2025年4月27日(日)都立多摩図書館2階セミナールームにて42名の参加者で開催した。今回は慶應義塾大学法学部名誉教授 赤木完爾(あかぎかんじ)氏による講演であった。赤木名誉教授は1977年法学部卒業、大学院修士課程終了後、防衛研究所に 勤務。1989年法学博士。1990年に慶應義塾大学法学部に転じ、2019年まで国際政治、安全保障論を講じた。
≪講演概要≫
1.幾つかの前提
米国は『唯一の超大国』ではないものの軍事分野では「代わりの利かない大国」である。
・圧倒的なGDPの規模(数年前まで中国が米国を抜くとの見方もあったが、近年の失速により、米国の地位は揺るがない。 だが中国は米国の7割の規模になった過去に例のない国である)
・ソフト、サービスの分野における圧倒的な強さ。
・中ロ以下日本を含む14か国の国防費の総合計に匹敵する規模の国防費の規模である。
2―1米ソ冷戦の特質
・異なる社会体制の優劣を巡る闘争であった。
―イデオロギーと権力の合体
―東西両陣営の組織化:NATO対ワルシャワ条約機構
―グローバル単位での権力政治ゲームであった。
・米国の目標:ソ連の封じ込めと抑止
2-2冷戦初期の2つの事実
・欧州における東西間の一触即発の対峙
・核兵器の急速な発展
―キューバ危機、Able Arncher危機:いずれも米ソ二国間の直接対話で危機を回避した(両国による裏取引もあった)。
⇒相互確証破壊状態による関係の安定をもたらした(両陣営とも核兵器の使用は破滅をもたらす、という点で一致していた)
2-3冷戦における構図
・米国:欧州、日本への拡大抑止を提供
欧州において、一定の兵力水準を維持するも、武力行使は回避する。
・ソ連:米国に対し核兵器の脅威を確立
東欧の陸上兵力の強化維持、及び第三世界において西側に圧力をかける。
3.冷戦下における力の均衡の変化
3-1西側諸国の繁栄
・安定した安全保障下、国際経済制度の下で繁栄した。
・超国家、非国家組織の増加:IMF,GATT,等
⇒東西両陣営間に経済的相互依存関係が無かった為に一層繁栄の差が際立った。
3-2冷戦の終結:1991年ソ連の崩壊とともに冷戦は終結。
4.冷戦勝利と冷戦後の世界
4-1冷戦後の世界
・米国単極時代
・新たな紛争要因の出現:民族自決主義をキーとした分離主義(ユーゴ内戦、チェチェン、チベット、ウイグル、等)、失地回復(台湾、ウクライナ、等)、更に非国家主体のテロ。
4-2核兵器と核戦略:冷戦後軍事介入成功のための全般的優位の一部として核兵器が位置付けられた。一時核軍縮の動きはあったが(オバマ時代)、新たな保有又はその疑い、中国の核保有数の猛迫、等により核抑止の再構築に進んだ。(核保有9カ国の人口は地球全体の人口の半分に達する)
⇒冷戦後の地域紛争は「安定・不安定の逆説」Stability, Instability Paradox と表現される。
4-3米国の苦悩
・国際関係における責任分担の不在:冷戦中、東側に対しては無関心でいられた。
・破綻国家の出現:介入すると再建責任まで負わされる。
・米国内で冷戦に対するコンセンサスが崩壊した:これが後に自国第一主義へと発展。
・中・ロをリベラルな国際秩序に取り込む試みは失敗した。
5.「冷戦後」の終わり=トランプ政権と米国対外政策の変容
5-1唯一のコンセンサスは中国こそ唯一の競争相手である、というもの。
・不当な競争御で米国の利益を奪った。
・追い上げる中国:インド・太平洋地域の覇権を狙ってくる。
5-2従来の対外関与路線を否定⇒米国の国力の再生に繋がると確信。
5-3力と利益の外交への転換
5-4 NATOと日米同盟への衝撃
・欧州の軍事力はロシアと拮抗している(懸念は小さい)。
・日本からアジア、オセアニアの国々の軍事力は総合しても中国の半分に満たない:この地域においては米国の存在抜きに均衡はあり得ない(中国同等の軍事力を持つにはGDPの3.5%の軍事費が必要となる)。更に、米国の後退により、アジアの中には中国にすり寄る所も出るやもしれない。
一つは対外関与に懐疑的なMAGA派:Make America Great Again一辺倒の人達。
他方、中国への対抗を重視するPrioritiserと呼ばれる人たちである。
熱弁を振るう赤木名誉教授 熱心に聴き入る42名の参加者