2023年4月23日(日)、多摩図書館2階セミナー室にて44名参加の下、第44回The Young Salonを開催しました。講師は国分寺三田会会員であり1967年法学部政治学科卒業の榎下信徹さんをお迎えし、「みんなで考えよう!「ODAと国益」」というテーマで講演して頂きました。コロナ感染症対策については国分寺三田会感染症対策方針に基づき「新型コロナ感染症対策推奨事項」をお願いし開催しました。また懇親会を3年ぶりに中華料理店「浜木綿」にて実施しました。ザ・ヤングサロンとして講演会と懇親会を開催することができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。講演の概要は以下の通りです。
記
第44回ザ・ヤングサロン講演会
テーマ:みんなで考えよう!「ODAと国益」
講師 榎下信徹
1.講師紹介
榎下信徹さん、1943年生まれ。1967年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際協力機構(JICA)入団後、中南米
部長、国際緊急援助隊事務局長等の要職を歴任。海外では、メキシコ、コロンビア、パラグアイの各事務所長を経
験。2003年退職後、専門技術役(準役員・嘱託待遇)として5年間、主に海外調査
に従事し、計102カ国を訪問。スペイン語通訳案内士。
現在でも開発途上国の発展のため、国際協力活動の第一線としてご活躍。
2.はじめに
昨年11月にJICA企画部長の原昌平氏よりJICAの話があった。今回は実践的な話をして欲しいとの要請を請けた。
そこで、「みんなで考えよう!『ODAと国益』」と題し、より実践的な話をする。2008年にJICAを離れたの
で、現在のJICAに即しているか分からない点もあるが、自分が経験したことをベースにいろいろな視点から話を
する。
3.講演主旨
(1)ODAと国益
①ODA予算の概要 予算は円借款、技術協力、国際機関への拠出金で構成されている。予算額は1997年をピーク
(11,000億円)とし、現在は半減(5,500億円)している。ODA予算は概ね、国の税収次第で増減する。
つまり、日本の景気が悪いと予算も減る。
②ODA(JICA)変遷の主な出来事 1954年コロンボプラン加盟でODAが開始された。当時の日本人の平均年収
は約75万円位、当時のフィリピン同等と貧しかったが、戦争への贖罪意識もあり、ODAを開始した。その背景
には1949年から15年間、ユニセフが日本の児童に脱脂粉乳を提供してくれた援助等に対する感謝の念もある。
1964年、東京オリンピックが開催されるが、新幹線、東名高速道路などの基幹インフラは、世界銀行の借款で賄
われ、その完済は1990年であった。その後、エコノミックアニマルと揶揄された日本人の働きぶりは、1979年
「Japan as NO1」と称されるまでに至る。この背景は円高の恩恵をもたらし、我が国が10年間、ODAトップド
ナーとして君臨した軌道と符合する。しかし、わが国の傲慢な経済進出はアジア諸国の反日感情を招き、その政策
を修正させられ、1989年頃からは、バブル崩壊に陥る。
1997年の湾岸戦争では、わが国は130億円を拠出したが、被援助国のクウェートからは一片の返礼も無く、人の
派遣、つまり「顔」の見える援助の重要性を認識させられた。これが自衛隊の海外派遣法の改正につながる。
2003年に緒方貞子氏がJICA理事長に就任し、新しい援助のコンセプトとして「人間の安全保障」が導入され、従
来の「国家」の視点から「個人」をベースにした案件の重要性が認識された。
③ODAのツール化(序)
2003年、ODA大綱に初めてODAが「外交のツール」として、国益を守る有力な手段と謳われた。
④「ODAの課題と国益」の連関概念図
縦軸に「案件の課題が人道・地球規模か、あるいは二国間関係の領域に属するか」、横軸に「案件の援助国と被援
助国の裨益度の度合い」を作り、各案件が図中の縦横のどの位置を占めるかを示した。
⑤国益の解釈 ODA大綱が2015年に「政府開発援助大綱」から「「開発協力大綱」に改名され、協力
(Co-operation)の主役(Operation)が被援助国であることを明確にし、自助努力による自立発展の重要性を
謳った。2023年5月に予定されている改定案では、中国の膨張政策やロシアのウクライナ侵攻などを踏まえて、
従来の「要請主義」に加え、「提案型」を掲げ、ツールとして相手国の要請を待たずに政治的に活用することを謳
う予定。
⑥グローバリゼーションと国益 グローバルゼーションは世界を小さくしたが、国情と各国の相関性を際立たせ、国
益のコンセプトを鮮明にした。WTOや国際機関の現状にその傾向が読み取れる。
⑦グローバリゼーションとODA(開発課題の例証) 「貧困」は援助の主要テーマであり、コンセプトとして「人
間の安全保障」をベースにしている。一般に協力案件は相手側とまず、「課題別ツリー」を描き、枝に課題となる
現状の諸問題を並べ、その各枝の問題解決の優先度を付け、案件を選定する。次に、特定された案件の問題分析と
解決策を協議し、そのアウトプットは目標・成果(指標を含む)・活動・投入(ヒト、モノ、カネ)を策定したプ
ロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)に反映され、両者が合意署名する。しかし、貧困削減の課題は、
その枝となる問題のセクターが広範過ぎて、特定が難し
く、二国間の協力の案件策定は容易ではない。更に、この解決のアプローチは本来、住民参加型で取り組むことが
理想であるが、広く面的な削減を図るには諸々の物理的な限界がある。やはり、国のマクロな指標とのバランスが
必要不可欠であり、解決には国の自助努力が一義的に必要不可欠である。かように地球規模とされる課題を、二国
間のみの協力で対応した場合、持続性のない一過性の人道的慈善事業に終わる危険性を孕む。
⑧メキシコへの援助に当たって思うこと(結び)
援助が貧困を優先課題とするのであれば、論理としてアフリカ諸国の優先度が圧倒的に高くなる。しかし、OECD
加盟国でもあるメキシコを、協力の対象とするのは別の論理からである。それは、ODAの外交ツールとして、国
益の概念に多様性があり、両国にとって「経済益」が高いからである。私が昨年まで参加した「自動車産業関連
プロジェクト」は、市場経済のグローバリゼーションの中、まさに双方がWIN-WINの関係に在り、その経済益を
享受できる案件であった。上述した貧困削減の成果、謂わば「地球益」とは対極の概念に位置するかも知れない。
*まだまだ話したい事、聴きたい事が沢山あったが、時間が来たためここで講演終了となった。
(文責・写真:青木)