は1967年慶應義塾大学経済学部卒で、1979年から日本経済新聞北京特派員、支局長と北京勤務6年半、2001年から拓殖大学国際学部教授、2007年から2009年国際学部学部長を歴任。講演の概要は以下の通りです。
記
1.習近平政権が内外に抱える難題
1-1.泥沼の不動産市場
上海市に住む知人のマンションの評価は最近1,2年で1億円から1/3低下し3千万円の評価損。国内の売残ったマ
ンションの在庫は2年分と言われている。この原因は①不動産は永遠だという神話の下、不動産価格の行き過ぎ
た上昇②主要購買層である新婚者の数がここ10年間で25百万から半減(一人っ子政策による少子化、教育費・
住宅価格の高騰の結果)と予想を上回るピッチで減少した、という要因を挙げる事が出来る。この結果大手不動
産会社は軒並み規模が縮小し、不動産を売って収入を得てきた地方政府はここ2年で3割減。
1-2.急速に進む米中のデカップリング
中国による米国債保有高は過去10年で42%減少。西側諸国の対中投資額は80%減少。米国人の中国留学生数
はピーク時の1万5千人から2023年には僅か350人に減少した。
日本企業の投資向け先ランキングで中国は長年一位を占めてきたが、現在はインド、ベトナムに告ぐ3位に転
落している。
1-3.強まる「締め付け」
2023年7月に反スパイ法が改正され、外国人も行動に注意を払わないと突然逮捕される例もある。メールや写
真、動画を含むデータの調査も強化されてきている。藤村さんは、10数年間「中国デスク日記」を書き続け、配
信してきたが、最近ではニュースソースを欧米や台湾のメディアに求めざるを得ないほど中国国内からの情報入
手は困難になっている。
1-4.習近平交代を求める声も
鄧小平を再評価する動きが出てきており、今、習近平が最も懸念するのは「易姓革命」(TOPがダメなら首を
付け替えろ)である。
2.それでも中国の経済成長がマイナスに陥らないのは何故か?
日本のメディアは中国のマイナス面ばかりを報じるし、日本国民の中国嫌いも顕著であるが、中国の凄い所を
見逃すと誤る、という事を中国の「IT発展」という新たな成長エンジンに見る事ができる。
2-1.加速する「ネット社会」
例として、名刺交換をせず、自分のSNSに相手を入力してデータ化する、個人の信用がスコア化され取引に使
われる、交通情報がドローンによって収集される、等々社会サービスのネット化は目を見張るものがある。強力
に普及を図っているが、便利なので国民から受け入れられている。
2-2.産業転換:不動産不況を「新エネルギー」で補う動き
NEV(新エネルギー車)が新車販売の50%を超え、再生可能エネルギーの分野でも世界の先頭に立つ、等我
国との比較においても遥かに先を進んでいる。現状では過剰生産、過当競争を招いているが、これは補助金が多
いことだけが原因ではない。中国人がベンチャー精神・スピード感に優れていること、さらに技術のモジュール
化が進むことによって、新規参入の障壁を低くしていることも影響している。この結果、EVの平均価格はEUの
半分にまで下がり、世界的なEV自動車の低価格化を先取りし、ブラジル・タイ・インドネシアでの販売も急増
している。
2-3.格差是正を目指す「共同富裕」
現政権下で、収入格差を表すジニ係数が上昇傾向にある。このため、有名人を狙い撃ちにした高所得者の脱税
摘発、収入の多い銀行員の給与引き下げ、従業員の取締役会への参加、等々の方法で格差是正を図っている。も
っとも抜本的な是正には税制改革などが必要だが、富裕層の反対が強く、実現は難しい。
3.米中関係の行方
3-1.ドナルド・トランプ新大統領の関税60%という選挙公約は実現可能か?
中国も半導体開発に力を入れ、開発拠点を急速に拡大中である。汎用電子製品の対米輸出は減少しておらず、
アメリカ人の生活が中国製製品なしには成り立たない。関税を上げると物不足・インフレになってしまう、とい
うジレンマに陥るのではないか。
3-2.グローバル・サウスを取り込む中国
上海協力機構は6か国から10か国に拡大し、オブザーバー2か国、対話パートナー14か国が参加。BRICSも加
盟国が9か国に拡大し影響力を高めている。一帯一路も諦めたわけではなく、東南アジアへの鉄路建設などは、
着実に進展している。
3-3.米中の勝負所は「生成AI」
中国のべンチャー精神により、開発の質は低いがスピードは速く、基礎技術よりも応用技術に長けている為、
AIの分野で中国が先行している。但し、強権政治、非民主主義による歪んだ発展に結びつく恐れも内包してい
る。GDPで中国は米国を抜き去ることは出来ない、との分析が一般的になってきた(近年差は広がっている)。
しかし、2年間で不動産問題が片付き、ITで花が開けば逆転もあり得るのではないだろうか。その中で、現在の
日本の実情を見ると、生成AI開発でも大きく遅れている事を認識せざるを得ない。
質疑応答:
Q:天安門事件で中国の民主化は進んだのか?
A:逆に天安門事件で民主化の芽はつぶされ、その後、強権政治が進んでいった。
Q:2027年に政権交代になった場合、はどうなるのか?
A:次の政権は今よりも穏健になる可能性がある。そうなると、中国は却って外に向かって開かれ、成長力は向
上するので、その方が日本にとって怖いかもしれない。
Q:中国の台湾進攻はあり得るだろうか?
A:台湾の新政権は独立色が強い事もあり、何かのきっかけで中国が一気に侵攻する事もあり得る。もっとも経
済面への打撃を抑えるために、短期間の作戦を取り、米国の介入が整わないうちに決着をつけようとするか
もしれない。
以上
-
-
真剣に聴き入る参加者
-
-
熱弁を振るう藤村氏