【歴】第91回 歴史をひもとく会 開催報告

第3回 会員による歴史談義 

「歴史談義とお酒談義」

第91回の講演会は10月5日(土)、本多公民館にて、歴史をひもとく会会員のお二方の講話、及び菅谷國雄氏のご紹介による特別講師として、同級生の渡邊 護氏(蔵元;渡邊佐平商店会長、昭37経)をお迎えし、45名の参加者の下で行われました。

「会員による歴史談義」も三回目を迎え、今回は異例の2本立て。会員による講演に加えて、秋と共に日本酒の恋しい季節を迎え、蔵元の塾員によるお酒談義。しかも、講演会場で実際に日本酒の試飲も行うという国分寺三田会の分科会ならではのユニークな企画が実現しました。

 

まず、第1部は会員によるお話。トップバッターは久保田宏氏。

講演1「玉川上水の話」 久保田 宏 氏 (昭46・工) IMG_1713 - コピー - コピー

我が郷土の玉川上水はその歴史的評価も定まっており、多くの研究者によって語られています。延長43㎞、高低差僅かに92m、勾配23cm/100mを掘り進んだ難工事。さて、講師の講演はどの様なアプローチがなされるのかと興味津々の中に始まりました。
冒頭のテーマは「上水は如何に作られたか」。工区毎に、「取水口」→「河岸段丘越え」→「分水路」→「用水終端」に分け、高低差が表示された地図を併用して、ルートを確認しながら明快に解説。江戸迄の道程が明瞭に理解でき、流石は工学部出身者の話だと感心。
次に「上水開削の謎」へと話は続いて行きます。「ルートはどの様に見つけられたのか」「何故1年で開削できたのか」「何故、1年で作らねばならなかったのか」「何故、野火止用水は40日間で出来たのか」。講師は、これらの興味深い疑問に対し、その豊富な歴史の知識や深い洞察力で、まさに快刀乱麻の謎解きを行っていきます。
締めくくりは歴史のif。「もし玉川上水ができていなかったら」・・・当然水不足で、行水も打ち水もなく、粋な江戸文化も生まれていなかったであろうと結んでいます。
講師は与えられた40分ぴったりに講演を終え、会場から思わず拍手が上がり、聴衆は素晴らしい講演に「成程な」と納得しつつ、大いに楽しみました。

 

 

次に登壇されたのは斎藤信雄氏で、「日本酒のルーツ」に纏わる話です。 

講演2 「日本酒起源の考察」 斎藤 信雄 氏 (昭38・政)IMG_0098 (2)

冒頭、講師は、「私のお役目は、後にお話し頂く渡邊会長の講演への導入役です」と茶目っ気たっぷりに表明し、古事記の時代からの酒造りの歴史、日本酒のルーツについて研究成果の発表に入りました。
神代の時代から“神様はお酒が大好き”で、弥生時代に米を原料とした酒造りが始まり、やがて麹の酒が出現して日本酒の起源に繫がって行きます。律令時代に入って、技術も進み、国営の酒造りが本格化しますが、701年松尾大社を創建した秦族(秦の始皇帝の子孫と称される)に見られる大陸からの技術集団の渡来で酒造り、醸造技術は進化します。平安時代中期に入ると奈良・正暦寺を筆頭に大寺院での酒造りが本格化します。所謂「僧坊酒」の出現です。近代醸造法の基礎酒造技術が確立したと説明します。時代は進み、室町時代には幕府が酒造りを奨励し、徴税システムに組み込んでいきます。京都を中心に造り酒屋が急増し、土倉と呼ばれた金融業を兼営する特権階級に成長して行き、その後の酒を中心とした文化の発展が現代に繫がっていると説いています。
特に、日本酒の起源を祀る三大神社として「大和の大神神社」「出雲の佐香神社」「京都の松尾大社」を挙げていますが、講師の強みは、実際に現地に行って自らの目で確かめてきていることで、話の一つ一つに説得力があることです。前回、前々回と古事記についての講演をして戴いた講師の知識の確かさ、会員から“古事記の斎藤さん”と慕われる同氏の面目躍如たるものがあると感じ入りました。

 

第2部はいよいよ試飲会付きのお酒談義です。

講演3 「お酒談義」 渡邊 護 氏 (昭37・経)IMG_1737 - コピー

日本酒「陸の王者」醸造元 (株) 渡邊佐平商店 代表取締役 

講演は自作の資料に沿って、まず、福沢先生が日本酒党であったという話題から始まります。洋酒はあまり好まず、酒品の好い愛飲家であった由。続いて、日本酒の原材料別の製品表示、日本酒の特色や効能等々話は多岐に亙ります。講師の話術はそこかしこにウイットが潜み、当意即妙かつユーモラス、聞く者の気を逸らさぬ“名プレゼンテーター”です。歯切れのよい説明は正確で、口に含んだお酒が体に沁み込んでいく様に内容がよく判ります。飲み方や使われる酒器の話では、予め実物を持参しての実演付きです。解説が一段落して閑暇休題。そこで氏曰く「さあ、会場がシーンとなった処で試飲にしましょう」。

試飲会に供されたお酒の銘柄は以下の4種、それぞれ4合瓶×2本です。

・純米大吟醸 「清開」    ・きざけ 「日光誉」
・特別純米 「陸の王者」   ・樽まろ 「日光誉」

 会員は、それぞれの銘柄の味と香りを飲み比べて、その違いや味わい等をお互いに確かめながら大いに楽しんでいます。一通り試飲を楽しんだ後に続く話は、日本酒を中心とした食文化について。
日本食は、栄養素のバランスが良く、魚介類の摂取が多くかつ生食で効率の良い食べ方であり、日本人の健康寿命は世界一。また日本の食材は種類が多く1200種類、フランス料理の2.5倍、中国料理の1.5倍、また、調理器具の種類も世界一。適量飲酒は健康増進に効果抜群、等々日本酒に関わる興味の尽きない話が続きます。その知識は膨大で、醸造の権威者、蔵元としての威厳すら感じられます。
最後に、現在80曲程ある酒造り唄の中から、越後の杜氏と南部杜氏の唄う酒造り唄を2曲、ご本人の喉をご披露頂いた処で終演。“粋なエンターテナー”の側面も窺えました。会場は、まだまだ聞き足りないという雰囲気で、特に今回は講話に加えて日本酒の実物を味わい、皆幸せそうな表情で笑顔に溢れ、至福の時を大いに楽しみました。

以 上