【Y】第34回 The Young Salon講演会を開催しました

テーマ:「EUを観て日本を考える」

7月28日(日)午後、ひかりプラザにて45名参加の下、第34回The Young Salon講演会を開催しました。講師として1973年慶應義塾大学経済学部卒の塩尻孝二郎氏をお迎えし、「EUを観て日本を考える」をテーマにお話を頂きました。塩尻氏は塾在学中の1972年に外務公務員上級試験に合格され、卒業後に外務省に入省、駐大韓民国日本国大使館公使、駐アメリカ合衆国大使館特命全権公使、外務省官房長、駐インドネシア共和国特命全権大使、欧州連合(EU)日本政府代表部特命全権大使の要職を歴任され、2014年に外務省を退官後現在は、外務省参与(査察使)、一般社団法人霞関会理事長、一般財団法人日本インドネシア協会副会長、ANAホールディング株式会社常勤顧問等を勤められています。尚、引き続き行なわれた懇親会には講師を含め23名が参加し、和気藹々の楽しい会となりました。講演の概要は以下の通りです。

外務省勤務41年間のうち合計19年間は在外勤務。アジア、アメリカ、欧州で、それぞれ2回ずつ勤務をした。現在、EU、イギリスが混迷している。EU、英国が荒波をどう乗り越えて行くのかを観察しておくことは、日本の今後を考える上で大事であると思う。「EUを観て日本を考える」というテーマでお話ししたい。

    1. EUの姿
      (1)壮大な政治・経済統合への歩み
       EUは、欧州の人々が英知を絞って取り組んでいる壮大な事業である。現在BREXITが混迷しているが、EUは、後戻りすることは許されない、前に進まざるを得ない事業であり、歩み続けると思う。人口、GDPそれぞれ日本の4倍、1人当たりのGDPは日本とほぼ同じ。加盟28カ国、そのうちユーロ通貨使用は19か国である。ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペインの5カ国でEU全体のGDPの80%近くを占めているが、一口にEUと言っても、多様な国々から成っている。EUは一隻の大きな船ではない。「船団」である。大きな船、そうでない船、いろいろな船からなる「船団」である。一体となって進むのは容易ではない。EU連邦、欧州合衆国の議論はあるが、現在は非現実的である。EUという28隻の船から成る船団が、今、荒波の中を進んでいると言える。
      「EU船団」には「掟」がある。政治基準(民主主義、法の支配、人権、少数者の尊重・保護等)、経済的基準(市場経済等)を満たさなければならない。加えて、EUの法体系受け入れなければならないという「掟」である。EU加盟国は、こうした「掟」を守りながら、EUの深化(関税同盟、域内市場統合、共通通商・農業政策、経済・通貨統合、共通外交・安全保障政策等)と拡大(1956年6カ国の原加盟国から現在は28カ国の加盟国)を果たして来た。「深化」について言えば、EUの存在感は、経済分野だけに止まらない。「潮流を作る力」、例えば、環境、人権等の社会的分野、あるいは、外交、安全保障の分野でも際立つものがある。「拡大」については、ベルリンの壁の崩壊後、東欧の諸国がEUに加盟し、現在は28カ国。様々な背景を持つ加盟国が増え、纏まる力、結束力をどう維持するかが、益々大きな課題となっている。
      (2)壮大なコスト手間(議論 コンセンサス)
      EUは28カ国が纏まる為に膨大なコスト、手間をかけている。加盟各国の間で、経済力、考え方、メンタリティーも違う。意思決定では特定多数決で決められる事項もあるが、重要事項や外交関連の決定等では、全ての国が等しく拒否権を有している。公用語は24カ国語(文書も24カ国語で作成)。基本的には、加盟国の全員一致(コンセンサス)で物事を決める。トコトン議論をして、結論を出す。その手間、コストは計り知れないものがある。EUの真髄は、「議論すること」、「違う意見、立場の中で、徹底的に議論して妥協点を見つけること」。そのEUと向き合うには、「説明力」、「説得力」だけでなく、「信じさせる力」が必要と痛感してきた次第である。
      (3)課題・問題点
      第二次世界大戦後、ベルリンの壁崩壊を経てリーマン・ショックまでは、欧州憲法条約の挫折等はあったものの、平和・安全の構築、定着、旧ソ連邦の下にあった東欧諸国の加盟によるEU拡大、共通通貨ユーロの導入等により、EUの吸引力、結束力に繋がった。リーマン・ショック後、ギリシャ問題、欧州債務危機、ウクライナ・ロシア問題、中東からの難民問題、BREXITと荒波に揉まれている。その中でここに来て心配な要素は、「各国の事情」、「各国の利益」がEU各国間の議論においてウェートが大きくなっており、ポピュリズムの高まりと相俟って、EUの纏まりを阻害する要因となってきていることである。BREXITについては、2016年の国民投票で、英国離脱派が掲げる「主権の回復」、「移民の規制」の主張が多くの英国民の支持を得た結果である。「主権の回復」については、EUが立法権を有する分野でEUが定める法令が英国に適用される為、英国議会の関与が十分に及ばないことへの懸念、不満が背景にある。「移民の規制」については、2004年以降の中東欧諸国の加盟拡大により、200万人以上の「EU市民」が就業し、「英国市民」の職を奪い、社会保障をただ乗りし、治安が悪化しているとの懸念、不満が背景にある。2017年からEU離脱の交渉が続けられている。英国の離脱はEU諸国側にとっても大きな損失を伴うが、「EU船団」から抜けようとする国に対しては厳しい。強硬派のジョンソン氏が首相になり、本年10月末の期限までにイギリスはどのような判断をするのか、大変厳しい局面にある。

 

    1. 日本とEUとの関係
      EUは日本をlike-minded country、同じ価値観を共有出来る「同志」と位置付けている。EUの「掟」の根幹は、法の支配、人権、民主主義という普遍的価値の遵守である。日本と、そうした「掟」を持つEUとは、一緒に取り組み、他の諸国をリードするという分野、例えば、法の支配、民主主義、人権と言った社会制度の分野、環境保護、社会保障、教育、衛生等々がまだまだ沢山ある。日EU・EPA(経済連携協定)と共に、本年(2019年)暫定適用を開始した日EU・SPA(戦略的パートナーシップ協定)は、正にこうした40の様々な分野での日本とEUの協力関係強化を目指したものである。

 

  1. 雑感
    今後グローバル化の進展、技術革新により、世の中が変化する速度は益々早くなる。その中で今までの価値観、物の見方も含め変わって行く。EUを観ているとその感を強くする。国の姿も、風や雨、自然の力で岩山の形が変わるように否応無く変わって行く。でも、その中で、受動的ではなく、能動的にどう変えて行くのか、変えないのか、変えさせないようにするのかを良く考えて行かなくてはならない。いろいろな価値観が変って行くことがあっても、究極の価値観、人間の尊厳、民主主義、人権、法治主義は守らなければいけない。もう一つ大事なのは、何かあった時に頼れる、頼りになる同志、仲間が必要だということである。その為には、サポートしなくてはならない、守らなくてはならないと思わせる魅力が必要である。日本は、こうした魅力のある国である。魅力を持ち続けるためには、社会が、人が輝き続ける必要がある。人が輝く為には、生き抜くこと、志を持ってやりたいこと、出来ることを最後までやり抜けることが必要である。人が生き抜けるようにする社会の責任、人は生まれた以上、生き抜く責任がある。これからの社会、国のキーワードは、智慧、責任、スクラムを組める力だと思う。日本は何れもある。これらをもっと強くし、どんな風雨にも耐えられる素晴らしい国であり続けなければいけないと思う。引き続き、「EU離脱の方向の中でイギリスは今後どのようになるのか」「EUの価値観について」の意見交換があり、講演会を終了しました。

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