歴史資料としての近代公文書
~その認識と保存公開の歴史~
テレビでよく見かける「アーカイブズ」って何だろう?
普段、よく眼にしているにも拘わらず、何だかよく判らない言葉である「アーカイブズ」とは一体、何なのであろうか。
日本語では「インフォメーション」と「インテリジェンス」がどちらも「情報」と訳されその区分が曖昧なように、しっかりとした意味が掴み辛い言葉として存在しているのでは?
この問いへの答えを求めて、第115回歴史をひもとく会の講演会は、令和8年8月22日(土)に東京都公文書館の研修室において、会員45名の参加の下で、この道の泰斗である太田冨康(おおたとみやす)氏に講演をしていただきました。
講演内容は、①アーカイブズとライフサイクル ②文書と記録の「維新」 ③記録管理の制度化と歴史意識 ④図書館と郷土資料 ⓹アーカイブズの誕生 ⑥わがまちの今、の六つのテーマに沿って行われました。
- アーカイブズとライフサイクルについては、記録のライフサイクルである「文書(Document)→記録(Record)→アーカイブズ(Archives)」の流れ、即ち人間の活動の中で生み出される文書や資料が保管され、その中で特に歴史的・文化的な価値があり永久に保存し利用されるものがアーカイブズであるという定義が示されました。国内外比較では、例として2,009年9月時点での国立公文書館の職員数が、米国2720名対日本47名と大幅な格差があるという興味深い数値が明らかにされました。
- 文書と記録の「維新」については、歴史的な事象をどう伝え、どの様に記録し、保存したのかについて具体的な例を挙げて解説。江戸から明治に移る革命期に、新たな制度・技術などが普及し、膨大な情報の伝達に当たり様々な工夫・改革が行われたことが紹介されました。
- 記録管理の制度化と歴史意識については、保存された文書や記録が歴史資料として認識されていく過程が時代の変遷に沿って整理され説明されました。国家機関や地方行政組織において文書の保管・記録の管理のみでなく、貴重な公文書そのものが歴史資料であるとの認識が深まり、我が国の近代国家としての体制整備と相まって、人々の意識が発達していく様子が克明に描かれています。
- 図書館と郷土資料については、保存管理を行う装置として、図書館あるいは私立文庫などの創設や、就学率の向上を背景とした施設の増設、「図書」と「記録」の区別化に伴う機能の変遷プロセスがテーマとなっています。
- アーカイブズの誕生については、我が国にアーカイブズの理解を根付かせた巨星として、佐野友三郎及び鈴木賢祐を挙げ、近代図書館発展の礎を築き上げた業績や「図書館の使命は文化の伝達にあり」とし、文書の公開という独自の使命・機能を持つ文書館の創設にも言及したことを説明しています。ここに歴史公文書としてのアーカイブズが陽の目を見ると共に、公文書管理法などの法整備も着々と充実されていく有様が解き明かされています。
- わがまちの今については、現在の国内における文書管理システムの導入状況、特に東京都内や多摩地区の各都市の現況、更に国分寺市の今を詳しく紹介しています。
さて、保存文書の集積の中から歴史的公文書であるアーカイブズはどの様に選別され、誰によって選定されるのか。それは「アーカイブズ部会」と称される専門部所でアーキビストと呼ばれる専門職を交えて選定が行われる訳ですが、その過程において、最適な選定となっているか、重要文書の選定漏れはないかなど慎重な検討が行われます。もし重要な記録が欠落していれば、その後の調査に重大な影響や訴訟リスクを引き起こす事態に繋がることが懸念されるからです。最近の例として、森友問題における大阪財務局の用地払い下げ事件が思い起こされます。相場より相当低い価格で払下げが行われた記録は残っているもののその理由が全く欠落していた事案でした。ここからアーカイブズそのものの選定に当たっては、選定側に重い職責が課されているといえるでしょう。
大量の映示資料を駆使し、長年の研究と経験に裏打ちされた講師の優れた説明力、聞き取り易い語り口に、詰めかけた45名の会員は熱心に聞き入っている様子でした。今まで抱いていた問いへの解答が講習を通して得られたとの満足感が各人の表情に表れている様であり、終了の挨拶時に講師への称賛の拍手が鳴り止まなかったことが何よりの証です。
1983年慶應義塾大学文学部卒業、埼玉県職員となる。40年間の勤務のうち、県立文書館に29年間在籍し、アーカイブズ(歴史資料として重要な公文書、古文書など)の保存公開や研究に携わり、2023年退職。その間、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、日本アーカイブズ学会などの役員、埼玉県内の自治体史編さんなどにも携わる。現在は、学習院大学・昭和女子大学の非常勤講師、国立公文書館アーキビスト認証委員会・武蔵野市歴史公文書管理委員会などの委員。著書『近代地方行政体の記録と情報』2010年 岩田書院
以上
(文責:小林千晃)


