【Y】第29回 The Young Salon講演会を開催しました

【テーマ:AI、IoTがもたらす交通革命】

 2018年8月11日(土)、本多公民館2F講座室において第29回The Young Salon講演会を開催しました。
講師には山内弘隆氏(一橋大学大学院教授)をお迎えし、テーマ「AI、IoTがもたらす交通革命」の下、約2時間の講演を頂きました。会場には38名の皆様にお集り頂き盛況な講演会となりました。
引き続き行われた懇親会でも、山内先生を含め16名の皆様に参加頂き、大変盛り上がりました。以下講演要旨です。

  1. 交通経済学とは
    (1)慶應義塾大学の交通論
    私は慶應義塾大学で藤井彌太郎先生に、また増井健一先生の「交通経済学」で交通論を学んだ。交通経済学の研究では、社会的にも大きな影響力のある鉄道がテーマになる。チャンドラー氏はその著書「経営者の時代」の中で鉄道を取り上げ、またケンブリッジの経済学者A.C.Pigouは1920年の著書「厚生経済学」第4巻で“差別化”について述べているが、その題材が鉄道である。彼のもう一つの理論として“混雑”がある。混雑は車が道路の処理能力以上ある為に発生すると言うもので、これらが交通経済学の出発点である。慶應義塾大学では交通論をこうした経済学的な分析から論じている。
    (2)一橋大学の交通論
    一方、一橋大学においては関一先生が一橋大学を卒業し大蔵省に入省した後、再び学校に戻り交通論が教えられたが、より実学的であると思う。関先生はその後大阪市長に転向し、大阪で御堂筋の拡幅、公営住宅の整備、大阪市立大学の開校等都市整備に尽力、「シティプランニング」という外国語を「都市計画」と訳したのも関先生である。交通関係では日本発の公営地下鉄「御堂筋線」の建設、費用回収の一環として駅周辺の土地所有者に負担頂く方式を導入した。鉄道建設は駅周辺の地価を上げる効果がある事から、受益者に負担を求めたものである。(受益者負担型)
    他方、阪急電鉄の小林一三氏は沿線に宅地を造成し開発利益を創出、また大阪の中心から離れた宝塚に歌劇・遊園地等の拠点を創り鉄道の利用率を高めるなど、多角的手法により鉄道の建設費用を確保した。
    (開発利益還元型)
    もう一つの開発費用捻出方法は、鉄道開設に伴う地価上昇が鉄道周辺住民の固定資産税の増額を生み、役所に増収をもたらす事から市に相応の出資を求める方法である。(出資型)
    (3)交通の需要予測の考え方
    地域間の移動手段や、夫々の手段による移動人数等を変数として、「4段階推定方式」により交通の需要予測が実施されている。交通については他の需要予測に比べより緻密な予測値を算定しているが、実際に予測通りの結果になるかは難しいのが実情である。
  2. AIIoTがもたらす交通革命
    (1)AIとは何か
    AIの基本構成は、ある入力に対し機械が判断し出力するというものであるが、この判断は、従来に比べ圧倒的に多量のデータ(ビッグデータ)が取れるようになった事から、機械がこのデータを使った学習(deep learning)により、判断力を高め、且つコンピュータ技術を駆使し迅速な出力を可能にするというものである。またデータ自体その量の多さに加え、種類(質)も進化している。
    ①入力
    システム・センサー技術等の発達により画像認識等も高度化している。最近 では感情を読み取れる技術発展もあるようである。
    ②処理
    グラフや表による見える化、IoTを使った検出物の劣化状態の把握、通信技術 の進化(5G等通信技術他)などにより処理スピードも迅速化している。
    ③論理
    蓄積データからの検索・プランニング、コンテクスト(文脈)からの推論プランニングの最適化、対話・質疑応答も可能
    ④出力
    画像、音声、バーチャル・リアリティ、ロボット等により出力。
    このように、AIはその構成により外部からのインプットがあると、機械が計測し、判断し、実行に移すループの中で計画を最適化する。その際に出力されるデータは更に蓄積・フィードバックされ、益々AIの力を高めて行く。こうして将来はAIが人知を超えるシンギュラリティの時代が訪れるかも知れない。
    (2)自動運転の現状
    さて、それではAIは交通に如何なる影響をもたらすのか。自動運転の分野ではインフラ協調型として道路と一体になり、自動運転を開発する方法があるが、これまでの処この方式は中々進展がなく、車にセンサー・カメラを備えて周囲の状況を捉えながらの開発が進められている。最近米国で自動運転車の事故があり水をさされた感があるが、大きな流れは変わっていない。
    自動運転技術はレベルが0~5の段階で表示され、現在は車の前後左右をコントロールしてドライバーを支援するレベル2の段階にある。レベル3では特定の場所でシステムが全てを操作出来るが、緊急時はドライバーが対応するというもので、本年中にこのレベルの車が発売される可能性もある。レベル4では特定の場所でシステムが全てを操作、また最終のレベル5では場所の限定なくシステムが全てを操作する段階に到達する。現在様々な地域で実験がなされているが、地方都市・山間地等で地域限定の完全自動バスを走らせる計画もある。将来的にはタクシー、バス、乗用車が完全自動運転化される可能性がある。鉄道についても自動運転化の開発が進められている。
    (3)AI活用事例・マッピング
    AIについて現状では未だ人の眼には余り目立たないが、ホームからの転落防止、問合せ対応、遅延時間予測、列車の混雑予測、多言語案内、接客・案内の自動化、ダイヤ改正の支援、データの集約・分析等、幾多の活用事例がある。これら各事例の現状と将来動向について「事例マッピング」に纏めてみた。
    ここで言える事は、現状AIは車の配車等「オペレーション分野」で実用化され最適化が進んでいる。また「メインテナンス分野」でも常時カメラ等で情報を捉え分析を行うなど実用化が進んでいるが、「計画分野」では実験段階・技術開発段階にあると言える。未だ交通革命に繋がる域にまでは達していないのが実情である。何か別の画期的な技術が出て、相俟ってブレークスルーが生じる可能性はあるが、今暫くの間は静かな時代が続くかも知れない。

<山内弘隆先生プロフィール>

1985年3月  慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了
1986年4月~1987年3月  中京大学商学部講師
1987年4月~1991年3月  中京大学経済学部講師
その後、一橋大学講師・助教授を経て
1998年4月 一橋大学商学研究科教授
2005年1月~2008年12月  一橋大学商学研究科長兼商学部長
2017年4月~ 一橋大学大学院経営管理研究科教授

講演風景1